聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?

宮城 晟峰

文字の大きさ
上 下
29 / 40

29話

しおりを挟む
 国境という名の結界の外側。
 人形のような兵士たち。
 その後方には魔物の群れ。

 そこへ、月下に照らされながら、馬が進んで来る。
 ナーマは、気にも留めずグラスを口に当てている。

 馬は、国境線の手前数歩の距離で止まった。
 乗っていた少年、ヒーロスは馬から下りた。

「やあ、ナーマさん。良い夜だねー」

 声をかけられたナーマは、グラスの酒を一気の飲み干すと、舌なめずりし、ヒーロスを見た。
 邪心も疑心も怒りも何もない、ただ屈託のない笑みを浮かべる少年がそこにはいた。
 その自然体の少年に、ナーマは手招きする。

 ヒーロスは、それには応じない。
 ナーマは、ヒーロスを嘲るように言う。

「殿下は、こちら側が怖いのかしら?」

 ヒーロスは、全く変わらない風体で答える。

「うん、恐い。そっち側には行きたくないよー。ナーマさんこそ、こっちに来ない?」
「嫌よぉ、今からこの子とエッチするんだからぁ」

 そういって、横に座っていた放心状態のプププートを自分の胸に押し当てる。
 プププートは、視点がどこにあるのか分からない。
 ただ、「あー……あー……」と漏らすのみだった。

 そんな、二人を見詰めながら、ヒーロスは逆に煽る。

「こちらに来れないのは、結界によって力が弱まるのを恐れてじゃないの?」

 ヒーロスは、少年の可愛らしい笑みに、見下す視線を乗せている。
 ナーマは、ほんの少し眉を動かした。
 だが、その挑発には乗らない。

「坊やには、大人の情事はわからないわよね? セックスって、本当に気持ちが良いのよぉ?」

 そう言って、プププートの股間を撫でまわす。

「あー……あー……」
「あらあら、そんなに欲しいの? もう、仕方のない子……」

 ナーマは服を脱ぎだす。
 ヒーロスは、笑顔で魔法を打ち込んだ。

 ただのファイアーボール。
 しかし、プププートのそれではなかった。
 馬車三台にはなる、大きな火の玉だった。

 それがナーマとプププートに迫る。
 しかし、それは二人には当たらなかった。
 魔物達が身体を張って盾になったのだ。

「ああ、そう言う感じなんだね」

 そう言う感じ。
 ヒーロスは、探ったのだろう。
 そして、分かった事。
 ここにいる魔物は、ナーマの防御壁であり、攻撃手段。
 つまり、単独で考え行動するものはいない。
 
 いや、いたとしても少ないだろうと……。

「酷いことするわね。可哀想に。この子達だって生きているのよ?」
「君らの死生観はわからないよー。でもさ、君らがここに来るまでにしてきたことは、僕たち側では受け入れられないよ」
「あら、まるで、見てきたかのような言い方ね」
「見なくても分かるよー。アノイトスは、もう人の住める土地じゃない。そんな中を、雪道を、こんなに早く進軍してきた。それって、途中の村で食って来たんでしょ?」

 ヒーロスの言葉に、ナーマは胸の中で欲に溺れるプププートを放り投げ、始めて真剣に向き合った。 
 
「坊や、何しに来たのか言いな」
 
 ナーマは、妖艶で淫靡な声ではなく、ドス黒く低い声となった。
 ヒーロスも、少年の笑みを消した。

「いや、今ナーマさんが放り投げた馬鹿と、最後になるかもしれないから、話しておきたくてね。ナーマさん、どうかな、魔法を解いてくれない?」
「……何を狙っているのかしら?」
「正直に言うと……何も。強いて言うなら血を分けた最後の家族。真っ当に話しておきたいだけだよ。だって、他の家族はみーんな、君に殺されたんだから」

 ナーマは、今までにないくらいの反応を見せた。
 そうは言っても、そうした事に疎い一般の民衆からは分からない、わずかな動きだが……。 

「この後、互いに生死を賭けた戦いをするわけじゃん? 実はさー、僕ね、兄と碌に話した事ないわけ。君が殺した人も含めてね……エイシェットさん、あ、ナーマさんだったね……」

 ヒーロスは、わざとらしく言う。
 ナーマは、少し驚きを示してしまっていた。

 顔を取り繕うことが出来てなかったのだ。
 完全にヒーロスにペースを握られている。

「坊や、一人でここに来たのは驕りが過ぎたんじゃない?」

 そう言うと、ナーマは背中から翼を生やし、こめかみからは角が生えた。
 全身は黒く染め上げられ、人肌だったところは胸の谷間から、首筋だけとなった。

 目は銀色に光り、まさに本性を現したと言っていいだろう。

「んー。やる? でもね、これ見て」

 ヒーロスは、胸から白楼石を取り出した。
 穏やかに、暖かく、柔らかい光。

 人が見れば、引き寄せられるような、嬉しくもどこか懐かしい光。

 しかし、魔物にとってはそうではないらしい。

「ぐっ……貴様……」
「あー、ありがとう。これでまた、いろいろわかったよー」

 ナーマは、別にダメージを受けたという事ではないようだが、ヒーロスのかざした石の光りに近づけない様子だった。

「でさ、頼むよー。ナーマさん。そこのバカと話させてくれないかな? あなたの術を解いて……。それとも、君ほどの者が、術を解いたらやられるとか思ってるの? サキュバスのお姉さん」

 ヒーロスは、突然また子供のような笑顔で、大袈裟に言う。
 ナーマは沈黙した。

 しばし間があって――。

「――いいだろう。好きにするがいい」

 ナーマは、指を鳴らし、魔物の群れが居る所へ消えて行った。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

聖女召喚に巻き込まれた私はスキル【手】と【種】を使ってスローライフを満喫しています

白雪の雫
ファンタジー
某アニメの長編映画を見て思い付きで書いたので設定はガバガバ、矛盾がある、ご都合主義、深く考えたら負け、主人公による語りである事だけは先に言っておきます。 エステで働いている有栖川 早紀は何の前触れもなく擦れ違った女子高生と共に異世界に召喚された。 早紀に付与されたスキルは【手】と【種】 異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された早紀は宮殿から追い出されてしまう。 だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。

猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!

友坂 悠
ファンタジー
あたし、レティーナ。 聖女だけど何もお仕事してないって追放されました。。 ほんとはすっごく大事なお仕事してたのに。 孤児だったあたしは大聖女サンドラ様に拾われ聖女として育てられました。そして特別な能力があったあたしは聖獣カイヤの中に眠る魔法結晶に祈りを捧げることでこの国の聖都全体を覆う結界をはっていたのです。 でも、その大聖女様がお亡くなりになった時、あたしは王宮の中にあった聖女宮から追い出されることになったのです。 住むところもなく身寄りもないあたしはなんとか街で雇ってもらおうとしますが、そこにも意地悪な聖女長さま達の手が伸びて居ました。 聖都に居場所の無くなったあたしはカイヤを連れて森を彷徨うのでした……。 そこで出会った龍神族のレヴィアさん。 彼女から貰った魔ギア、ドラゴンオプスニルと龍のシズクを得たレティーナは、最強の能力を発揮する! 追放された聖女の冒険物語の開幕デス!

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。 ――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの? 追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※序盤1話が短めです(1000字弱) ※複数視点多めです。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?

越路遼介
ファンタジー
産婦人科医、後藤茂一(54)は“気功”を生来備えていた。その気功を活用し、彼は苦痛を少なくして出産を成功させる稀代の名医であったが心不全で死去、生まれ変わってみれば、そこは前世で読んだ『聖女追放』のラノベの世界!しかも、よりによって聖女にざまぁされる馬鹿王子に!せめて聖女断罪の前に転生しろよ!と叫びたい馬鹿王子レンドル。もう聖女を追放したあとの詰んだ状態からのスタートだった。 ・全8話で無事に完結しました!『小説家になろう』にも掲載しています。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

処理中です...