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マルクトール王国編
143話 主人公、家族を知る
しおりを挟む「ここから上へと出る隠し通路があるってソラは言ってたよ。」
「こっちだ。神殿の奥のここをこうしてっと。ほら、開いた。」
僕が神殿に戻った時にはもうソラの姿は無かったが、僕が戻る前にソラが現れて帰り方を教えてくれたと双子が言う。
双子達の案内で、地上に無事戻った僕達は図書館の応接部屋へ向かう。
部屋に入るとすぐに、僕はエレーナに謝罪した。
「エレーナ、ごめんね。記憶のコントロール方法は、ソラでも分からないなんて。」
「タクミ、大丈夫よ。アドラと2人なら乗り越えていける。ソラはそれを教えてくれたわ。私、自分にできることを少しずつ増やしていこうと思う。だって、もうすぐ成人だしね。いつまでも甘えてばかりじゃダメなのよ。」
エレーナ……。
エレーナは強い意思を秘めた顔をしている。ソラと会ったことは無駄ではなかったようだ。そんなエレーナを見つめていると、ドアがバンッと大きな音をたてて開いた。
「大きくなったな!エレーナ!」と言いながら、小柄な女性と体格の良い男性が入ってきた。
入ってくるなり、エレーナを抱きしめる。
「テル姉さま!マオリア兄さま!」
エレーナがとても驚いている。が、嬉しそうだ。
知り合いかな?
「テル、マオリア。早かったな。」
「2人とも元気だった?」
リオンとシオンが話しかけている。
もしかして、知らないのは僕だけか?と思ったら、トールが丁寧にあいさつをしている。
「テル姉さま、マオリア兄さま。はじめまして、トールです。」
「はじめまして、トール。いまは家族として会ってるから、トールって呼ぶよ。」
「オレもはじめましてだな。よろしくな。トール。」
「タクミさん、僕達の家族のテルとマオリアです。もう成人してますから、ホームにはいませんが、同じホームで育った家族です。」
「あっ、はじめまして。タクミです。」
トールとエレーナの家族だという2人に挨拶をすると、2人も丁寧に返事をしてくれる。
「ところで、2人はどうしてここに?」
エレーナが複雑な表情を浮かべながら、質問する。
「やっと、許可が出たんだよ!」
「そう!やっとだよ!」
許可?やっと?
「何のこと?姉さまと兄さまは、それぞれガンガルシア王国で討伐者をしているはず。何かの討伐の許可?」
エレーナはきょとんとした表情だ。
「そうじゃないよ!天然なのは変わらないなぁ。」
「オレ達は今日から、ここに住むんだよ!」
「!!!」
エレーナが驚き過ぎて、声をなくしている。
「テル、マオリア。事情を詳しく説明するのです。エレーナが困っているのです。」
エレーナに変わって、すかさずアドラが話し出す。
「僕達が許可したんだよ。」
シオンが説明をはじめる。
「テルとマオリアは、エレーナがこの図書館に行くことになってから、ずっとエレーナに会いたいって願ってた。でも、エレーナの母親のこともあったからね。できるだけ人には接触させないようにしてたんだよ。」
「テルとマオリアは、特にエレーナと仲が良かった。だから、2人が成人した時に約束したんだ。エレーナが無事成人できて、人との関わりを持ちたいって思うようになったら、マルクトールの王宮に推薦してあげるって。」
「2人はね。エレーナのために、討伐者として腕を磨いてたんだよ。王宮に仕えるためには、武力が必要だからね。」
リオンとシオンの説明に、エレーナは泣き出す。
「私が図書館の主になるって言った時、テル姉さまとマオリア兄さまは、反対しなかった。そして、必ず会いに行くって言ってくれてたのに、来てくれないから嫌われたかと思ってた。」
「ごめんね。エレーナが成人するまでは会っちゃいけないって言われたんだよ。」
「感情が揺れ動く時期だから、1人の方が良いって言われて。会いたくても会えなかったんだ。」
「そうだったの…。嫌われたわけじゃ無かったのね。」
「当たり前だろ!オレ達は家族だぞ!特にオレとテルは、トール母さまにエレーナの事を頼まれたからな。」
「母さまに?」
「エレーナは覚えてないと思うけど、トール母さまはホームに良く来てたよ。最後に会ったとき、ワタシ達にこう言ったの。『エレーナをお願いね』って。」
「もう永くないのが分かっていたかのようだった。だから、オレ達は決めたんだ。エレーナを守ろうって。」
「そんな…。姉さまと兄さまには、自分の人生があるわ。嬉しいけど、2人には自由に生きて欲しい。母さまの言葉は気にしなくていいの。大丈夫よ。私にはアドラがいるから。」
エレーナはアドラをギュッと抱きしめながら、無理はしないでほしいと2人に訴える。
「エレーナ。オレ達は、自分で決めたんだよ。エレーナが嫌だって言い出すまでは、世話をするってね。」
「そうよ。ワタシ達はエレーナが可愛くて仕方ないの。離れてた分もここで家族として過ごすって決めてるの!もちろん、エレーナが嫌ならすぐに出て行くけど。」
「そんな!そんな事、絶対に思わないわ!嬉しいに決まってる!でも本当にいいの?」
「「もちろん!」」
テルとマオリアは、同時に返事をする。
「オレ達は、今日からマルクトール王国の王宮に仕えることになった。オレは古文書修復師、テルは古文書年代鑑定師としてな。」
「仕事まで変えるなんて…。」
「エレーナ、いいのです。テルとマオリアは自分のしたいようにしているだけなのです。だから、エレーナも自分のやりたい事をしたらいいのです。」
「私のやりたいこと…。」
エレーナは少し考えた後、はっきりと言葉を続ける。
「私はテル姉さまとマオリア兄さまと一緒に住みたい。ホームにいた時みたいに、いっぱいお話ししたい。」
エレーナの言葉を聞いたテルとマオリアの顔が、満面の笑みであふれる。
「もちろんだよ!」
「みんなもエレーナに会いたいって言ってたから、明日から賑やかになるぞ!」
良かったね、エレーナ。
やっぱり、こんなところに1人でいるのは寂しいよ。でも今日からは家族が一緒だ。みんなも来るって言ってるし、家族が多いのっていいね。
感動に浸っていると、入り口から不気味な声がした。
「きみたち~~うるさいですよ~~!」
扉が少し開いていたようだ。その間から手が見える。
「げんきがあるなら、てつだってください~~!」
入ってきたのは、疲れた顔をしたライルだった。
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