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第89話 1555年(天文二十四年)9月 小浜
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おー。京を離れ若狭の海を見るとホッとするな。出雲の海と似てるからな。城に行くと風呂に入れるかな。信実作ってくれたかな。
幕府と三好の間に和議が結ばれ、京に拠点を手に入れた尼子(俺)は幕府の名の下、やれることをどんどん進めていった。まず将軍山城城主に三沢為清を抜擢した。為清は代官と軍の大将ができる有能な人材であり、俺の義理の兄であり、友と呼べる男だ。京を任すにふさわしい。朽木との盟約も上手く纏めてくれた。
相伴衆としてのお勤めも大御所様に丸投げだ。メッチャ嫌な顔をされたが、たまに交代するからと言ってねじ込んだ。歌詠みも上手いし、公卿、公家の相手も俺以上に上手だ。大丈夫だろう。
そしてこれがやりたかったことだが、幕府の名を使い関所を通るときに関銭を払わない、尼子の荷に特権を付与することだ。山城屋に京の商いを任せたが扱う品物は小浜から運ぶ。若狭街道の朽木まではいいがその先は関銭が発生する。それを払わなくて済むようにして京に安く品物を運び込む。今のままだと淡海の海を使った水運が強い。陸路はまだ大量の物資を運び込むには適さない。陸路を増やす必要があるか。これもな…なんとかしようと考えている。
幕府の名前で関銭の免除ができるのか…今の幕府なら結構行けると思う。尼子、三好、六角が支える幕府はなかなか強力だろう。実際やってみないと分からないが、実効性はあるはずだ。それでも従わない輩は出るな。そいつらには兵を出す。問答無用で鎮圧する。
次は朝廷工作なんだがなんと、三条公頼様が進んで買って出てくれた。びっくりした。山口で助けてくれた恩を返したいと自ら足を運んできてくれたのだ。丁重にお受けした。これからもよろしく頼むと言われたので勿論ですと答えておいた。いやーいいねー。
当分戦は無しだ。内政を中心にやっていく。それと毛利との連携だ。そろそろ九州に進出する頃だろう。助力は適切に行わなければならない。
備中の三村がついに備前に攻め込んだ。書状を出し助力する姿勢を示した。勿論、毛利には先に連絡をしている。あんまり三村を追い詰めたくないからな。三村は毛利の忠臣になってほしいものだ。
細川晴元は時期をみて討つ。晴元が逃げ込んだ丹波は京を守るためには押さえなくてはいけない国だ。半分は三好が制していると言ってもいい。だからまず残り半分もらう。時期は思案中だ。
浅井だ。秘密裏に支援をして戦の準備をさせなくてはならない。ま、六角、朝倉そして尼子の三家に従属するという対外的には屈辱的な状態になるが、そうすることによって尼子と盟約を交わしたことを隠す効果はあるだろう。嫡男の猿夜叉は八雲に連れてきて尼子流の教育を施す。六角の目を欺き、朝倉の影響力は無くし、浅井を取り込む。これが畿内制覇のキーポイントだ。盟約を結んだことは諸国には秘密だ。家内統制が難しくなるが浅井久政には頑張って欲しい。舅殿にも引き続き助力をしてもらう。バレたらバレタでその時だ。
六角は追い込まれる。尼子が京と若狭街道沿いに影響力を強め、三好は大和や畿内南部に侵攻していく。六角は浅井を従属させてはいるが比叡山がいるし、進むなら美濃になる。美濃を六角が押さえることができるとは思わない。六角はどうするかな。
小浜に南蛮船一番艦【富田丸】が入港した。アユタヤから交易品を運んできた。これから富田丸は小浜↔アユタヤの定期船として運用する。あと一隻朱印船も同じ運用だ。宇龍、温泉津における交易量も順調に増えている。そして宇龍から小浜への船便輸送も増える。どんどん京に尼子の荷をつぎ込んでやる。冬場はどうしても海が荒れる。そのためにも博多が欲しいな。義兄、早いとこ大友ぶっ飛ばしてくれんかな。本当に欲しいのは堺だな。
丹後の加佐郡(転生前の舞鶴)に水軍基地を作るべく動いている。尼子の水軍を任せていた湯原春綱、そして辺須亜留戸を隠岐から呼び出し取り掛からせている。ちなみに亜留戸は多胡明美嬢と祝言を上げた。明美ちゃんは八雲小町を卒業した。これからは【ママドル】として頑張ってもらおうと思ったがちょっと無理っぽい。
南蛮船奉行に任命していた村上宗景はアユタヤに行きっぱなしになってしまったので、亜留戸が奉行代行をしているが負担が大きいのでだれか引っ張ってこないといけない。
稲富祐秀も加佐郡に移動させている。水軍だけでなくここで稲富に砲術(鉄砲)の指南を行わせているのだ。おかげで尼子の鉄砲足軽の能力はとても上がり、直轄軍に狙撃兵を配置できるようになった。此度の三好との戦でその力が発揮された。それに稲富を尼子が直臣としたことで他国に砲術の技術が漏れにくくなった。とてもよろしい。
加佐郡は尼子にとって重要な軍事施設にするつもりだ。よって人の出入りを厳しく制限している。今後、柵と鉄条網を群全体に設置して湊の出入り口を数カ所に制限する。まさに軍事基地にするつもりだ。
総じて何が問題か、人材不足だ。文官を決定的に増やさないと過労死するやつが本当に出てしまいそうだ。これからは他国の武将でも積極的に引き抜いていこう。三成今どこにいるのかな…
上様の扱いはなかなか。難しいな。足利幕府の統治方法はもう通じない。今はたまたま三つの国が己らの都合で幕府を支えているに過ぎない。うーん進んで将軍職を返上してくれんかな…やっぱ俺が知ってる歴史に習って将軍は放逐するしかないのかな。それならそれでいいけど、そうするには三好と六角は邪魔だよね。まずはそこからか。
などと考えを巡らせながら後瀬山城にきた。海を見てると出雲が恋しくなった。ふと、何時まで戦うんだろう、ちょっと休みたいな、いや結構長いこと休みたいな、と思った。楽しかった野呂の洞窟を思い出す。あの時のように身内と過ごす時間は…昔には戻れんわな。俺の昔って何時の何処?
「御屋形様、此度の勝ち戦、誠におめでとうございます。将軍様も京に戻られ至極満足にございましょう。これで尼子の威勢が天下に轟き、大国主大神を敬う民がさらに増えることでしょう」
いつもの笑みをたたえたお菊が出迎える。少し後にお通殿。ほんのり優しく微笑んでいる。
嬉しさ半分、驚き半分。固まった俺の両脇を妻たちにガッシリと固められ城の奥に連れて行かれた。頭に浮かんだのは…信実、スマン。ここお前の城だよね。いや、俺呼んでないから。勝手に来たんだから。信じてね…
暫くして後瀬山城城主、武田信実がやって来た。なんかメッチャ慌ててる。挨拶もそこそこに用件を述べる。
「京の大御所様から鳩が届き、儂の部屋はあるのかと問い合わせがありました。以前大御所様が使われておられました部屋は、現在お菊様、お通様に充てられており、正直大御所さまに割り振る部屋がございません。なんとか致す所存にございますがこの件、御屋形様から大御所様にお伝えしていただきとうございます」
そっちからも圧力が掛かったか。
「御屋形様におかれましても、専用の部屋が準備できません。よってお方様がたと相部屋としていただきます。そこでご相談でございますが、館をもう一つ建てる許可をいただきとうございます」
「分かった、造ってくれ」
「それと…非常に申し上げにくいのですが、お方様がたはいつまで小浜にご逗留されるのでございますか?」
「ちょっと待ってくれ。奥たちと話す」
「はっ。出過ぎた真似を致しまして、申し訳ございません」
信実は急いで部屋を出ていった。重ね重ね申し訳ないと心の中で呟いた。なんか信実がお得意様をダブルブッキングしてしまった宿屋の主人に見えた。
妻たちは当分の間、後瀬山に居るという。仕方ない、追い返す理由がない。俺も追い返したいとは思ってないのでま、その、居てもいいかな。信実にはそのまま伝えたら平伏してしばらく動かなかった。ま、よろしく頼む。
幕府と三好の間に和議が結ばれ、京に拠点を手に入れた尼子(俺)は幕府の名の下、やれることをどんどん進めていった。まず将軍山城城主に三沢為清を抜擢した。為清は代官と軍の大将ができる有能な人材であり、俺の義理の兄であり、友と呼べる男だ。京を任すにふさわしい。朽木との盟約も上手く纏めてくれた。
相伴衆としてのお勤めも大御所様に丸投げだ。メッチャ嫌な顔をされたが、たまに交代するからと言ってねじ込んだ。歌詠みも上手いし、公卿、公家の相手も俺以上に上手だ。大丈夫だろう。
そしてこれがやりたかったことだが、幕府の名を使い関所を通るときに関銭を払わない、尼子の荷に特権を付与することだ。山城屋に京の商いを任せたが扱う品物は小浜から運ぶ。若狭街道の朽木まではいいがその先は関銭が発生する。それを払わなくて済むようにして京に安く品物を運び込む。今のままだと淡海の海を使った水運が強い。陸路はまだ大量の物資を運び込むには適さない。陸路を増やす必要があるか。これもな…なんとかしようと考えている。
幕府の名前で関銭の免除ができるのか…今の幕府なら結構行けると思う。尼子、三好、六角が支える幕府はなかなか強力だろう。実際やってみないと分からないが、実効性はあるはずだ。それでも従わない輩は出るな。そいつらには兵を出す。問答無用で鎮圧する。
次は朝廷工作なんだがなんと、三条公頼様が進んで買って出てくれた。びっくりした。山口で助けてくれた恩を返したいと自ら足を運んできてくれたのだ。丁重にお受けした。これからもよろしく頼むと言われたので勿論ですと答えておいた。いやーいいねー。
当分戦は無しだ。内政を中心にやっていく。それと毛利との連携だ。そろそろ九州に進出する頃だろう。助力は適切に行わなければならない。
備中の三村がついに備前に攻め込んだ。書状を出し助力する姿勢を示した。勿論、毛利には先に連絡をしている。あんまり三村を追い詰めたくないからな。三村は毛利の忠臣になってほしいものだ。
細川晴元は時期をみて討つ。晴元が逃げ込んだ丹波は京を守るためには押さえなくてはいけない国だ。半分は三好が制していると言ってもいい。だからまず残り半分もらう。時期は思案中だ。
浅井だ。秘密裏に支援をして戦の準備をさせなくてはならない。ま、六角、朝倉そして尼子の三家に従属するという対外的には屈辱的な状態になるが、そうすることによって尼子と盟約を交わしたことを隠す効果はあるだろう。嫡男の猿夜叉は八雲に連れてきて尼子流の教育を施す。六角の目を欺き、朝倉の影響力は無くし、浅井を取り込む。これが畿内制覇のキーポイントだ。盟約を結んだことは諸国には秘密だ。家内統制が難しくなるが浅井久政には頑張って欲しい。舅殿にも引き続き助力をしてもらう。バレたらバレタでその時だ。
六角は追い込まれる。尼子が京と若狭街道沿いに影響力を強め、三好は大和や畿内南部に侵攻していく。六角は浅井を従属させてはいるが比叡山がいるし、進むなら美濃になる。美濃を六角が押さえることができるとは思わない。六角はどうするかな。
小浜に南蛮船一番艦【富田丸】が入港した。アユタヤから交易品を運んできた。これから富田丸は小浜↔アユタヤの定期船として運用する。あと一隻朱印船も同じ運用だ。宇龍、温泉津における交易量も順調に増えている。そして宇龍から小浜への船便輸送も増える。どんどん京に尼子の荷をつぎ込んでやる。冬場はどうしても海が荒れる。そのためにも博多が欲しいな。義兄、早いとこ大友ぶっ飛ばしてくれんかな。本当に欲しいのは堺だな。
丹後の加佐郡(転生前の舞鶴)に水軍基地を作るべく動いている。尼子の水軍を任せていた湯原春綱、そして辺須亜留戸を隠岐から呼び出し取り掛からせている。ちなみに亜留戸は多胡明美嬢と祝言を上げた。明美ちゃんは八雲小町を卒業した。これからは【ママドル】として頑張ってもらおうと思ったがちょっと無理っぽい。
南蛮船奉行に任命していた村上宗景はアユタヤに行きっぱなしになってしまったので、亜留戸が奉行代行をしているが負担が大きいのでだれか引っ張ってこないといけない。
稲富祐秀も加佐郡に移動させている。水軍だけでなくここで稲富に砲術(鉄砲)の指南を行わせているのだ。おかげで尼子の鉄砲足軽の能力はとても上がり、直轄軍に狙撃兵を配置できるようになった。此度の三好との戦でその力が発揮された。それに稲富を尼子が直臣としたことで他国に砲術の技術が漏れにくくなった。とてもよろしい。
加佐郡は尼子にとって重要な軍事施設にするつもりだ。よって人の出入りを厳しく制限している。今後、柵と鉄条網を群全体に設置して湊の出入り口を数カ所に制限する。まさに軍事基地にするつもりだ。
総じて何が問題か、人材不足だ。文官を決定的に増やさないと過労死するやつが本当に出てしまいそうだ。これからは他国の武将でも積極的に引き抜いていこう。三成今どこにいるのかな…
上様の扱いはなかなか。難しいな。足利幕府の統治方法はもう通じない。今はたまたま三つの国が己らの都合で幕府を支えているに過ぎない。うーん進んで将軍職を返上してくれんかな…やっぱ俺が知ってる歴史に習って将軍は放逐するしかないのかな。それならそれでいいけど、そうするには三好と六角は邪魔だよね。まずはそこからか。
などと考えを巡らせながら後瀬山城にきた。海を見てると出雲が恋しくなった。ふと、何時まで戦うんだろう、ちょっと休みたいな、いや結構長いこと休みたいな、と思った。楽しかった野呂の洞窟を思い出す。あの時のように身内と過ごす時間は…昔には戻れんわな。俺の昔って何時の何処?
「御屋形様、此度の勝ち戦、誠におめでとうございます。将軍様も京に戻られ至極満足にございましょう。これで尼子の威勢が天下に轟き、大国主大神を敬う民がさらに増えることでしょう」
いつもの笑みをたたえたお菊が出迎える。少し後にお通殿。ほんのり優しく微笑んでいる。
嬉しさ半分、驚き半分。固まった俺の両脇を妻たちにガッシリと固められ城の奥に連れて行かれた。頭に浮かんだのは…信実、スマン。ここお前の城だよね。いや、俺呼んでないから。勝手に来たんだから。信じてね…
暫くして後瀬山城城主、武田信実がやって来た。なんかメッチャ慌ててる。挨拶もそこそこに用件を述べる。
「京の大御所様から鳩が届き、儂の部屋はあるのかと問い合わせがありました。以前大御所様が使われておられました部屋は、現在お菊様、お通様に充てられており、正直大御所さまに割り振る部屋がございません。なんとか致す所存にございますがこの件、御屋形様から大御所様にお伝えしていただきとうございます」
そっちからも圧力が掛かったか。
「御屋形様におかれましても、専用の部屋が準備できません。よってお方様がたと相部屋としていただきます。そこでご相談でございますが、館をもう一つ建てる許可をいただきとうございます」
「分かった、造ってくれ」
「それと…非常に申し上げにくいのですが、お方様がたはいつまで小浜にご逗留されるのでございますか?」
「ちょっと待ってくれ。奥たちと話す」
「はっ。出過ぎた真似を致しまして、申し訳ございません」
信実は急いで部屋を出ていった。重ね重ね申し訳ないと心の中で呟いた。なんか信実がお得意様をダブルブッキングしてしまった宿屋の主人に見えた。
妻たちは当分の間、後瀬山に居るという。仕方ない、追い返す理由がない。俺も追い返したいとは思ってないのでま、その、居てもいいかな。信実にはそのまま伝えたら平伏してしばらく動かなかった。ま、よろしく頼む。
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