葉桜の君に

夏緒

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9話 桜子と葉太と桜佑 3

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「ぼくはさ、きみを、別れた恋人に重ねていたんだ。そっくりなんだよ、きみ、あ、違うな、桜子ちゃんと。顔も、名前も」
「名前も、って、桜子……」
「そう、櫻子って名前だったんだ、難しいほうの漢字の、櫻子ね。桜子ちゃんを初めて見たとき驚いたよ、そっくりだったからさ。だからぼくは、いつもきみの味方のふりをして、きみに櫻子ちゃんを重ねて、櫻子ちゃんに会ってるつもりになって喜んでたんだ。ごめんね。本当。最低だな。だからきみは、こんなぼくを好きになんてならなくてもいいんだよ。それを伝えなきゃと思ってて……」
 このあとなんて付け足そう……。ちょっとなにが言いたいのか自分でも分からなくなってきた。
 ぼくがそうやって次の言葉を選んでいると、それまで黙ってぼくのはなしを聞いていた桜佑くんが、小さな声で呟いた。
「……、それでも好きって言ったら」
「え、」
 ぼくがその声に釣られて彼の方を向くと、桜佑くんはいつもと変わらない表情で、今度はまっすぐにはっきりと、
「そんなのは関係ないから、それでもおれが、葉太先生のことを好きだって言ったら、どうしますか」
と言った。
「どうっ、て……」
「先生はおれを嫌いになる?」
「まさか。そんなことはないけど、」
「じゃあいいです」
「なにが?」
「おれはカラダだけの関係でもいいですよ!」
「なに言ってんだきみは! いいわけないだろ!!」
 ぼくは目眩がしそうになった。
 急になにを言い出すんだこの子は……。
「葉太先生が傍にいてくれるなら、それでもいいよ」
「あのねぇ、桜佑くん……」
 桜佑くんのまっすぐな目に、ぼくはなんかもう脱力してしまって、へなへなと項垂れた。
 そうじゃない、そうじゃないぞ。
「あのね、桜佑くん。それはだめなんだよ。気持ちが伴わない身体だけの関係なんて、いくら男の子でも言ったらいけないよ。そんなのは虚しいだけだ。……ぼくはきみと、いや桜子ちゃんと、だな、一緒にいても、櫻子ちゃんに会っているのかきみに会っているのか自分でも曖昧なんだ。そんな状態できみの気持ちを受け入れるわけにはいかないし、第一きみまだ17歳の、しかも男の子だろ、身体の関係なんて持てないよ」
「……キスは?」
「キスもだめ。この間は本当にごめん」
 ぼくが改めて頭を下げると、桜佑くんはまだ納得行かないみたいで、もう一度ぼくに「でも、」と言った。
「そしたらおれは、この気持ちの持っていきようがない。これからだって火曜日に会うのに、おれは今度から先生にどんな顔をすればいいんですか」
「それは……」
「この気持ちは嘘じゃないんだよ。キスしてもらって浮かれてた。それが例え、おれに対してのものじゃなかったとしても」
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