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第40話 1547年(天文十六年)10月 備後国
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十月三日、尼子晴久は備後神辺城にて一年以上籠城する尼子方国衆、山名理興を救援するため兵を上げた。その数六千。
主な参戦武将は家老の佐世清宗、中老の多胡辰敬、侍大将の平野又右衛門久利そして松田誠保、三刀屋久扶。松田は準一門であり三刀屋は有力国衆。なので両者まだ尼子内での役職がないが侍大将扱いである。
晴久は進軍ルートを富田→高田城(旧三浦領)→新見庄(尼子方国衆)→東城(久代宮氏)→神石高原(馬屋原氏)→神辺城と設定した。
東城の久代宮氏は尼子方であったが今は大内方であろう。神石高原の馬屋原氏は大内方である。この二つの国衆を突破しなければ神辺城包囲軍に辿り着けない。晴久は馬屋原氏の九鬼城攻めから戦端が開かられると考えていた。久代宮氏は様子を見るであろうと。
三郎の前世でこの戦は無い。晴久は何度か神辺城救援に兵を出したがその都度大内、毛利に阻まれ、軍勢が神辺城に到達することはなかった。伯耆の橋津川の戦いでのダメージもあり、結局神辺城を見捨てる事になった。
この世界では六千の軍勢が神辺城に向かう。かといって神辺城を救えるのか。晴久は三郎に神辺城救援の目的を聞かれた。晴久は答える。このままでは備後は大内、毛利の手に落ちる。できないのならまだしも、尼子は兵を出せるのだ。最後には備後を渡すことになったとしても、戦った尼子は周りの者共に侮られることはない。山名理興は月山富田城の戦で国衆が尼子方に付くキッカケを作った。ならばこんどは我らが応える番であろう。晴久の答えに三郎は頭を垂れた。戦国時代、ナメられたら終わりである。
六千の軍勢は月山富田城を出て三日後の十月五日に高田城に到着した。今回の遠征には伝書鳩隊が帯同している。忍びの横田衆も連絡係として使っているが速さで行くと鳩がダントツだ。通常で時速60kmほどで飛ぶので富田城、高田城間を半刻ほどで飛行する。(直線距で56km)十月五日の夕方、鳩が高田城到着の知らせを持ってきた。行軍は順調のようだ。
十月七日の夜、立原が俺に急ぎ足で報告に来た。
「立原、どうした」
「三郎様、美作で横田衆が襲われております。相手は世鬼でございます。事切れる前に一人の者が世鬼の名を出しました。横田衆には急ぎ、伯耆に引くように命を出しました。暫く美作の消息が滞るかと」
「世鬼だと。間違いはないのだな…しかも美作?」
尼子の主力が備後に向かっている今、世鬼が美作に…尼子の目と耳を潰しにかかっている。
「評定を行う。残っている者をすぐにに集めよ」
半刻後、集まった家臣たちと評定を始めた途端、慌ただしく小姓が走り込んできた。
「申し上げます。新見国経殿より火急の伝令」
「通せ!」
新見国経の伝令は息も絶え絶えに報告を始める。
「申し…上げます。三村家親の軍勢千、毛利の軍勢千五百。に新見庄に攻め寄せましてござります」
美作の次は新見…これは、晴久が危ない!
「くっ、亀井!小笠原、神西、宍道を引き連れ比叡尾山城に出陣しろ。三吉が殿の軍勢に接触する前に叩くのだ。三吉がもう出陣した後なら城は無視して三吉軍を追撃せよ。なんとしても殿を富田までお帰しするのだ」
「はっ、直ちに出陣いたします」
亀井は交易があるので動かしたくなかったが、そうも言ってられん。この軍で晴久が挟み撃ちになるのを防がねばならん。東城に三吉軍を陣取らせる訳にはいかない。
「為清に出陣の準備をさせよ。明日の朝に出発する。横田の直轄軍も同じだ。新見庄に向かう」
「三郎様、横田と為清配下の兵だけでは数が足りませぬ」
「それ以上の兵は動かせん。石見と伯耆には今のまま兵を置かねば大内、山名が侵攻してくる」
「されど、」
「大丈夫だ。俺と為清でまず出陣する。時をかけるわけにはいかん。殿の退路を確保するだけだ。領内で兵を新たに募集しろ。報酬は多くだせ。いそぐのだ。集まったら新見に出陣せよ」
「ははっ」
富田から横田に移り出陣の準備をしている。富田を出て一刻は過ぎている。そろそろ出発できるだろう。少し落ち着いて考えをまとめる。俺の直轄軍は今三百人。塩冶の為清も三百人。為清の軍は錬度がまだ低い。六百でニ千五百を相手か…鉄砲は俺が百、為清が五十。俺達は晴久が来るまで持ちこたえればいい。晴久の軍の状態によるが…
いやいや、考えているところに又伝令が来た。迎えると伝令どころではない。高田城に残しておいた宇山久信がボロボロの衣服のまま平伏している。なぜお前がここにいる!
「三郎様、…申し訳ございません。高田城にて三浦定勝擁する三浦家臣が謀反、城を占拠されました。かくなる上はこの宇山、腹を切ってお詫び申し上げまする!御免!!」
「ばか!やめろ!!宇山を取り押さえろ」
よってたかって宇山を羽交い締めにして刀をもぎ取り、なんとか落ち着かせた。
宇山によると晴久が高田城を発った六日の午後、三浦家臣が貞広の弟の三浦定勝を擁立し三浦家の独立を宣言、城内の主要施設を一気に制圧した。宇山らは完全に隙をつかれ高田城を脱出するのが精一杯だったとのこと。
いくらなんでも三浦家の家臣がそんなに素早く城を占拠できるのか?そんなやつがいたら高田城攻略はもっと手こずっていただろう。
…世鬼…くっそっ!毛利か!!
「立原っ!、銀子を持って、銀兵衛につたえよ。鉢屋の十八番を見せろとな。鉢屋が高田城を落とせと伝えよ。そして林野城の様子もしらせろと」
「御意」
俺は戦国武将最強の一角、毛利元就を初めて身近に感じた。『謀神』の一端に触れたんだ。こんな怪物とやりあっていけるのか…胃の奥がギュッと縮みフルフルと震えた。
主な参戦武将は家老の佐世清宗、中老の多胡辰敬、侍大将の平野又右衛門久利そして松田誠保、三刀屋久扶。松田は準一門であり三刀屋は有力国衆。なので両者まだ尼子内での役職がないが侍大将扱いである。
晴久は進軍ルートを富田→高田城(旧三浦領)→新見庄(尼子方国衆)→東城(久代宮氏)→神石高原(馬屋原氏)→神辺城と設定した。
東城の久代宮氏は尼子方であったが今は大内方であろう。神石高原の馬屋原氏は大内方である。この二つの国衆を突破しなければ神辺城包囲軍に辿り着けない。晴久は馬屋原氏の九鬼城攻めから戦端が開かられると考えていた。久代宮氏は様子を見るであろうと。
三郎の前世でこの戦は無い。晴久は何度か神辺城救援に兵を出したがその都度大内、毛利に阻まれ、軍勢が神辺城に到達することはなかった。伯耆の橋津川の戦いでのダメージもあり、結局神辺城を見捨てる事になった。
この世界では六千の軍勢が神辺城に向かう。かといって神辺城を救えるのか。晴久は三郎に神辺城救援の目的を聞かれた。晴久は答える。このままでは備後は大内、毛利の手に落ちる。できないのならまだしも、尼子は兵を出せるのだ。最後には備後を渡すことになったとしても、戦った尼子は周りの者共に侮られることはない。山名理興は月山富田城の戦で国衆が尼子方に付くキッカケを作った。ならばこんどは我らが応える番であろう。晴久の答えに三郎は頭を垂れた。戦国時代、ナメられたら終わりである。
六千の軍勢は月山富田城を出て三日後の十月五日に高田城に到着した。今回の遠征には伝書鳩隊が帯同している。忍びの横田衆も連絡係として使っているが速さで行くと鳩がダントツだ。通常で時速60kmほどで飛ぶので富田城、高田城間を半刻ほどで飛行する。(直線距で56km)十月五日の夕方、鳩が高田城到着の知らせを持ってきた。行軍は順調のようだ。
十月七日の夜、立原が俺に急ぎ足で報告に来た。
「立原、どうした」
「三郎様、美作で横田衆が襲われております。相手は世鬼でございます。事切れる前に一人の者が世鬼の名を出しました。横田衆には急ぎ、伯耆に引くように命を出しました。暫く美作の消息が滞るかと」
「世鬼だと。間違いはないのだな…しかも美作?」
尼子の主力が備後に向かっている今、世鬼が美作に…尼子の目と耳を潰しにかかっている。
「評定を行う。残っている者をすぐにに集めよ」
半刻後、集まった家臣たちと評定を始めた途端、慌ただしく小姓が走り込んできた。
「申し上げます。新見国経殿より火急の伝令」
「通せ!」
新見国経の伝令は息も絶え絶えに報告を始める。
「申し…上げます。三村家親の軍勢千、毛利の軍勢千五百。に新見庄に攻め寄せましてござります」
美作の次は新見…これは、晴久が危ない!
「くっ、亀井!小笠原、神西、宍道を引き連れ比叡尾山城に出陣しろ。三吉が殿の軍勢に接触する前に叩くのだ。三吉がもう出陣した後なら城は無視して三吉軍を追撃せよ。なんとしても殿を富田までお帰しするのだ」
「はっ、直ちに出陣いたします」
亀井は交易があるので動かしたくなかったが、そうも言ってられん。この軍で晴久が挟み撃ちになるのを防がねばならん。東城に三吉軍を陣取らせる訳にはいかない。
「為清に出陣の準備をさせよ。明日の朝に出発する。横田の直轄軍も同じだ。新見庄に向かう」
「三郎様、横田と為清配下の兵だけでは数が足りませぬ」
「それ以上の兵は動かせん。石見と伯耆には今のまま兵を置かねば大内、山名が侵攻してくる」
「されど、」
「大丈夫だ。俺と為清でまず出陣する。時をかけるわけにはいかん。殿の退路を確保するだけだ。領内で兵を新たに募集しろ。報酬は多くだせ。いそぐのだ。集まったら新見に出陣せよ」
「ははっ」
富田から横田に移り出陣の準備をしている。富田を出て一刻は過ぎている。そろそろ出発できるだろう。少し落ち着いて考えをまとめる。俺の直轄軍は今三百人。塩冶の為清も三百人。為清の軍は錬度がまだ低い。六百でニ千五百を相手か…鉄砲は俺が百、為清が五十。俺達は晴久が来るまで持ちこたえればいい。晴久の軍の状態によるが…
いやいや、考えているところに又伝令が来た。迎えると伝令どころではない。高田城に残しておいた宇山久信がボロボロの衣服のまま平伏している。なぜお前がここにいる!
「三郎様、…申し訳ございません。高田城にて三浦定勝擁する三浦家臣が謀反、城を占拠されました。かくなる上はこの宇山、腹を切ってお詫び申し上げまする!御免!!」
「ばか!やめろ!!宇山を取り押さえろ」
よってたかって宇山を羽交い締めにして刀をもぎ取り、なんとか落ち着かせた。
宇山によると晴久が高田城を発った六日の午後、三浦家臣が貞広の弟の三浦定勝を擁立し三浦家の独立を宣言、城内の主要施設を一気に制圧した。宇山らは完全に隙をつかれ高田城を脱出するのが精一杯だったとのこと。
いくらなんでも三浦家の家臣がそんなに素早く城を占拠できるのか?そんなやつがいたら高田城攻略はもっと手こずっていただろう。
…世鬼…くっそっ!毛利か!!
「立原っ!、銀子を持って、銀兵衛につたえよ。鉢屋の十八番を見せろとな。鉢屋が高田城を落とせと伝えよ。そして林野城の様子もしらせろと」
「御意」
俺は戦国武将最強の一角、毛利元就を初めて身近に感じた。『謀神』の一端に触れたんだ。こんな怪物とやりあっていけるのか…胃の奥がギュッと縮みフルフルと震えた。
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