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第80話 1554年(天文二十三年)6月 長門 年明けて出雲
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毛利隆元は敗走する陶軍の追撃戦に移った。若山城にて陶晴賢が討ち取られたという知らせは瞬く間に陶軍全体に届き、総崩れとなった軍勢はただ討ち取られていくのみだった。
若山城の戦いで、陶晴賢率いる一万五千の軍は壊滅した。
六月十二日になり毛利隆元は山口に向かって進軍を開始した。須々万沼城を落とした吉川元春も合流している。
大内義長は内藤隆世とともに山口を脱出し長門の且山城に移動した。山口を押さえた毛利軍はそのまま且山城に向けて進軍、途中、信田ノ丸城にいた杉重輔が毛利に降ってきた。
毛利軍は且山城を包囲した。大内義長は兄である大友義鎮を頼る考えも持ったが関門海峡は毛利水軍が封鎖したため、断念せざるを得なかった。結果籠城策を採ったのだ。しかし後詰めのない籠城に未来はない。
元就、隆元は福原貞俊を使者とし且山城に送った。内藤隆世が切腹し、開城すれば義長を助命するという条件を勧告。それを受け入れ且山城は開城された。しかし大内義長と陶晴賢の孫、鶴寿丸は城を出て向かった長府の長福寺で毛利軍に包囲され自害、殉死した。
天文二十三年六月三十日。西国の雄、大内家はついに滅び、そのきっかけを作った陶氏嫡流も断絶した。
ここに安芸、備後、備中、周防、長門を領国とする戦国大名、毛利家が誕生した。
毛利隆元はこの後、周防、長門の支配に注力する。毛利に降った大内家臣たちを取り込み、反毛利の一揆を鎮圧し、毛利に降るのを良しとせず抵抗を続ける大内残党を根絶やしにしていくのである。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
天文二十四年二月十六日。出雲国八雲城にて尼子義久、京極菊、毛利通の嫁入りが行われた。京極菊は何年も前に尼子家に身を寄せていたが嫁入りの儀式は行われておらず、此度の毛利家からの輿入れと共に嫁入りを改めて行うことになった。
また、この嫁入りには毛利元就が随行しており、儀式にも参加するという何かと異例づくしの行事であった。
花嫁二人と寝所に入った義久はとても緊張していた。儀式の流れ的にこうなるのでしょうがない(随分変えているが)。明日にはお色直しを行い花嫁たちは義久の家族と対面することになる。ま、菊はもうほとんど妻として振る舞っているのだが。
「お通殿、このような変わった嫁入りとなり面食らったであろうが、これからよろしく頼む」
義久はお通に声をかけた。
「はい…それで床入りはどのように…」
「それなんだが、今晩は儀式として一晩過ごすだけにしたい」
義久は菊をチラとみた。菊は頷いた。
「俺と菊はまだ床入りを済ましていない。お互い子供だったのでむつみごとは控えていたんだ。この先、頃合いをみて夫婦になるつもりだ。お通殿とはその後となる。俺はお通殿も大事にする。約束する」
義久は真剣な表情で必死に訴えた。
お通は義久をみて笑みをこぼした。
「殿、分かりました。これからよろしくお願い致します」
暫し義久の目をみつめたのち、お通は立ち上がり菊の前に進んだ。
「お菊様、良しなにお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。共に殿のために励みましょう」
菊は通の手を取り、二人は手を握りあった。
一番ホットしたのは義久だった。疲れが一遍に出てきてそのまま床についてしまった。
お通は眠りに落ちた義久を見ながら兄に輿入れを告げられた日の事を思いだしていた。
「お通、毛利は尼子と盟約を結ぶことになった。両家の結びつきを強くするためお前を尼子義久殿に嫁に出す。毛利と尼子を結ぶ架け橋となるのだ。まだ尼子には言っておらぬが拒否されることはないだろう。義久殿には既に正室の菊殿がいる。よってお通は側室となる」
兄にそう告げられ来るべきときが来たかとお通は思った。
「お兄様、毛利は何時まで尼子と盟約を続けるつもりなのですか?」
「何時までとな…出来るだけ長くじゃ。尼子と戦えば毛利もただではすまんけんのう。それは尼子も同じじゃ。今までお互いに相手を潰そうとばかり思っておったが、手を取り合うほうが得じゃという結論に達したからな」
通は頭を下げた。
「お兄様のお気持ち承りました。毛利の姫としてお勤め果たしてまいります」
「さすが、お通じゃ。頼むぞ」
毛利隆元は満足げに頷いた。
お通の嫁入りは毛利の防長経略が済んだあとに行われる。六月三十日に大内家が滅び戦後処理などが続き、年明け二月と日取りが決まった。
式が近くなった頃、お通は父に呼び出されていた。
「嫁入りには儂も同伴する。そして式にも参加するぞ」
元就は娘の嫁入りをネタにして尼子領内を見て回ることにしたのだ。晴久からも一度出雲に来てはと誘いも受けている。
「お父様も変わったことをなさいます」
元就は少し真面目な顔つきになり可愛い娘に話した。
「お通が嫁に行く尼子はとても変わった国じゃ。浮世離れしておると言っても良い。儂が若い頃はそうではなかった。強い国はであったが…それが変わってしもうた。あっという間にな。尼子三郎四郎義久。あの者が動き出してから尼子は侮れん国に、得体の知れぬ不気味さを持つ国になってしもうた」
「不気味な…ですか」
「そうじゃ。儂には尼子義久の底がまだ見えん。お通よ、義久の底を見極めよ。そうしてこそ毛利の行く先が定まる。よいな」
「はい、必ず見極めてご覧に入れましょう」
「うむ、孫が出来た頃にまた出雲に向かうつもりじゃ」
「お父様、本当に隠居なさるおつもりですか」
「そうじゃ、そろそろ吉田でゆっくりしたいのう」
………
ぐっすり眠る義久を見ながらお通は考える。確かに変わっているようね。でも驚くほどではないわ…
「お菊様、寝付けませんので尼子についてお話していただけませんか」
「ええ、それはもう沢山ありましてよ」
二人は旦那はそっちのけで楽しくおしゃべりを始めた。
明日からお通は尼子がどれだけ変わっているのか思い知ることになる。そして…
若山城の戦いで、陶晴賢率いる一万五千の軍は壊滅した。
六月十二日になり毛利隆元は山口に向かって進軍を開始した。須々万沼城を落とした吉川元春も合流している。
大内義長は内藤隆世とともに山口を脱出し長門の且山城に移動した。山口を押さえた毛利軍はそのまま且山城に向けて進軍、途中、信田ノ丸城にいた杉重輔が毛利に降ってきた。
毛利軍は且山城を包囲した。大内義長は兄である大友義鎮を頼る考えも持ったが関門海峡は毛利水軍が封鎖したため、断念せざるを得なかった。結果籠城策を採ったのだ。しかし後詰めのない籠城に未来はない。
元就、隆元は福原貞俊を使者とし且山城に送った。内藤隆世が切腹し、開城すれば義長を助命するという条件を勧告。それを受け入れ且山城は開城された。しかし大内義長と陶晴賢の孫、鶴寿丸は城を出て向かった長府の長福寺で毛利軍に包囲され自害、殉死した。
天文二十三年六月三十日。西国の雄、大内家はついに滅び、そのきっかけを作った陶氏嫡流も断絶した。
ここに安芸、備後、備中、周防、長門を領国とする戦国大名、毛利家が誕生した。
毛利隆元はこの後、周防、長門の支配に注力する。毛利に降った大内家臣たちを取り込み、反毛利の一揆を鎮圧し、毛利に降るのを良しとせず抵抗を続ける大内残党を根絶やしにしていくのである。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
天文二十四年二月十六日。出雲国八雲城にて尼子義久、京極菊、毛利通の嫁入りが行われた。京極菊は何年も前に尼子家に身を寄せていたが嫁入りの儀式は行われておらず、此度の毛利家からの輿入れと共に嫁入りを改めて行うことになった。
また、この嫁入りには毛利元就が随行しており、儀式にも参加するという何かと異例づくしの行事であった。
花嫁二人と寝所に入った義久はとても緊張していた。儀式の流れ的にこうなるのでしょうがない(随分変えているが)。明日にはお色直しを行い花嫁たちは義久の家族と対面することになる。ま、菊はもうほとんど妻として振る舞っているのだが。
「お通殿、このような変わった嫁入りとなり面食らったであろうが、これからよろしく頼む」
義久はお通に声をかけた。
「はい…それで床入りはどのように…」
「それなんだが、今晩は儀式として一晩過ごすだけにしたい」
義久は菊をチラとみた。菊は頷いた。
「俺と菊はまだ床入りを済ましていない。お互い子供だったのでむつみごとは控えていたんだ。この先、頃合いをみて夫婦になるつもりだ。お通殿とはその後となる。俺はお通殿も大事にする。約束する」
義久は真剣な表情で必死に訴えた。
お通は義久をみて笑みをこぼした。
「殿、分かりました。これからよろしくお願い致します」
暫し義久の目をみつめたのち、お通は立ち上がり菊の前に進んだ。
「お菊様、良しなにお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。共に殿のために励みましょう」
菊は通の手を取り、二人は手を握りあった。
一番ホットしたのは義久だった。疲れが一遍に出てきてそのまま床についてしまった。
お通は眠りに落ちた義久を見ながら兄に輿入れを告げられた日の事を思いだしていた。
「お通、毛利は尼子と盟約を結ぶことになった。両家の結びつきを強くするためお前を尼子義久殿に嫁に出す。毛利と尼子を結ぶ架け橋となるのだ。まだ尼子には言っておらぬが拒否されることはないだろう。義久殿には既に正室の菊殿がいる。よってお通は側室となる」
兄にそう告げられ来るべきときが来たかとお通は思った。
「お兄様、毛利は何時まで尼子と盟約を続けるつもりなのですか?」
「何時までとな…出来るだけ長くじゃ。尼子と戦えば毛利もただではすまんけんのう。それは尼子も同じじゃ。今までお互いに相手を潰そうとばかり思っておったが、手を取り合うほうが得じゃという結論に達したからな」
通は頭を下げた。
「お兄様のお気持ち承りました。毛利の姫としてお勤め果たしてまいります」
「さすが、お通じゃ。頼むぞ」
毛利隆元は満足げに頷いた。
お通の嫁入りは毛利の防長経略が済んだあとに行われる。六月三十日に大内家が滅び戦後処理などが続き、年明け二月と日取りが決まった。
式が近くなった頃、お通は父に呼び出されていた。
「嫁入りには儂も同伴する。そして式にも参加するぞ」
元就は娘の嫁入りをネタにして尼子領内を見て回ることにしたのだ。晴久からも一度出雲に来てはと誘いも受けている。
「お父様も変わったことをなさいます」
元就は少し真面目な顔つきになり可愛い娘に話した。
「お通が嫁に行く尼子はとても変わった国じゃ。浮世離れしておると言っても良い。儂が若い頃はそうではなかった。強い国はであったが…それが変わってしもうた。あっという間にな。尼子三郎四郎義久。あの者が動き出してから尼子は侮れん国に、得体の知れぬ不気味さを持つ国になってしもうた」
「不気味な…ですか」
「そうじゃ。儂には尼子義久の底がまだ見えん。お通よ、義久の底を見極めよ。そうしてこそ毛利の行く先が定まる。よいな」
「はい、必ず見極めてご覧に入れましょう」
「うむ、孫が出来た頃にまた出雲に向かうつもりじゃ」
「お父様、本当に隠居なさるおつもりですか」
「そうじゃ、そろそろ吉田でゆっくりしたいのう」
………
ぐっすり眠る義久を見ながらお通は考える。確かに変わっているようね。でも驚くほどではないわ…
「お菊様、寝付けませんので尼子についてお話していただけませんか」
「ええ、それはもう沢山ありましてよ」
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