葉桜の君に

夏緒

文字の大きさ
上 下
12 / 12

最終話 あはーん!! 2

しおりを挟む
 ぼくが桜佑くんのシャツの中に手を突っ込んで、脇腹を手のひらで撫でると、桜佑くんが身を捩ってくすぐったいと言いながら大きく息を吐く。
「あれ桜なんだ」
「そう。母さんが桜、すきだから……」
「それできみの名前も桜佑なわけか。桜佑に桜子に桜の匂い。きみは桜尽くしだな」
「ちょっとまって、ほんと、むり、」
「やめとく?」
 無理はさせられないと思って、一度身体を離して桜佑くんの様子を伺うと、桜佑くんは顔を真っ赤にしながら、ぼくにすり寄ってきて軽いキスをした。
「あの、もうちょっと、ゆっくりして……先生」
 こんなことしてるのに先生なんて呼ばれるのは、なんだか背徳的だとか、がっつきすぎて申し訳ないとか、今度は桜子ちゃんの姿でお願いしようとか、いろんなことを考えながらぼくは取り敢えず、彼に嫌われないように優しく触ろうと、もう一度キスのお返しをした。

「脱がしていい?」
「がっかりしませんか」
「どうだろ、分かんないけど。でもきっと平気だ」
 薄手の長袖シャツを脱がせると、桜佑くんの身体は予想通りの筋肉のなさだった。
 それはそうだ、男らしく筋骨隆々としていたら、女の子の服は着られない。
 ぼくはほんのりと桜の匂いのする身体に鼻先を押し付けて、背中側に腕を回して安心させるようにその背中を撫でながら、ベルトのバックルに手をかけた。
 桜佑くんが息を詰めたのが分かったから、
「どうする? 怖い?」
と聞いてみると、
「いや、大丈夫……」
と全然大丈夫じゃなさそうな顔で桜佑くんは応えた。
 ぼくはなんだかその顔が可笑しくて、でも流石に可哀想だから、前だけ触る?と提案してみる。
 でも桜佑くんはもう一度、大丈夫だから、と言って、次にはぼくの服をたくし上げてきた。
 だからぼくは、上の服を脱がされながら遠慮なく彼のベルトに手をかける。
 ベルトを外し、ボタンを外してチャックを下ろすと、
 

((ごめんねここまでよ!! カットしまーす! チョキチョキ!!))




「そういえば、桜佑くんは就職はどうなったの」
 ぼくの家を出て、もう明け方近くになるよく知った道を、桜佑くんの家までふたりで並んで歩く。
 指先が触れるか触れないかの距離で、誰に見られるわけでもないのに、まるで気恥ずかしさを隠すかのようにお互いに照れ笑いをした。
 あの公園を通り過ぎたところで、ぼくは不意に思い出して桜佑くんに聞いてみた。
「あ、おれ実は、広告モデルのバイトしてるんです。今はまだ微々たるものなんですけど、おれ男女どっちも着れるから、そういう売り方でもうちょっと有名になれたらなって。それまでは、葉太先生の実家の定食屋で働きます。おじさんにはもうお願いしてあるので、大丈夫ですよ」
「そうなの!?」
 聞いてないんだけど、とか、そんな不安定な感じで大丈夫なのかとか、先生としては心配でしかない将来設計だけど、取り敢えずはぼくの傍にいるらしい。
 公園の桜は、しばらくは寂しい気持ちで眺めずに済みそうだ。



おしまい。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

たまにはゆっくり、歩きませんか?

隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。 よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。 世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

処理中です...