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最終話 あはーん!! 2
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ぼくが桜佑くんのシャツの中に手を突っ込んで、脇腹を手のひらで撫でると、桜佑くんが身を捩ってくすぐったいと言いながら大きく息を吐く。
「あれ桜なんだ」
「そう。母さんが桜、すきだから……」
「それできみの名前も桜佑なわけか。桜佑に桜子に桜の匂い。きみは桜尽くしだな」
「ちょっとまって、ほんと、むり、」
「やめとく?」
無理はさせられないと思って、一度身体を離して桜佑くんの様子を伺うと、桜佑くんは顔を真っ赤にしながら、ぼくにすり寄ってきて軽いキスをした。
「あの、もうちょっと、ゆっくりして……先生」
こんなことしてるのに先生なんて呼ばれるのは、なんだか背徳的だとか、がっつきすぎて申し訳ないとか、今度は桜子ちゃんの姿でお願いしようとか、いろんなことを考えながらぼくは取り敢えず、彼に嫌われないように優しく触ろうと、もう一度キスのお返しをした。
「脱がしていい?」
「がっかりしませんか」
「どうだろ、分かんないけど。でもきっと平気だ」
薄手の長袖シャツを脱がせると、桜佑くんの身体は予想通りの筋肉のなさだった。
それはそうだ、男らしく筋骨隆々としていたら、女の子の服は着られない。
ぼくはほんのりと桜の匂いのする身体に鼻先を押し付けて、背中側に腕を回して安心させるようにその背中を撫でながら、ベルトのバックルに手をかけた。
桜佑くんが息を詰めたのが分かったから、
「どうする? 怖い?」
と聞いてみると、
「いや、大丈夫……」
と全然大丈夫じゃなさそうな顔で桜佑くんは応えた。
ぼくはなんだかその顔が可笑しくて、でも流石に可哀想だから、前だけ触る?と提案してみる。
でも桜佑くんはもう一度、大丈夫だから、と言って、次にはぼくの服をたくし上げてきた。
だからぼくは、上の服を脱がされながら遠慮なく彼のベルトに手をかける。
ベルトを外し、ボタンを外してチャックを下ろすと、
((ごめんねここまでよ!! カットしまーす! チョキチョキ!!))
「そういえば、桜佑くんは就職はどうなったの」
ぼくの家を出て、もう明け方近くになるよく知った道を、桜佑くんの家までふたりで並んで歩く。
指先が触れるか触れないかの距離で、誰に見られるわけでもないのに、まるで気恥ずかしさを隠すかのようにお互いに照れ笑いをした。
あの公園を通り過ぎたところで、ぼくは不意に思い出して桜佑くんに聞いてみた。
「あ、おれ実は、広告モデルのバイトしてるんです。今はまだ微々たるものなんですけど、おれ男女どっちも着れるから、そういう売り方でもうちょっと有名になれたらなって。それまでは、葉太先生の実家の定食屋で働きます。おじさんにはもうお願いしてあるので、大丈夫ですよ」
「そうなの!?」
聞いてないんだけど、とか、そんな不安定な感じで大丈夫なのかとか、先生としては心配でしかない将来設計だけど、取り敢えずはぼくの傍にいるらしい。
公園の桜は、しばらくは寂しい気持ちで眺めずに済みそうだ。
おしまい。
「あれ桜なんだ」
「そう。母さんが桜、すきだから……」
「それできみの名前も桜佑なわけか。桜佑に桜子に桜の匂い。きみは桜尽くしだな」
「ちょっとまって、ほんと、むり、」
「やめとく?」
無理はさせられないと思って、一度身体を離して桜佑くんの様子を伺うと、桜佑くんは顔を真っ赤にしながら、ぼくにすり寄ってきて軽いキスをした。
「あの、もうちょっと、ゆっくりして……先生」
こんなことしてるのに先生なんて呼ばれるのは、なんだか背徳的だとか、がっつきすぎて申し訳ないとか、今度は桜子ちゃんの姿でお願いしようとか、いろんなことを考えながらぼくは取り敢えず、彼に嫌われないように優しく触ろうと、もう一度キスのお返しをした。
「脱がしていい?」
「がっかりしませんか」
「どうだろ、分かんないけど。でもきっと平気だ」
薄手の長袖シャツを脱がせると、桜佑くんの身体は予想通りの筋肉のなさだった。
それはそうだ、男らしく筋骨隆々としていたら、女の子の服は着られない。
ぼくはほんのりと桜の匂いのする身体に鼻先を押し付けて、背中側に腕を回して安心させるようにその背中を撫でながら、ベルトのバックルに手をかけた。
桜佑くんが息を詰めたのが分かったから、
「どうする? 怖い?」
と聞いてみると、
「いや、大丈夫……」
と全然大丈夫じゃなさそうな顔で桜佑くんは応えた。
ぼくはなんだかその顔が可笑しくて、でも流石に可哀想だから、前だけ触る?と提案してみる。
でも桜佑くんはもう一度、大丈夫だから、と言って、次にはぼくの服をたくし上げてきた。
だからぼくは、上の服を脱がされながら遠慮なく彼のベルトに手をかける。
ベルトを外し、ボタンを外してチャックを下ろすと、
((ごめんねここまでよ!! カットしまーす! チョキチョキ!!))
「そういえば、桜佑くんは就職はどうなったの」
ぼくの家を出て、もう明け方近くになるよく知った道を、桜佑くんの家までふたりで並んで歩く。
指先が触れるか触れないかの距離で、誰に見られるわけでもないのに、まるで気恥ずかしさを隠すかのようにお互いに照れ笑いをした。
あの公園を通り過ぎたところで、ぼくは不意に思い出して桜佑くんに聞いてみた。
「あ、おれ実は、広告モデルのバイトしてるんです。今はまだ微々たるものなんですけど、おれ男女どっちも着れるから、そういう売り方でもうちょっと有名になれたらなって。それまでは、葉太先生の実家の定食屋で働きます。おじさんにはもうお願いしてあるので、大丈夫ですよ」
「そうなの!?」
聞いてないんだけど、とか、そんな不安定な感じで大丈夫なのかとか、先生としては心配でしかない将来設計だけど、取り敢えずはぼくの傍にいるらしい。
公園の桜は、しばらくは寂しい気持ちで眺めずに済みそうだ。
おしまい。
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