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ベアルダウン王国編
167話 主人公、スローライフを満喫するー3
しおりを挟む「ガッツの育てたタブルーは料理人に人気だったべ。でもガッツは、タブルーを譲るのを、ずっと断り続けてた。オラは不思議に思ってただが、ガッツが亡くなった後に真実を知っただ。ガッツは、料理人だった嫁のためにタブルーを飼育していたと。」
嫁のため?
「ガッツには、嫁が一人いただよ。嫁はグランエアド王国で料理店をやっていた。グランエアド王国は、芸術の国だべ。それを見るために、様々な国の人が集まってくる。嫁はそこで、タブルー料理を振舞ってただよ。」
「この世界ってお金っていう仕組みはないから、タダで提供してたってことだよね?」
「んだよ。だから1日何食までって制限があるのが普通だべ。料理人は料理を作るのが仕事。そして、これだっていうレシピができたら、それを紋章システムに公開するだ。」
この世界での仕事は、紋章システムに公開することで完了する。料理人であれば、レシピの公開が仕事の完了報告だ。一年に一回は公開しないと、紋章システムを使えなくなるという。
「毎日、料理を提供する料理人もいれば、一ヶ月に一回っていう料理人もいる。紋章システムに情報が公開されてるから、それを見て、食べにいくだよ。公開されてるレシピで紋章システムから出すのもいいだども、直接食べに行くのはまた違うから。」
「作ってるところとか見るのも楽しいよね!」
「ソラもそう思うだか?オラもそうだよ。気が合うだな!」
タムに気が合うと言われて、ソラはとても嬉しそうだ。
「ガッツは嫁のためにタブルーを飼育していたが、その嫁が先に亡くなった。その後は、どの料理人にも譲らずにいた。そして、弟子になったオラに言っただ。オラがいいと思った料理人にだけ、タブルーを譲ってくれと。」
ガッツはその人のことをすごく愛してたんだな…。
「この世界には、カネがないからね。カネによる上下関係なんて無いんだよ。このタブルーを使いたい料理人は、飼育している本人に頼み込んで譲ってもらうのが普通だ。そういうことなんでしょ?」
「んだよ。さすがソラだべ。理解が早いだな。」
そうか。この世界で何かを作っている人達は、お金を稼ぎたいからしてるわけじゃない。だから、金の力で強引に手にしようとしても、できないんだ。
「この世界では、本当に欲しい人に譲るのが普通だべ。その方がこっちも嬉しいべ。」
そうだよな。
僕のいた日本では、転売屋ってのが問題になってた。安く仕入れて高く売るのは、商売の基本なんだけど、本当に欲しい人が手に入らないのは問題だし、定価より高いお金で買うってのもどうなんだろう。法律的には問題無いのかもしれないけど。
「ボクが知ってる500年前まではカネっていう仕組みがあったから、それこそ買ったものをどう扱おうといいだろってヤツラはたくさんいたよ。一口だけ食べてあとは全部捨てる、そんなヤツもいた。」
「昔は、そんなことする人がいただか?今のこの世界には、そんな人はいないだよ。子供の頃に自給自足を学ぶから、食べること、モノを育てることの大変さをみんなが知ってるだ。」
「いい世界だよね。僕は祖母に育てられたから、食の大切さを厳しく教えられたよ。でも、そうじゃない人もいっぱいいたな。コンビニに行けば、なんでも買えるし。それこそ、動物の肉を食べてるって自覚のない人もいっぱいいたよ。」
「んだ。食べるってことは、生物の命をいただくってことだ。それを自覚しない人には食べてほしくないだよ。少なくとも、オラのタブルーはそれを分かってる料理人に譲りたいだよ。」
「タム達は、ホームで自給自足の生活をしてるんだよね?もしかして、屠畜も?」
屠畜とは、家畜を食用目的で殺すことだ。
「んだよ。もちろんだべ。だからオラ達は、子供の頃から命をいただくってことを本当に理解しているべ。」
「日本なら、そんなことは絶対に子供にはさせないよ。残酷だから。」
「それはダメだべ。残酷でも、それが食べるってことだべ。じゃあ、残酷だって言う人達は肉を食べないだか?現実から目を背けてはいけないだよ。肉を食べようと思ったら、屠殺は必要だ。誰かがそれをやってくれるから、食べられるんだべ。」
「そうだよね。だけど、僕が住んでいた日本は、そういうことは隠そうとするんだよ。」
「隠す?どういうことだべ?子供に現実を教えない大人がいるってことだか?」
「そういうことは、大人になってから知りなさいって考えてる人も多いんだよ。」
「それは間違いだべ。生きていく上で直面する現実は、成人前に学ぶべきことだ。そんなことも知らない子供は、この世界では成人できないべよ。」
「そうだよね。だから日本人は、大人なのに幼いって言われるのかもしれないね。」
「この世界では、自給自足できない子供は大人になれないべ。タクミのいた日本ってところとは、真逆だな。」
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