異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味

文字の大きさ
上 下
155 / 247
マルクトール王国編

143話 主人公、家族を知る

しおりを挟む
 

「ここから上へと出る隠し通路があるってソラは言ってたよ。」
「こっちだ。神殿の奥のここをこうしてっと。ほら、開いた。」

 僕が神殿に戻った時にはもうソラの姿は無かったが、僕が戻る前にソラが現れて帰り方を教えてくれたと双子が言う。

 双子達の案内で、地上に無事戻った僕達は図書館の応接部屋へ向かう。

 部屋に入るとすぐに、僕はエレーナに謝罪した。
「エレーナ、ごめんね。記憶のコントロール方法は、ソラでも分からないなんて。」

「タクミ、大丈夫よ。アドラと2人なら乗り越えていける。ソラはそれを教えてくれたわ。私、自分にできることを少しずつ増やしていこうと思う。だって、もうすぐ成人だしね。いつまでも甘えてばかりじゃダメなのよ。」

 エレーナ……。

 エレーナは強い意思を秘めた顔をしている。ソラと会ったことは無駄ではなかったようだ。そんなエレーナを見つめていると、ドアがバンッと大きな音をたてて開いた。

「大きくなったな!エレーナ!」と言いながら、小柄な女性と体格の良い男性が入ってきた。

 入ってくるなり、エレーナを抱きしめる。

「テル姉さま!マオリア兄さま!」
 エレーナがとても驚いている。が、嬉しそうだ。

 知り合いかな?

「テル、マオリア。早かったな。」
「2人とも元気だった?」
 リオンとシオンが話しかけている。

 もしかして、知らないのは僕だけか?と思ったら、トールが丁寧にあいさつをしている。

「テル姉さま、マオリア兄さま。はじめまして、トールです。」

「はじめまして、トール。いまは家族として会ってるから、トールって呼ぶよ。」
「オレもはじめましてだな。よろしくな。トール。」

「タクミさん、僕達の家族のテルとマオリアです。もう成人してますから、ホームにはいませんが、同じホームで育った家族です。」

「あっ、はじめまして。タクミです。」

 トールとエレーナの家族だという2人に挨拶をすると、2人も丁寧に返事をしてくれる。

「ところで、2人はどうしてここに?」
 エレーナが複雑な表情を浮かべながら、質問する。

「やっと、許可が出たんだよ!」
「そう!やっとだよ!」

 許可?やっと?

「何のこと?姉さまと兄さまは、それぞれガンガルシア王国で討伐者をしているはず。何かの討伐の許可?」

 エレーナはきょとんとした表情だ。

「そうじゃないよ!天然なのは変わらないなぁ。」
「オレ達は今日から、ここに住むんだよ!」

「!!!」
 エレーナが驚き過ぎて、声をなくしている。

「テル、マオリア。事情を詳しく説明するのです。エレーナが困っているのです。」
 エレーナに変わって、すかさずアドラが話し出す。

「僕達が許可したんだよ。」
 シオンが説明をはじめる。
「テルとマオリアは、エレーナがこの図書館に行くことになってから、ずっとエレーナに会いたいって願ってた。でも、エレーナの母親のこともあったからね。できるだけ人には接触させないようにしてたんだよ。」

「テルとマオリアは、特にエレーナと仲が良かった。だから、2人が成人した時に約束したんだ。エレーナが無事成人できて、人との関わりを持ちたいって思うようになったら、マルクトールの王宮に推薦してあげるって。」

「2人はね。エレーナのために、討伐者として腕を磨いてたんだよ。王宮に仕えるためには、武力が必要だからね。」

 リオンとシオンの説明に、エレーナは泣き出す。

「私が図書館の主になるって言った時、テル姉さまとマオリア兄さまは、反対しなかった。そして、必ず会いに行くって言ってくれてたのに、来てくれないから嫌われたかと思ってた。」

「ごめんね。エレーナが成人するまでは会っちゃいけないって言われたんだよ。」
「感情が揺れ動く時期だから、1人の方が良いって言われて。会いたくても会えなかったんだ。」

「そうだったの…。嫌われたわけじゃ無かったのね。」

「当たり前だろ!オレ達は家族だぞ!特にオレとテルは、トール母さまにエレーナの事を頼まれたからな。」

「母さまに?」

「エレーナは覚えてないと思うけど、トール母さまはホームに良く来てたよ。最後に会ったとき、ワタシ達にこう言ったの。『エレーナをお願いね』って。」

「もう永くないのが分かっていたかのようだった。だから、オレ達は決めたんだ。エレーナを守ろうって。」

「そんな…。姉さまと兄さまには、自分の人生があるわ。嬉しいけど、2人には自由に生きて欲しい。母さまの言葉は気にしなくていいの。大丈夫よ。私にはアドラがいるから。」

 エレーナはアドラをギュッと抱きしめながら、無理はしないでほしいと2人に訴える。

「エレーナ。オレ達は、自分で決めたんだよ。エレーナが嫌だって言い出すまでは、世話をするってね。」

「そうよ。ワタシ達はエレーナが可愛くて仕方ないの。離れてた分もここで家族として過ごすって決めてるの!もちろん、エレーナが嫌ならすぐに出て行くけど。」

「そんな!そんな事、絶対に思わないわ!嬉しいに決まってる!でも本当にいいの?」

「「もちろん!」」
 テルとマオリアは、同時に返事をする。

「オレ達は、今日からマルクトール王国の王宮に仕えることになった。オレは古文書修復師、テルは古文書年代鑑定師としてな。」

「仕事まで変えるなんて…。」

「エレーナ、いいのです。テルとマオリアは自分のしたいようにしているだけなのです。だから、エレーナも自分のやりたい事をしたらいいのです。」

「私のやりたいこと…。」
 エレーナは少し考えた後、はっきりと言葉を続ける。
「私はテル姉さまとマオリア兄さまと一緒に住みたい。ホームにいた時みたいに、いっぱいお話ししたい。」

 エレーナの言葉を聞いたテルとマオリアの顔が、満面の笑みであふれる。

「もちろんだよ!」
「みんなもエレーナに会いたいって言ってたから、明日から賑やかになるぞ!」

 良かったね、エレーナ。
 やっぱり、こんなところに1人でいるのは寂しいよ。でも今日からは家族が一緒だ。みんなも来るって言ってるし、家族が多いのっていいね。



 感動に浸っていると、入り口から不気味な声がした。

「きみたち~~うるさいですよ~~!」

 扉が少し開いていたようだ。その間から手が見える。

「げんきがあるなら、てつだってください~~!」
 入ってきたのは、疲れた顔をしたライルだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...