20 / 40
20話
しおりを挟む
ヒーロスは、王との謁見を済ませると、その日のうちに馬でエクエスの居る町へ向かった。
もちろん背に、アティアを乗せて。
急ぐため、横に腰かけられては危険だと、男装させ馬にまたがらせた。
馬車ではなく、馬で駆ければ数週間で着く。
行く先々の村を一つ飛ばしに、祈りを捧げながら進んだ。
「アティア、愛の逃避行みたいだね」
「何を言ってるんですか、もう。いつからそんなオマセになったんです?」
「小さいころからたくさん読書してきたからね。それに宮城にいると聞かなくてもいい話も聞こえて来るもんだよー」
「そうでございますか」
「そうでございますよー」
二人は、どんどん親密になっているように見える。
一方で、公爵とセバスチャンは王都に残った。
実は、王から叙爵の打診を受けたが、丁重に固辞し、今は相談所のような事をしているのだ。
久しぶりに公爵が王都に戻ったことを聞きつけた民衆が、我も我もと家に押しかけ、相談事を持ちかけてきたのだった。
公爵は、アティア並みに王都で人気者となっていた。
公爵だった者とは思えない柔らかい物腰。
博識で聞けば何でも教えてくれた。
特に商売人からと、ヒエムスに来て直ぐの頃に、食事を分け与えてもらった者からは絶大な人気だ。
とにかく商売人が、相談に来ない日がない。
交易で何を買ってくるべきか。
店で何を売ればよいか。
料理の試食とアドバイス。
歓楽街での見世物。
お忍びで、重臣もやって来る。
外交内政など、いろんな分野の政策相談。
教育機関の設置も、公爵の案だった。
それを、セバスチャンが、お茶を出したり約束の時間の取り決めなど、スケジュールの管理。仕事し過ぎないように調整するなどの雑務をしている。
今日も、次々と、約束の時間に人が訪ねて来ていた。
もう一方では、エクエスは週に一度、兵士を招集し、日々の鍛錬を怠ってないか厳しくチェックし、素早い陣形の変形などの訓練を行っている。
また、アズバルドと共に、領主との会合を何度も持ち、やがて来るアノイトスの国王軍の撃退についての作戦を立てていた。
始めは、ギクシャクしていたが、元は辺境伯領の出身だと話すと、辺境伯が心を許し始めた。
続いてアズバルドが、ポロボロ領の出身者が兵士に大勢いるなどと語り、会合の度に懐かしき故郷の話で盛り上がるようになっていった。
元領主の領地出身者を連れて来て、思い出話に花が咲き、現状を話しては共に嘆いた。
そんな彼らの居る町やその周辺には、次々とアノイトスからやって来る移住者。
そして、王を見限った貴族たちが集まって来ていた。
中には、いつも始めに王に話しかけていた、一番の重臣だった男さえいた。
ややもすると、もう宮城には臣下がいないのではないだろうか、と思われた。
――数ヶ月前。
さらにもう一方では……。
城下は、一面銀景色。
城内は、寒く、下女の姿はない。
代わりに兵士が、下女がするような仕事をしていた。
謁見の間。
数十人は居た貴族の臣下たちが、今は数人。
その玉座で片目が飛び出て、髪はぐしゃぐしゃに乱れ、下半身をむき出しにした男が座っていた。
そこへ。
扉が開く。
「ナーマ! お前! 二ヶ月以上どこに行っていた!」
「あら、ご機嫌ななめさん。これでもひと月半かかる距離を数週間で帰って来ましたのに……」
「さっさと来い!!」
「随分と、寂しくなられましたわね。ここにいらっしゃるのは、私がお相手した方々だけとは……」
「いいから、早くしろ!!」
ナーマは、優雅に妖艶に、片手を腰に当てながら、ゆっくりとキャットウォーク。
ようやくナーマが、玉座の男の前まで来ると、プププートは腕を引っ張り、玉座の椅子に投げ捨てるように倒れ込ませ、スカートを捲し上げた。
謁見の間には少なくなったとはいえ、人がいる。
しかし、そんな者は、この男には関係がないようだ。
「やだ、強引……嫌いじゃな……あん……」
プププートは、前戯もなしにいきり立ったモノを突っ込み、激しく腰を打ち付けていく。
数度果てるまで、行為は続いた。
実は、数週間前に突如、宮城から女という女が消えたのだ。
プププートは怒り狂い、城下の女の召し上げを命じた。
しかし、城下にはプププートが指定した年齢の女は誰も居なかった。
少しの年増さえいない。
居るのは、余命いくばくもないような、老人ばかり。
数週間、情事が出来ないだけで、狂乱状態となっていた。
さきほど、ナーマが姿を現すまで、玉座で自慰に耽るという醜態をさらしていたのだ。
「はぁはぁ……はぁ……」
「あぁら、もう終いですの?」
ナーマは、少し高揚した顔をしながら、汚れた服を魔法だろうか、綺麗な服に一瞬で替える。
プププートは、満足気に天井を眺めながら、下半身をそのままに玉座に座っている。
「女を忘れるところだったわ……」
「まあまあ、うふふ」
「しかし、どいつもこいつも、何故俺を敬わない……ゴミ共め。まあ、いい。ヒーロスが何か情報を持ってくれば、こんな気候の変化などすぐ終わるだろう」
「殿下を高く買っておいでなのですわね」
「ああ、あいつは中々使えると見た」
「ええ、私も陛下よりも高く評価しておりますわ、あの時――政務室に来た時に殺しておくべきだったと……」
プププートは、呆けていたのか、その言葉が頭に沁み込んでくるまで少し間があった。
「……今、何と言った?」
「ですから、陛下の政務室に来た時に、殺しておくべきだったと申し上げたのですわ」
「お前、何を言ってる?」
「ああ、もう、面倒になってきましたわ」
そう言うと、ナーマは指を鳴らした。
その瞬間。
謁見の間に居た者たちは、人形のようになった。
もちろん背に、アティアを乗せて。
急ぐため、横に腰かけられては危険だと、男装させ馬にまたがらせた。
馬車ではなく、馬で駆ければ数週間で着く。
行く先々の村を一つ飛ばしに、祈りを捧げながら進んだ。
「アティア、愛の逃避行みたいだね」
「何を言ってるんですか、もう。いつからそんなオマセになったんです?」
「小さいころからたくさん読書してきたからね。それに宮城にいると聞かなくてもいい話も聞こえて来るもんだよー」
「そうでございますか」
「そうでございますよー」
二人は、どんどん親密になっているように見える。
一方で、公爵とセバスチャンは王都に残った。
実は、王から叙爵の打診を受けたが、丁重に固辞し、今は相談所のような事をしているのだ。
久しぶりに公爵が王都に戻ったことを聞きつけた民衆が、我も我もと家に押しかけ、相談事を持ちかけてきたのだった。
公爵は、アティア並みに王都で人気者となっていた。
公爵だった者とは思えない柔らかい物腰。
博識で聞けば何でも教えてくれた。
特に商売人からと、ヒエムスに来て直ぐの頃に、食事を分け与えてもらった者からは絶大な人気だ。
とにかく商売人が、相談に来ない日がない。
交易で何を買ってくるべきか。
店で何を売ればよいか。
料理の試食とアドバイス。
歓楽街での見世物。
お忍びで、重臣もやって来る。
外交内政など、いろんな分野の政策相談。
教育機関の設置も、公爵の案だった。
それを、セバスチャンが、お茶を出したり約束の時間の取り決めなど、スケジュールの管理。仕事し過ぎないように調整するなどの雑務をしている。
今日も、次々と、約束の時間に人が訪ねて来ていた。
もう一方では、エクエスは週に一度、兵士を招集し、日々の鍛錬を怠ってないか厳しくチェックし、素早い陣形の変形などの訓練を行っている。
また、アズバルドと共に、領主との会合を何度も持ち、やがて来るアノイトスの国王軍の撃退についての作戦を立てていた。
始めは、ギクシャクしていたが、元は辺境伯領の出身だと話すと、辺境伯が心を許し始めた。
続いてアズバルドが、ポロボロ領の出身者が兵士に大勢いるなどと語り、会合の度に懐かしき故郷の話で盛り上がるようになっていった。
元領主の領地出身者を連れて来て、思い出話に花が咲き、現状を話しては共に嘆いた。
そんな彼らの居る町やその周辺には、次々とアノイトスからやって来る移住者。
そして、王を見限った貴族たちが集まって来ていた。
中には、いつも始めに王に話しかけていた、一番の重臣だった男さえいた。
ややもすると、もう宮城には臣下がいないのではないだろうか、と思われた。
――数ヶ月前。
さらにもう一方では……。
城下は、一面銀景色。
城内は、寒く、下女の姿はない。
代わりに兵士が、下女がするような仕事をしていた。
謁見の間。
数十人は居た貴族の臣下たちが、今は数人。
その玉座で片目が飛び出て、髪はぐしゃぐしゃに乱れ、下半身をむき出しにした男が座っていた。
そこへ。
扉が開く。
「ナーマ! お前! 二ヶ月以上どこに行っていた!」
「あら、ご機嫌ななめさん。これでもひと月半かかる距離を数週間で帰って来ましたのに……」
「さっさと来い!!」
「随分と、寂しくなられましたわね。ここにいらっしゃるのは、私がお相手した方々だけとは……」
「いいから、早くしろ!!」
ナーマは、優雅に妖艶に、片手を腰に当てながら、ゆっくりとキャットウォーク。
ようやくナーマが、玉座の男の前まで来ると、プププートは腕を引っ張り、玉座の椅子に投げ捨てるように倒れ込ませ、スカートを捲し上げた。
謁見の間には少なくなったとはいえ、人がいる。
しかし、そんな者は、この男には関係がないようだ。
「やだ、強引……嫌いじゃな……あん……」
プププートは、前戯もなしにいきり立ったモノを突っ込み、激しく腰を打ち付けていく。
数度果てるまで、行為は続いた。
実は、数週間前に突如、宮城から女という女が消えたのだ。
プププートは怒り狂い、城下の女の召し上げを命じた。
しかし、城下にはプププートが指定した年齢の女は誰も居なかった。
少しの年増さえいない。
居るのは、余命いくばくもないような、老人ばかり。
数週間、情事が出来ないだけで、狂乱状態となっていた。
さきほど、ナーマが姿を現すまで、玉座で自慰に耽るという醜態をさらしていたのだ。
「はぁはぁ……はぁ……」
「あぁら、もう終いですの?」
ナーマは、少し高揚した顔をしながら、汚れた服を魔法だろうか、綺麗な服に一瞬で替える。
プププートは、満足気に天井を眺めながら、下半身をそのままに玉座に座っている。
「女を忘れるところだったわ……」
「まあまあ、うふふ」
「しかし、どいつもこいつも、何故俺を敬わない……ゴミ共め。まあ、いい。ヒーロスが何か情報を持ってくれば、こんな気候の変化などすぐ終わるだろう」
「殿下を高く買っておいでなのですわね」
「ああ、あいつは中々使えると見た」
「ええ、私も陛下よりも高く評価しておりますわ、あの時――政務室に来た時に殺しておくべきだったと……」
プププートは、呆けていたのか、その言葉が頭に沁み込んでくるまで少し間があった。
「……今、何と言った?」
「ですから、陛下の政務室に来た時に、殺しておくべきだったと申し上げたのですわ」
「お前、何を言ってる?」
「ああ、もう、面倒になってきましたわ」
そう言うと、ナーマは指を鳴らした。
その瞬間。
謁見の間に居た者たちは、人形のようになった。
0
お気に入りに追加
1,255
あなたにおすすめの小説
猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!
友坂 悠
ファンタジー
あたし、レティーナ。
聖女だけど何もお仕事してないって追放されました。。
ほんとはすっごく大事なお仕事してたのに。
孤児だったあたしは大聖女サンドラ様に拾われ聖女として育てられました。そして特別な能力があったあたしは聖獣カイヤの中に眠る魔法結晶に祈りを捧げることでこの国の聖都全体を覆う結界をはっていたのです。
でも、その大聖女様がお亡くなりになった時、あたしは王宮の中にあった聖女宮から追い出されることになったのです。
住むところもなく身寄りもないあたしはなんとか街で雇ってもらおうとしますが、そこにも意地悪な聖女長さま達の手が伸びて居ました。
聖都に居場所の無くなったあたしはカイヤを連れて森を彷徨うのでした……。
そこで出会った龍神族のレヴィアさん。
彼女から貰った魔ギア、ドラゴンオプスニルと龍のシズクを得たレティーナは、最強の能力を発揮する!
追放された聖女の冒険物語の開幕デス!

聖女召喚に巻き込まれた私はスキル【手】と【種】を使ってスローライフを満喫しています
白雪の雫
ファンタジー
某アニメの長編映画を見て思い付きで書いたので設定はガバガバ、矛盾がある、ご都合主義、深く考えたら負け、主人公による語りである事だけは先に言っておきます。
エステで働いている有栖川 早紀は何の前触れもなく擦れ違った女子高生と共に異世界に召喚された。
早紀に付与されたスキルは【手】と【種】
異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された早紀は宮殿から追い出されてしまう。
だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
転生無双の金属支配者《メタルマスター》
芍薬甘草湯
ファンタジー
異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。
成長したアウルムは冒険の旅へ。
そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。
(ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)
お時間ありましたら読んでやってください。
感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。
同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269
も良かったら読んでみてくださいませ。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?
越路遼介
ファンタジー
産婦人科医、後藤茂一(54)は“気功”を生来備えていた。その気功を活用し、彼は苦痛を少なくして出産を成功させる稀代の名医であったが心不全で死去、生まれ変わってみれば、そこは前世で読んだ『聖女追放』のラノベの世界!しかも、よりによって聖女にざまぁされる馬鹿王子に!せめて聖女断罪の前に転生しろよ!と叫びたい馬鹿王子レンドル。もう聖女を追放したあとの詰んだ状態からのスタートだった。
・全8話で無事に完結しました!『小説家になろう』にも掲載しています。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる