上 下
188 / 247
ベアルダウン王国編

172話 主人公、自給自足を経験するー2

しおりを挟む
 

「アタイはドラゴノイドだ。ドラゴノイドの先祖はドラゴン。いろいろ調べたけど、ドラゴンについては良く分かってないことだらけなんだ。ドラゴンに関する遺跡や神殿が極端に少ないって理由もあるけど。」

「じゃあ、ユーリが国外専門の冒険者になったのは…。」

「そうさ。国外にある遺跡や神殿を見つけるためだよ。」

「国外って7つの国以外ってことだよね。広いの?」

「この世界の半分は海で、半分が陸地だ。その陸地の5分の4にあたるのが、7つの国。そして残りの5分の1が、暗黒大陸や小島などだ。」

「じゃあ、その5分の1の陸地を冒険してるってことだね。」

 暗黒大陸は、アースの南極大陸くらいの大きさだと言っていた。だとしたら、かなりの広さだ。

「そんな広いところを冒険してるの?紋章システムが使えないから、大変じゃない?」

「国以外の場所は、誰のものでもないから、ルールも何もない。それこそ、人を害してはいけないってルールもないからね。危険だよ。でもアタイは、ドラゴノイドだ。身体能力も高いし、精神耐性もある。この仕事は、まさに天職だと思ってるよ。それに、アタイは元々、あまり紋章システムを使わないし。ただ、パートナー精霊と話せないのは少し寂しいけど。」

 そうか。紋章システムが使えないということは、物が出せないだけじゃなくて、パートナー精霊も具現化できないんだったな。

「ユーリはミライのこと知ってるの?」

「ジルのチームが開発した人工精霊って聞いてるよ。だから具現化しているんじゃなくて、実体がある。そしてこの世界初だから、秘密なんだろ?誰にも言わないから、安心しなよ。」

 国外に一緒に行くなら、ミライのことは知っておいてもらわないとな。
 ユーリはベアルダウンの王宮に所属していると言っていたから、守秘については安心だ。

「じゃ、その島に行って、神殿を調査するってことだね。いいよ。国外活動装置もあるし、ユーリも紋章システムが使えるなら、すぐに行って帰って来れるよね。」

「いや、それが。あの島にはちょっと事情があって。それに、リオンとシオンに鍛えてくれって頼まれたから、今回は紋章システムは使わないよ。」

 リオンとシオンに?
 2人をチラリと見ると、笑っている。

「タクミって、サバイバル体験したことないでしょ?」
「この世界の子供達は、全員体験してることだからね。ユーリにお願いしたんだよ。」
「大丈夫!そんなに広くない島だから。食材も水も豊富にあるし、ユーリが一緒ならまず飢えることはないから!」

「そうさ。その島には、アタイはいつも手ぶらで行くよ。気候は温暖だし、果樹も多いし、川もある。問題ないさ。」

「いや、でもさすがに何も持っていかないっていうのは無理だよ。サバイバルなんて、経験ないし。」

「大丈夫さ。その島までは、このハドリー岬からホバーで行ける距離だから。ホバーで海を渡るんだ。島に着いたら、コッソリ建てておいた森の中の小屋にホバーを置いて、神殿に向かう。そんな予定だ。」

「直接、ホバーで神殿に行けばいいんじゃ?」

「じつは事情があって、神殿の近くではホバー禁止なんだよ。今は詳しく話せないけど、神殿が近くなったら説明するよ。」

 よくわからないが、事情があるなら仕方ない。それに、途中まではホバーで行けるなら、案外楽勝かも!

「それじゃ、明日の朝、出発だ。頼んだよ。」

 こうして僕は、謎の神殿があるという島へ行くことになったのだった。



 次の日の朝。
 ユーリの言ったとおり、ホバーに乗り、何も持たずに島に向かう。

「ホバーって海の上でも走ることができるんだね。」
 感心してつぶやくと、ミライが答えてくれる。
「あい!ホバーは空中に浮いて進む乗り物だからね。海の上でも全然問題ないよ。」
「でもホバーの動力は精霊なんだよね?海の上で使えなくなるなんてことは…。」
「今から行くのは、暗黒大陸じゃないから大丈夫だよ。精霊濃度が低い場所があるだけで、精霊は存在してるんだから。問題なく乗れると思うよ。」

 あっ、そうか。精霊が居ないのは、暗黒大陸だけだったな。

 海の上を1時間くらい進むと、目の前に島が見えて来た。砂浜から島に上陸し、森の方へホバーを走らす。森の中をしばらく行くと、質素な小屋を見つけた。

「これがアタイが建てた小屋だよ。その辺の木を切って、自力で建てたんだよ。」

「ホームにいる頃に、簡単な小屋の建て方を習うって聞いたけど、ユーリだけで建てたの?すごいな。」

「この世界の人なら普通だよ。それにこれは一番簡単な小屋だし。まぁ、倉庫代わりに使ってるだけだ。じゃ、ホバーをこの中に入れて、ここからは徒歩で神殿に向かうよ。」

 ユーリはそう言うと、背中に大きなリュックを背負う。

 ユーリが乗ってきたホバーは、座席の下に収納スペースがあるタイプだったようだ。

「あれっ?手ぶらで来るって言ってたよね?」

「あぁ、コレのことは歩きながら話すよ。まず行き方だけど、ここから神殿までは、最短距離で数キロだ。」

 数キロ?じゃあ、すぐ着くな。

「ただし!最短コースには難関がある。2000メートルの岩壁があるんだよ。それを登りきった上に神殿は建っている。」

 2000メートル?

「まさかとは思うけど、それを素手で登るの?」

「なに言ってるのさ。タクミもドラゴノイドに変現できるようになったんだろ?手や足を鋭い爪に変化させて、それで登るんだよ。」

 なるほどね。それなら登れそうだ。あとは僕の体力が持つかどうかだけど。

「あっ、そうだ。僕がドラゴンに変現して飛んで行けば早いよ。」

「それは却下だ。ドラゴンに変現するのは無し。」

「どうして?」

「それが、ホバーで神殿に近づけない事情とこの荷物の理由だよ。その神殿の近くには、紋章システムを放棄した人達が、住んでるのさ。」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

【完結】暁の荒野

Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。 いつしか周囲は朱から白銀染まった。 西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。 スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。 謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。 Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。 Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。 キャラクターイラスト:はちれお様 ===== 別で投稿している「暁の草原」と連動しています。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 ===== この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。

ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ
ファンタジー
大陸の端に存在する小国、ボーンネル。 バラバラとなったこの国で少女ジンは多くの仲間とともに建物を建て、新たな仲間を集め、国を立て直す。 そして同時にジンを中心にして世界の歯車は動き出そうとしていた。 これはいずれ一国の王となる少女の物語。

悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第2部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました ★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第1部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

処理中です...