156 / 247
マルクトール王国編
144話 主人公、歴史の闇を知るー1
しおりを挟む疲れきった顔をしているライルは、今まで見たこともないようなだらし無い格好のまま、お茶を飲みはじめる。
「やはりリオンがいれてくれるお茶が一番美味しいなぁ。」
「ってか、それ。ウサ子がいれたハーブティーだから。」
シオンがすかさず、ライルにツッコミをいれる。
「それより、いつからこの状態なの?ご飯食べてる?」
リオンが優しく声をかけると、ライルが感激で震えている。
「あぁ、リオンは最高です。好きです!付き合ってください!」
「ハイハイ。」
リオンはライルを軽くあしらうと、僕達に向かって真剣な顔をする。
「この状態はヤバイよ。かなり苦戦してるみたい。これ以上、悪化する前になんとかしないと。」
「そうだな。みんなでライルを手伝うことにしよう。1人だと気づけないこともあるかもしれないからね。」
ライルの状態を見たシオンも、リオンの意見に同意する。
「リオン、シオン。ありがとうございます…。」
ライルが感極まって、涙を浮かべている。
かなり苦戦してるっていうリオンの言葉は当たっているのだろう。ライルの情緒が少し変だ。
「けど、その前に!ライルは風呂だな!はい、こっちに来て!」
シオンがライルを引きずって連れていく。少しお風呂でゆっくりするといいよ。頭がスッキリして、いい案が浮かぶかも。
それからしばらくすると、表情が明るくなったライルが戻ってきた。
「おっ!スッキリしたようだね。じゃ、始めよっか。ライルは流浪の民の紋様がある古文書を解読してたんだよね?何をそんなに困っているのさ?」
普段通りの精神状態に戻ったライルが話し出す。
「シオン。じつは解読は出来たのですが、解読した古文書から共通の目的が掴めなかったのです。」
「流浪の民は秘密結社のような、目的を持った集団だったと推測した。だから、流浪の民の紋様がある古文書は何か目的があって書かれたに違いないと思ったんだね?」
「そうです。その痕跡を探したのですが。例えば、その時代の料理について書かれた古文書には本当にそれだけしか書いてありませんでした。何か暗号のようなものがあるのでは、と丹念に読み解いたのですが、無駄でした。」
「ライルは昔から、古文書に何かの意味を見出そうとするけど、それが間違ってるんじゃないかな?」
シオンの言葉に不思議そうな顔をするライル。それを見たリオンが言葉を続ける。
「シオンが言いたいのは、誰かが書いたものを評価するのは常に読み手だってことだよ。ライルがそう思っているだけで、それを書いた人には深い意味なんか無いのかもしれない。だから、まずは事実だけを整理してみない?」
「先日、古文書を何個か集めた時に気になってたんだよ。どれも何かの知識についての本だったから。この世界の古文書で多いのは、何かの記録だ。後世の人に残そうとしている場合は、何年にこういうことが起こってっていう感じの年表記録も多いのに。流浪の民の紋様がある古文書の中に、年表記録はあった?」
「そういえば、無いですね……。言われてみれば、何かの知識に関する書物ばかりでした。」
「じゃあ、知識に関する書物が多いってのが事実1だ。次は年代だよ。流浪の民の紋様がある古文書は、地域も年代もバラバラだ。でも共通していることがあるんじゃない?例えば、空白の歴史と呼ばれる期間のものは少ない、とかね。」
「そうですね。1000年より前は除くと、エレメンテの歴史は、大まかに3つに分類されます。今から1000年前から800年前までの空白の歴史と呼ばれる200年間。800年前から500年前までの戦争が多かった300年間。そして、500年前から現在までの期間です。」
「普通に考えると、空白の期間がもっとも少なくて、次の戦争の期間はそこそこで、紋章システムができてからはほとんどの書物は記録されるようになったから、多いはず。実際はどう?」
「はい。空白期と戦争期が多くて、紋章システムができてからの方が少ないですね。」
「じゃ、それが事実2だね。でも変だな。紋章システムができてからは、流浪の民の紋様がある本はほとんど無いってのは、どういうことだ?」
「あっ!私も気になっていたことがあるの!」
エレーナが発言する。
「先日、ザーラ神殿で見せてもらった古文書にも流浪の民の紋様があったわ。でもその内容は、1人の鍛治職人が自分の納得がいく刀を作るまでの話。試行錯誤の過程を書いた本で、彼の子孫がさらに工夫して良い刀を作るって内容なの。」
「じゃ、何世代にもわたって書かれたものってこと?」
「そう。でもその記録は500年前までなの。戦争が多かった時代だから、受け継ぐ人がいなくなったからなのかしら、と思ったのだけど。」
「受け継ぐ人がいない……。」
「「あっ!そうか!!紋章システムが出来たからだ!!」」
「リオン、シオン。どういうこと?」
「タクミ。戦争が多かったから受け継ぐ人がいなかった可能性もあるけど、一番は紋章システムが出来て、世襲が無くなったからじゃないかな?」
「なるほど!それなら、説明がつくね。流浪の民は秘密結社ではなく、世襲で成り立っていた。最初のメンバーが何人かいて、その人達の子孫が役目を引き継いだってことだね?」
「でも一体なんの役目を引き継いでいたんだ?」
すると、話をジッと聞いていたトールが、自分の考えを話しはじめる。
「リオンとシオンがソラにもらった古文書が最初だとすると、流浪の民は精霊王を祀る神官達です。その神官達は調査専門の人達を使って、世界の不思議を調べて記録していた。その調査専門の人達が流浪の民の紋様を目印として使っていたと考えると、調査が目的なのでは?」
「トール、それは違いますよ。1000年以上前の古文書にも、今のとは少し形が違いますが、流浪の民の紋様が付いたものがあるのです。」
「では、精霊王の神官達が最初の人々という考えは間違いだということですね。」
トールが沈んだ声を出す。
流浪の民の紋様がある古文書は、1000年以上前のものもあるのか…。トールくんの仮説は間違っているのか?
みんなが考え込んで、沈黙の時間がしばらく流れた後、シオンが大きな声を出した。
「いや、それだ!それだよ、ライル!流浪の民の紋様の形が違うっていうのが、事実3だよ。」
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜
ふーみ
ファンタジー
大陸の端に存在する小国、ボーンネル。
バラバラとなったこの国で少女ジンは多くの仲間とともに建物を建て、新たな仲間を集め、国を立て直す。
そして同時にジンを中心にして世界の歯車は動き出そうとしていた。
これはいずれ一国の王となる少女の物語。
悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】
白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン!
★第2部はこちら↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603
「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」
幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。
東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。
本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。
容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。
悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。
さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。
自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。
やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。
アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。
そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…?
◇過去最高ランキング
・アルファポリス
男性HOTランキング:10位
・カクヨム
週間ランキング(総合):80位台
週間ランキング(異世界ファンタジー):43位
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
護国の鳥
凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!!
サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。
周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。
首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。
同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。
外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。
ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。
校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!
悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】
白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン!
★第1部はこちら↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083
「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」
幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。
東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。
本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。
容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。
悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。
さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。
自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。
やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。
アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。
そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…?
◇過去最高ランキング
・アルファポリス
男性HOTランキング:10位
・カクヨム
週間ランキング(総合):80位台
週間ランキング(異世界ファンタジー):43位
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる