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イリステラ王国編
155話 主人公、愛を知るー3
しおりを挟む「友達と恋人の違い…。ふふっ。難しいこと聞くわねぇ。そうねぇ。一般的には、相手のことが好きで好きで仕方なくて、相手を独占したくなって、裏切られた時にものすごく憎くなる、こんな感じが恋愛の"好き"だと言われているわ。」
「んっ?でもそれって、友達の"好き"でもあるよね?ものすごく仲の良い親友が他の友達と遊んでたら、なんかショックだよ。」
「そうよねぇ。これは一般的な話。私が思う、友達と恋人の違いはただ一つよ!」
「それはなんだべ?」
「性行為をしたいかどうかよ!」
ドヤ顔で、ハッキリと言いきるイリス様。
そっ、それはそうかも。友達とはそういうことしたいと思わないからな。同じくらい好きな人がいても、友達とはしない。恋人だから、そういう行為をする。なるほどなぁ。
「ティアはラシードのことをそういう意味で好きだっただか?」
「そうよぉ。いつも言ってるわ。ラシードの子供を産んであげたかったって。」
「ティアはずっとこのままなのかな?このまま、運命の人を探しながら、この国を見守り続けるの?」
「仕方ないわ。それがティアの望みなんだもの。だから代々のイリステラ王は、ティアのために、ティアの相手に忘却の術を使うのよ。」
「ティアには幸せになってほしいよ。まだ出会って少ししか経ってないけど、大事な友達なんだ。」
「んだんだ。オラもそう思うべ。」
「ありがとう、タクミ、タム。ティアは幸せよね。こんな良い友達が出来たんだから。」
イリスは、ティアが横になっているベッドの方を愛おしそうに見ている。
イリス様もティアが大好きなんだな。
「あっ、タクミ!ティアが起きたみたい。」
ティアの側で様子を伺っていたミライが、パタパタと飛んできて教えてくれる。
「あれっ?ここ、どこ?」
「ティア、目が覚めた?」
「あれっ?タクミ?タム?あれれっ?イリス様?」
「タクミとタムがティアを連れてきてくれたのよぉ。ちょっとはしゃぎ過ぎて疲れちゃったのかしらぁ?」
「あっ、そうだったの。タクミ、タム。ありがとね。」
ティアがニッコリ笑う。
ジャンのことは覚えていないようだ。
人は心を守るために、一部の記憶を忘れるようになっていると聞いたことがある。ティアは、ジャンに会ったことを覚えていないのだろう。
その方がいいよ。
あんなにヒドイことを言われた記憶なんか、忘れた方がいい。
『ティアのことを愛する人なんて永遠に現れない』
そんな記憶は無くなった方がいいんだ。
でも。
ティアのこの状態…。このままでいいのかな?恋や愛を知らない僕が言うのは、間違っているのかもしれないけど。
「ティア。ラシードのことを聞いたよ。」
「そう。タクミ達だったのね。誰かがラシードのことを話してるのが聞こえたの。ティア、ラシードの夢を見てたわ。夢の中でもラシードに会えて、幸せだった。」
「ティアは本当にラシードのことが好きなんだね。」
「うん!大好きだよ。」
「ティアはさ。ラシードがアリアと結婚したら、ラシードのこと好きじゃなくなった?」
「ううん。ラシードが誰と結婚しても、ラシードのことは大好きだよ。」
「じゃあさ。ラシードがアリアと結婚してたら、ティアはラシードのこと好きにならなかった?」
「ティアとラシードが出会う前に、ラシードがアリアと結婚してたらってこと?」
ティアは少し考えた後、こう答える。
「それでも…。それでもラシードのことは好きになったと思う。」
「ティアにとっての運命の人ってさ。愛した人に愛されることなんだよね?」
「うん。ティアが愛した人には、ティアだけを愛してほしいの。」
「ティアだけじゃないといけないの?どうして?」
「どうしてって…。それが運命の人なんでしょ?」
「僕は、それは違うと思うんだ。だって、ラシードもティアのことを大好きだったと思うから。それ、その指輪ってラシードからのプレゼントでしょ?」
僕は、ティアが小指にはめている指輪を見つめる。ティアをドラゴンの瞳で見た時に気になっていた。僕は再びドラゴンの瞳を発動させる。
「そこから、強い思いが伝わってくる。ティアの事が大好きだ、幸せになってほしいって感情がね。」
「この指輪はラシードからもらったの。小指は運命の人に繋がってるからって。」
「ラシードがアリアのことを愛してたのは間違いないよ。でもそれと同じようにティアの事も愛してたと思うんだ。だって、その指輪からは自分だけをずっと愛してほしいって気持ちも伝わってくるんだよ。」
「紋章システムができる前は、一夫一妻が普通だったわぁ。ラシードはアリアと結婚したから、ティアの気持ちを受け入れてはいけないって思ってたのね。」
「ラシードがこの時代に生まれてたら違ったのかもしれないだな。オラのおっ父みたいにアリアとティアを嫁にすれば良かっただよ。」
「えっ?タムのお父さんは好きな人がいっぱいいるの?」
「んだ。嫁が5人いるけど、全員、運命の人だって言ってるだ。」
「それでもいいの?」
「んだよ。おっ父もおっ母達も全員幸せだよ。」
「ティアもさ。ラシード以上の人を探すんじゃなくて、今の相手を見てあげなよ。ラシードへの好きとは違うかもしれないけど、それでいいんだよ。相手が違えば、好きって気持ちも違うと思う。ラシードへの好きは、ラシードだけのものだ。同じ好きを求めてるから、見つからないんだよ。だって、ラシードはもういないんだから。」
「そうねぇ。タクミ、良いこと言うわぁ。ラシードへの愛は永遠に心にしまっておけばいいのよ。ラシードへの愛とは違う愛を探すの!それがティアの運命の人よぉ。」
「ティアは、今まで付き合った人達をラシードと比べていたの?そっかぁ。ラシードへの愛と比べちゃいけなかったんだ。」
「ごめんよ。恋も愛も知らない僕が偉そうに…。」
「ううん、いいの。私、よく考えてみる。ありがとう、タクミ。」
運命の人とか関係ない。ティアが愛した人と幸せになるなら、それでいいと思うんだ。ティアが今度こそ幸せになりますように。
僕はそう強く思いながら、王宮を後にした。
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