9 / 12
9話 桜子と葉太と桜佑 3
しおりを挟む
「ぼくはさ、きみを、別れた恋人に重ねていたんだ。そっくりなんだよ、きみ、あ、違うな、桜子ちゃんと。顔も、名前も」
「名前も、って、桜子……」
「そう、櫻子って名前だったんだ、難しいほうの漢字の、櫻子ね。桜子ちゃんを初めて見たとき驚いたよ、そっくりだったからさ。だからぼくは、いつもきみの味方のふりをして、きみに櫻子ちゃんを重ねて、櫻子ちゃんに会ってるつもりになって喜んでたんだ。ごめんね。本当。最低だな。だからきみは、こんなぼくを好きになんてならなくてもいいんだよ。それを伝えなきゃと思ってて……」
このあとなんて付け足そう……。ちょっとなにが言いたいのか自分でも分からなくなってきた。
ぼくがそうやって次の言葉を選んでいると、それまで黙ってぼくのはなしを聞いていた桜佑くんが、小さな声で呟いた。
「……、それでも好きって言ったら」
「え、」
ぼくがその声に釣られて彼の方を向くと、桜佑くんはいつもと変わらない表情で、今度はまっすぐにはっきりと、
「そんなのは関係ないから、それでもおれが、葉太先生のことを好きだって言ったら、どうしますか」
と言った。
「どうっ、て……」
「先生はおれを嫌いになる?」
「まさか。そんなことはないけど、」
「じゃあいいです」
「なにが?」
「おれはカラダだけの関係でもいいですよ!」
「なに言ってんだきみは! いいわけないだろ!!」
ぼくは目眩がしそうになった。
急になにを言い出すんだこの子は……。
「葉太先生が傍にいてくれるなら、それでもいいよ」
「あのねぇ、桜佑くん……」
桜佑くんのまっすぐな目に、ぼくはなんかもう脱力してしまって、へなへなと項垂れた。
そうじゃない、そうじゃないぞ。
「あのね、桜佑くん。それはだめなんだよ。気持ちが伴わない身体だけの関係なんて、いくら男の子でも言ったらいけないよ。そんなのは虚しいだけだ。……ぼくはきみと、いや桜子ちゃんと、だな、一緒にいても、櫻子ちゃんに会っているのかきみに会っているのか自分でも曖昧なんだ。そんな状態できみの気持ちを受け入れるわけにはいかないし、第一きみまだ17歳の、しかも男の子だろ、身体の関係なんて持てないよ」
「……キスは?」
「キスもだめ。この間は本当にごめん」
ぼくが改めて頭を下げると、桜佑くんはまだ納得行かないみたいで、もう一度ぼくに「でも、」と言った。
「そしたらおれは、この気持ちの持っていきようがない。これからだって火曜日に会うのに、おれは今度から先生にどんな顔をすればいいんですか」
「それは……」
「この気持ちは嘘じゃないんだよ。キスしてもらって浮かれてた。それが例え、おれに対してのものじゃなかったとしても」
「名前も、って、桜子……」
「そう、櫻子って名前だったんだ、難しいほうの漢字の、櫻子ね。桜子ちゃんを初めて見たとき驚いたよ、そっくりだったからさ。だからぼくは、いつもきみの味方のふりをして、きみに櫻子ちゃんを重ねて、櫻子ちゃんに会ってるつもりになって喜んでたんだ。ごめんね。本当。最低だな。だからきみは、こんなぼくを好きになんてならなくてもいいんだよ。それを伝えなきゃと思ってて……」
このあとなんて付け足そう……。ちょっとなにが言いたいのか自分でも分からなくなってきた。
ぼくがそうやって次の言葉を選んでいると、それまで黙ってぼくのはなしを聞いていた桜佑くんが、小さな声で呟いた。
「……、それでも好きって言ったら」
「え、」
ぼくがその声に釣られて彼の方を向くと、桜佑くんはいつもと変わらない表情で、今度はまっすぐにはっきりと、
「そんなのは関係ないから、それでもおれが、葉太先生のことを好きだって言ったら、どうしますか」
と言った。
「どうっ、て……」
「先生はおれを嫌いになる?」
「まさか。そんなことはないけど、」
「じゃあいいです」
「なにが?」
「おれはカラダだけの関係でもいいですよ!」
「なに言ってんだきみは! いいわけないだろ!!」
ぼくは目眩がしそうになった。
急になにを言い出すんだこの子は……。
「葉太先生が傍にいてくれるなら、それでもいいよ」
「あのねぇ、桜佑くん……」
桜佑くんのまっすぐな目に、ぼくはなんかもう脱力してしまって、へなへなと項垂れた。
そうじゃない、そうじゃないぞ。
「あのね、桜佑くん。それはだめなんだよ。気持ちが伴わない身体だけの関係なんて、いくら男の子でも言ったらいけないよ。そんなのは虚しいだけだ。……ぼくはきみと、いや桜子ちゃんと、だな、一緒にいても、櫻子ちゃんに会っているのかきみに会っているのか自分でも曖昧なんだ。そんな状態できみの気持ちを受け入れるわけにはいかないし、第一きみまだ17歳の、しかも男の子だろ、身体の関係なんて持てないよ」
「……キスは?」
「キスもだめ。この間は本当にごめん」
ぼくが改めて頭を下げると、桜佑くんはまだ納得行かないみたいで、もう一度ぼくに「でも、」と言った。
「そしたらおれは、この気持ちの持っていきようがない。これからだって火曜日に会うのに、おれは今度から先生にどんな顔をすればいいんですか」
「それは……」
「この気持ちは嘘じゃないんだよ。キスしてもらって浮かれてた。それが例え、おれに対してのものじゃなかったとしても」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

素直じゃない人
うりぼう
BL
平社員×会長の孫
社会人同士
年下攻め
ある日突然異動を命じられた昭仁。
異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。
厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。
しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。
そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり……
というMLものです。
えろは少なめ。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

たまにはゆっくり、歩きませんか?
隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。
よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。
世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる