49 / 95
第49話 1548年(天文十七年)1月 月山富田城 〜
しおりを挟む
年が明けて天文十七年になった。今年の元旦は家族で過ごす。去年から始めた朝餉、夕餉を家族一緒に摂ることの続きだ。晴久、継室、俺、九郎四郎(次男、尼子倫久)そして菊。五人で何だかんだ話しながら食べる。今日は雑煮がでた。十六島に自生する“十六島岩のり”を用いた「かもじ雑煮」だ。餅は丸餅。それと鯛めしだ。美味しいな!
四郎はひたすら食べている。今年数えで三歳だ。いっぱい食って大きくなれよ。来年からは俺流で英才教育だ。
継室、いや継母のお腹の中には子供がいる。男の子だったら尼子秀久になるのかな。今の時点で転生前の世界とは母親が違うから別の人?なのか。ま、いいや。弟か妹ができるんだ。嬉しいじゃないか。
俺が転生前の記憶を思い出して、まる三年が経つ。数えで九歳になった。振り返るといろんなことがあった。この世界の尼子は俺が知ってる歴史を随分と前倒しして進んでいる。それと同時にこの世界で新たに?起こったこともある。尼子に比べれば他国はそんなに変わりはないようだ。俺の知っていることがまだアドバンテージになるな。いずれ役に立たなくなるかもしれないし、かえって邪魔になるかもしれない。
よく、生き残ってるな…今年は何が起きるのだろう。少し楽しみにしている自分がいる。いいんじゃないかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
武田信実は久しぶりに牛尾遠江守幸清と対面した。牛尾遠江守が尼子国久が統治していた伯耆を任されて羽衣石城に向かってからは会う機会がなかったからだ。信実が安芸の佐東銀山城から遠江守と共に落ち延びて富田にきてもう八年になる。この間客将扱いで尼子に世話になっているのだが、果たして自分は何をしているのか、どうなるのか月日とともに考え込むことが多くなった。若狭武田もいい話は聞かない。親子で争い、家臣は謀叛…今更若狭に帰る気も無いし帰ったとて居場所などない。尼子は自分を無下には扱わないがかといって頼りにされてるわけではない。蔑ろにされるよりはましか…こんな感じで半分抜け殻のような状態に陷っていた。これではいかんと最近、本郷信富に渡りをつけ、幕府に仕官しようと動き出していた。
二月になってとある日。突然訪ねてきた遠江守に富田城内の奥まった所にある部屋に連れて行かれた。何だこの部屋は。もう用済みということで儂を殺すつもりか、突然の出来事に脂汗が出てくる。暫くすると誰かが歩いてくる気配がした。遠江守が頭を下げる。促されるままそれに習う。
「二人共、面をあげよ」
聞き覚えのある声。顔を上げた先には尼子晴久殿と尼子三郎四朗殿が座っていた。
「安芸守殿、このように向き合うのは久しぶりでござるな。最近いかがお過ごしであるかな」
丁寧な口ぶりで晴久が話しかけた。
「はっ、民部少輔どのお気遣いにより、つづがなく過ごしております。して此度はいかなることでございましょうか。民部少輔殿直々にお出向きになられるとは、いささか驚いておりまする」
驚いているのは確かだ。それ以上に恐れ?疑念がうわまっている。
「安芸守殿には儂としても心苦しい思いがある。わざわざ若狭より安芸武田氏の棟梁として銀山城に入ってもらったが、結局城を取られ安芸武田氏は滅んでしまった。今となってはお家の再興はとても難しい事柄となった。戦の勝ち負けは世の常というてもこのままでは安芸守殿としても面白くないであろう」
面白くないに決まっている。そんなわかりきったことを言うために呼び出したのか。
少し間をおき晴久は口を開いた。
「安芸守殿、このまま燻っているのは勿体無い。今から話すこと、考えてみてはくれぬか」
言葉は丁寧だ。晴久はじっと信実を見ている。
「いかような話でござるか」
信実も晴久の目を見て答えた。
「今尼子は領内の開発に力を注いでいる。民がより良き暮らしを行えるよういろんな施策を進めておる。これらは数年の間に目に見える形になるであろう。そうなった時、他国はどうするであろうか。必ずや尼子の富を狙ってくる。よって我らは機先を制し、尼子を守るための戦をする。安芸守殿、若狭の代官として小浜に行ってはくれぬか」
信実は言葉を失った。何を言っているのだ、若狭の代官!?まてまて、若狭は武田領だぞ、ここから伯耆、因幡、丹後を経てやっと若狭だ。山名、一色、そして武田と三家も守護がいるというのにどういうことだ。
「民部少輔殿、いささかお戯れが過ぎるのではございませぬか」
「戯れではござらん。至極真面目な話でござる」
晴久はそれが当たり前であるかのような顔つきをしていた。愚か者の顔には見えない。狂っているようにも見えない。この目の前の漢が何を考えているのか信実には検討がつかなかった。
「安芸守どの、突然のお話で要領が掴めぬとお思いでしょうが、安芸守どのにとって悪い話ではございません。安芸守どのにおかれましてはこれから遠江守の下で代官としての習いを行っていただきたい。尼子は有能な文官を一人でも多く必要としています。是非とも安芸守どのの持てる力を揮っていただきたいのです」
いままで黙っていた三郎が声を出した。
信実はこの尼子の嫡男を密かに注視していた。なにやら変わったことをする。そして領民に人気が高い。今後幕府に仕官した後、繋がりを持っていて損はない、と思っている。
「幕府に仕官するより一国の代官のほうがよっぽど面白うございますよ。なんと言っても一国の長になるのでですから。宮使いよりもやり甲斐はあろうかと…」
三郎はそう言って信実を意味深な顔で見据えた。
こやつ、儂の動きを知っておったのか。抜け目ないやつじゃ…
「わかりました。代官習いの儀、お受けいたします。よろしくお願いいたします、御屋形様」
「うむ、こちらこそよろしく頼むぞ」
晴久と信実はお互いに笑顔を交した。さてどこまで大風呂敷を拡げたままでいられるか見ものだの。信実は思いながら牛尾と共に部屋を出ていった。数日後二人は伯耆の羽衣石城に向かっていった。
四郎はひたすら食べている。今年数えで三歳だ。いっぱい食って大きくなれよ。来年からは俺流で英才教育だ。
継室、いや継母のお腹の中には子供がいる。男の子だったら尼子秀久になるのかな。今の時点で転生前の世界とは母親が違うから別の人?なのか。ま、いいや。弟か妹ができるんだ。嬉しいじゃないか。
俺が転生前の記憶を思い出して、まる三年が経つ。数えで九歳になった。振り返るといろんなことがあった。この世界の尼子は俺が知ってる歴史を随分と前倒しして進んでいる。それと同時にこの世界で新たに?起こったこともある。尼子に比べれば他国はそんなに変わりはないようだ。俺の知っていることがまだアドバンテージになるな。いずれ役に立たなくなるかもしれないし、かえって邪魔になるかもしれない。
よく、生き残ってるな…今年は何が起きるのだろう。少し楽しみにしている自分がいる。いいんじゃないかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
武田信実は久しぶりに牛尾遠江守幸清と対面した。牛尾遠江守が尼子国久が統治していた伯耆を任されて羽衣石城に向かってからは会う機会がなかったからだ。信実が安芸の佐東銀山城から遠江守と共に落ち延びて富田にきてもう八年になる。この間客将扱いで尼子に世話になっているのだが、果たして自分は何をしているのか、どうなるのか月日とともに考え込むことが多くなった。若狭武田もいい話は聞かない。親子で争い、家臣は謀叛…今更若狭に帰る気も無いし帰ったとて居場所などない。尼子は自分を無下には扱わないがかといって頼りにされてるわけではない。蔑ろにされるよりはましか…こんな感じで半分抜け殻のような状態に陷っていた。これではいかんと最近、本郷信富に渡りをつけ、幕府に仕官しようと動き出していた。
二月になってとある日。突然訪ねてきた遠江守に富田城内の奥まった所にある部屋に連れて行かれた。何だこの部屋は。もう用済みということで儂を殺すつもりか、突然の出来事に脂汗が出てくる。暫くすると誰かが歩いてくる気配がした。遠江守が頭を下げる。促されるままそれに習う。
「二人共、面をあげよ」
聞き覚えのある声。顔を上げた先には尼子晴久殿と尼子三郎四朗殿が座っていた。
「安芸守殿、このように向き合うのは久しぶりでござるな。最近いかがお過ごしであるかな」
丁寧な口ぶりで晴久が話しかけた。
「はっ、民部少輔どのお気遣いにより、つづがなく過ごしております。して此度はいかなることでございましょうか。民部少輔殿直々にお出向きになられるとは、いささか驚いておりまする」
驚いているのは確かだ。それ以上に恐れ?疑念がうわまっている。
「安芸守殿には儂としても心苦しい思いがある。わざわざ若狭より安芸武田氏の棟梁として銀山城に入ってもらったが、結局城を取られ安芸武田氏は滅んでしまった。今となってはお家の再興はとても難しい事柄となった。戦の勝ち負けは世の常というてもこのままでは安芸守殿としても面白くないであろう」
面白くないに決まっている。そんなわかりきったことを言うために呼び出したのか。
少し間をおき晴久は口を開いた。
「安芸守殿、このまま燻っているのは勿体無い。今から話すこと、考えてみてはくれぬか」
言葉は丁寧だ。晴久はじっと信実を見ている。
「いかような話でござるか」
信実も晴久の目を見て答えた。
「今尼子は領内の開発に力を注いでいる。民がより良き暮らしを行えるよういろんな施策を進めておる。これらは数年の間に目に見える形になるであろう。そうなった時、他国はどうするであろうか。必ずや尼子の富を狙ってくる。よって我らは機先を制し、尼子を守るための戦をする。安芸守殿、若狭の代官として小浜に行ってはくれぬか」
信実は言葉を失った。何を言っているのだ、若狭の代官!?まてまて、若狭は武田領だぞ、ここから伯耆、因幡、丹後を経てやっと若狭だ。山名、一色、そして武田と三家も守護がいるというのにどういうことだ。
「民部少輔殿、いささかお戯れが過ぎるのではございませぬか」
「戯れではござらん。至極真面目な話でござる」
晴久はそれが当たり前であるかのような顔つきをしていた。愚か者の顔には見えない。狂っているようにも見えない。この目の前の漢が何を考えているのか信実には検討がつかなかった。
「安芸守どの、突然のお話で要領が掴めぬとお思いでしょうが、安芸守どのにとって悪い話ではございません。安芸守どのにおかれましてはこれから遠江守の下で代官としての習いを行っていただきたい。尼子は有能な文官を一人でも多く必要としています。是非とも安芸守どのの持てる力を揮っていただきたいのです」
いままで黙っていた三郎が声を出した。
信実はこの尼子の嫡男を密かに注視していた。なにやら変わったことをする。そして領民に人気が高い。今後幕府に仕官した後、繋がりを持っていて損はない、と思っている。
「幕府に仕官するより一国の代官のほうがよっぽど面白うございますよ。なんと言っても一国の長になるのでですから。宮使いよりもやり甲斐はあろうかと…」
三郎はそう言って信実を意味深な顔で見据えた。
こやつ、儂の動きを知っておったのか。抜け目ないやつじゃ…
「わかりました。代官習いの儀、お受けいたします。よろしくお願いいたします、御屋形様」
「うむ、こちらこそよろしく頼むぞ」
晴久と信実はお互いに笑顔を交した。さてどこまで大風呂敷を拡げたままでいられるか見ものだの。信実は思いながら牛尾と共に部屋を出ていった。数日後二人は伯耆の羽衣石城に向かっていった。
1
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
教皇の獲物(ジビエ) 〜コンスタンティノポリスに角笛が響く時〜
H・カザーン
歴史・時代
西暦一四五一年。
ローマ教皇の甥レオナルド・ディ・サヴォイアは、十九歳の若さでヴァティカンの枢機卿に叙階(任命)された。
西ローマ帝国を始め広大な西欧の上に立つローマ教皇。一方、その当時の東ローマ帝国は、かつての栄華も去り首都コンスタンティノポリスのみを城壁で囲まれた地域に縮小され、若きオスマンの新皇帝メフメト二世から圧迫を受け続けている都市国家だった。
そんなある日、メフメトと同い年のレオナルドは、ヴァティカンから東ローマとオスマン両帝国の和平大使としての任務を受ける。行方不明だった王女クラウディアに幼い頃から心を寄せていたレオナルドだが、彼女が見つかったかもしれない可能性を西欧に残したまま、遥か東の都コンスタンティノポリスに旅立つ。
教皇はレオナルドを守るため、オスマンとの戦争勃発前には必ず帰還せよと固く申付ける。
交渉後に帰国しようと教皇勅使の船が出港した瞬間、オスマンの攻撃を受け逃れてきたヴェネツィア商船を救い、レオナルドらは東ローマ帝国に引き返すことになった。そのままコンスタンティノポリスにとどまった彼らは、四月、ついにメフメトに城壁の周囲を包囲され、籠城戦に巻き込まれてしまうのだった。
史実に基づいた創作ヨーロッパ史!
わりと大手による新人賞の三次通過作品を改稿したものです。四次の壁はテオドシウス城壁より高いので、なかなか……。
表紙のイラストは都合により主人公じゃなくてユージェニオになってしまいました(スマソ)レオナルドは、もう少し孤独でストイックなイメージのつもり……だったり(*´-`)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる