聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?

宮城 晟峰

文字の大きさ
上 下
31 / 40

31話

しおりを挟む
 あれから数日。
 アノイトス側に動きがない。

 もう人と呼べるのかも分からない兵士たちが、越境して来ては生えている草や、木の実を貪るだけだった。

 初の激突の日の夜。
 ヒーロスが時間稼ぎと、数百の魔物を屠《ほふ》っていた時。
 
 ヒエムス側では、夜中に逃走した兵士が結構いた。
 そのすべてが、私兵、傭兵からだった。

 仕方がない事だろう。
 しかし、逃げてどこに行くというのだろうか。
 また、家族を連れて他の国へと行くのかも知れない。

 この戦がどうなるにせよ、逃げた者たちは、その事実と一生向き合わなければならなくなるだろう。
 
 この数日では、未だ回復を見ない重傷者。
 腕や足を無くし、戦列を離れたものも多くいた。
 現状の戦力は総数二万。
 
 回復したものを含めても、この数にしかならなくなっていた。
 天幕の中。
 ヒーロスは、考え込んでいるようだ。
 そこへ、アズアルドが声をかけた。

「殿下。これ以上、逃亡者が出てしまいますと……」
「問題はそれだけではない」

 答えないヒーロスの代わりにエクエスが声を発した。
 
「……と言いますと?」

 エクエスは、自分で考え答えを出してみろ。
 そんな表情で黙っている。
 アズバルドは、エクエスの副官となって数ヶ月。
 こうしたやり取りが多い事で、自ら考える努力はしている。
 しかし、まだ若く、経験も足りない。
 だから、直ぐに聞いてしまうのだった。
 
 それは、至って普通と言える。
 むしろ、勘も鋭く、頭の回転も速い。
 同じ歳の他の兵士よりは、かなり優秀な方だと言えよう。
 ヒーロスが異常なだけだとも言える。
 
「数日、味方が減る。それ以外の問題……」

 アズバルドはブツブツと呟いている。
 兵站。兵の士気。作戦などの問題を思考しているようだ。
 そして。

「……敵が動かない事に大きな問題がある、という事でしょうか?」

 エクエスは答えない代わりに、目を瞑り口を少し緩ませた。
 そこへヒーロスが、問う。

「動かない事の何が問題だと思う?」
「……我々の味方が減って行くのを待っている事でしょうか?」
「それだと、君がさっき問題視していた事に戻るだけじゃん」

 アズバルドは、考え込む姿勢になると、目を上下、左右と移し、首を捻ったりしているが、中々答えが見いだせないようだった。
 そこに、ヒーロスが人指し指を上に立てて。

「ヒント。待ってる……こちらの兵が減る事。それもあるだろうけど。他の二つがもっと重要だと思うんだ。さて、何を待ってるんでしょう?」

 アズバルドは、一つの答えを出した。

「我々に、先に手を出させようとしている……?」
「うんうん、正解に近いよ……」
「あちら側に越境させようとしているのだ」

 エクエスが口を挟んだ。

「あー! 何で答え言っちゃうかなー。エクエスが考えさせたんでしょ?」
「あ、は、はぁ、申し訳ありません」

 エクエスは、苦笑いしながら頭をかいた。
 ヒーロスは、口を尖らせている。
 そこへ、もう一つの答えをアズバルドは導き出した。

「まっ、まさか、もう一つは援軍を待っている……と?」
「大正解!!」

 ヒーロスは満面の笑みでアズバルドに顔を向ける。
 そして、直ぐに怖いくらいの眼差しとなった。

「僕はね。さっきまで考えてたのは、長期戦になればなるほど、こちらが不利になる可能性が高いってことさー」
「殿下は、だからこそ、相手の策に乗って越境するべきか、他に虚をつく方法はないか、そうした事をお考えであったのだ」
「……そうでしか……至らず申し訳ありません」
「いいのいいの。君はこれからすっごい優秀になっていくと思ってる」
「お、恐れ入ります!」

 ヒーロスは、またしばらく考え込んだ。
 そして、天井を見つめると。

「あー……アティアに会いたいなー……」
「殿下、このような時に、色恋など……」
「えー、だからでしょ。アズバルドだって辺境伯のさー……」
「そそそ、その話はご勘弁ください!」
「ははははは」

 そこへ、天幕と外から緊急を知らせるように声が掛かった。

「で、で、伝令!!」

 三人に一気に緊張が走り、厳しい顔になる。
 エクエスが、外の者に向って。

「動いたかっ!?」
「ち、違います! せ、せ、聖女様がお見えになられました!!」

 その言葉に、三人は同時に。

「――は?」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。 ――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの? 追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※序盤1話が短めです(1000字弱) ※複数視点多めです。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

【完結】婚約破棄をされたが、私は聖女で悪役令嬢ではない。

夜空のかけら
ファンタジー
自称王子は、悪役令嬢に婚約破棄を宣言する。 悪役令嬢? 聖女?? 婚約者とは何だ?? * 4話で完結 恋愛要素がないので、ファンタジーにカテゴリ変更しました。 タグも変更。書いているうちに変化してしまった。

処理中です...