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6話 桜佑と葉太と桜子 3
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そりゃ可愛いさ、少なくともぼくには可愛く見えるに決まっている。
だってきみは……櫻子ちゃんにそっくりだ。
「あの、趣味なんだろうからその姿にごちゃごちゃ言うつもりはないんだけどさ、でも、こんな時間にひとりで外に出てたらだめだよ」
ぼくがまずそう窘めると、桜子ちゃんはうーん、と困ったような表情を作ってから、
「それはまあ、そうなんですけどね。でも家ではいつ見つかるか分からないから、こんなことできないんですよね……」
と、今度は少ししょんぼりしてみせた。
今度はぼくがうーんと唸る。
櫻子ちゃんにそっくりな桜子ちゃんから桜佑くんの声がする……。
なんとも不思議な感覚だ。
「ここでなにをしてるの」
「写真を撮ってたんですよ」
「写真?」
「そう。見ますか? なかなか上手く撮れてると思うんだけど」
そう言った桜子ちゃんが差し出したスマホの中には、桜の樹を背景に楽しそうな顔をしている桜子ちゃんが何枚も入っていた。
指でスライドするごとに季節がどんどん巻き戻っていき、雪の中でもこもこの服に包まれてる桜子ちゃん、秋色の可愛い服を着た桜子ちゃんが、何枚も何枚も出てくる。
「きみは女の子になりたいの?」
「別に女の子になりたいわけではないんですけど、ただ可愛い格好をするのが好きなんです」
「へぇ……」
「お母さんたちには、言わないでくださいね。秘密にしてるんです、これ以上心配させたくないし。お母さん多分、おれがこんなことしてるの知ったら、ひっくり返ってしまうから」
ぼくはあの優しそうなお母さんを思い出した。
彼女もまさか自分の息子が夜な夜な近所の公園で女の子に変身しているなんて、夢にも思わないだろう。
「うん、そうだね。流石に……。でもこの服、どうやって買ったの、お化粧の道具とかも」
「全部ネットで買いました。服も化粧品もウィッグも、小遣い貯めて」
「そうかー……。ネットって便利だね……。でもやっぱり、取り敢えずはさ、」
こんな時間にひとりで外にいたらだめだ。ぼくはまずそれを心配することにした。
桜子ちゃんは心配させたくないと言うけれど、お母さんはもう既に心配している。
「もうちょっとなにか、いい方法はないかな」
「葉太先生、なんか先生みたいですね」
「ぼくはきみの先生のつもりなんだけど……」
知ってしまったからには放っておくわけにはいかない。
桜子ちゃんがぼくの親にもバレたくないというので、ぼくの家での保護は取り敢えず見送り。
ぼくたちは頭を突き合わせてうんうん唸った。
そうした結果、どうやら毎日ではないらしいから、それなら表向きは公園で運動をしていることにして、ぼくがそれに付き合ってやればいいんだという結論に達した。
まあ、ひとりでなければ、それをお母さんにも説明すれば、今よりは安心な状態になるのではないか。
それに汚いはなし、ぼくには下心もあった。
ここに来れば、櫻子ちゃんに会っているような感覚になれるかもしれない。
ぼくはまだ未練がましく櫻子ちゃんの面影を探している。
だってきみは……櫻子ちゃんにそっくりだ。
「あの、趣味なんだろうからその姿にごちゃごちゃ言うつもりはないんだけどさ、でも、こんな時間にひとりで外に出てたらだめだよ」
ぼくがまずそう窘めると、桜子ちゃんはうーん、と困ったような表情を作ってから、
「それはまあ、そうなんですけどね。でも家ではいつ見つかるか分からないから、こんなことできないんですよね……」
と、今度は少ししょんぼりしてみせた。
今度はぼくがうーんと唸る。
櫻子ちゃんにそっくりな桜子ちゃんから桜佑くんの声がする……。
なんとも不思議な感覚だ。
「ここでなにをしてるの」
「写真を撮ってたんですよ」
「写真?」
「そう。見ますか? なかなか上手く撮れてると思うんだけど」
そう言った桜子ちゃんが差し出したスマホの中には、桜の樹を背景に楽しそうな顔をしている桜子ちゃんが何枚も入っていた。
指でスライドするごとに季節がどんどん巻き戻っていき、雪の中でもこもこの服に包まれてる桜子ちゃん、秋色の可愛い服を着た桜子ちゃんが、何枚も何枚も出てくる。
「きみは女の子になりたいの?」
「別に女の子になりたいわけではないんですけど、ただ可愛い格好をするのが好きなんです」
「へぇ……」
「お母さんたちには、言わないでくださいね。秘密にしてるんです、これ以上心配させたくないし。お母さん多分、おれがこんなことしてるの知ったら、ひっくり返ってしまうから」
ぼくはあの優しそうなお母さんを思い出した。
彼女もまさか自分の息子が夜な夜な近所の公園で女の子に変身しているなんて、夢にも思わないだろう。
「うん、そうだね。流石に……。でもこの服、どうやって買ったの、お化粧の道具とかも」
「全部ネットで買いました。服も化粧品もウィッグも、小遣い貯めて」
「そうかー……。ネットって便利だね……。でもやっぱり、取り敢えずはさ、」
こんな時間にひとりで外にいたらだめだ。ぼくはまずそれを心配することにした。
桜子ちゃんは心配させたくないと言うけれど、お母さんはもう既に心配している。
「もうちょっとなにか、いい方法はないかな」
「葉太先生、なんか先生みたいですね」
「ぼくはきみの先生のつもりなんだけど……」
知ってしまったからには放っておくわけにはいかない。
桜子ちゃんがぼくの親にもバレたくないというので、ぼくの家での保護は取り敢えず見送り。
ぼくたちは頭を突き合わせてうんうん唸った。
そうした結果、どうやら毎日ではないらしいから、それなら表向きは公園で運動をしていることにして、ぼくがそれに付き合ってやればいいんだという結論に達した。
まあ、ひとりでなければ、それをお母さんにも説明すれば、今よりは安心な状態になるのではないか。
それに汚いはなし、ぼくには下心もあった。
ここに来れば、櫻子ちゃんに会っているような感覚になれるかもしれない。
ぼくはまだ未練がましく櫻子ちゃんの面影を探している。
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