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2話 櫻子と葉太と桜佑 2
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「はあ、」
「葉太くん大学はもう去年卒業したんだろ、そしたらさ、店が閉まってる火曜日ならヒマなんじゃねえかなあと思って、おれぁ奥さんに言ったんだ、アテがあるから聞いてきてやるよって」
「え、ちょっと待ってください? アテってぼくのことですか」
「どうせこないだ彼女に振られたんだから予定なんてないんだろ? 頼むよー、おれぁあの奥さんにいい顔をしてぇんだよ、な?」
「ちょっと待って、いろいろツッコミどころが……」
思わずぼくは足を止めた。
佐々木さん、自分の奥さんに今のだらしない顔見られたらきっと怒られるぞ、とか、なんで佐々木さんがぼくが振られたことを知っているんだ、とか、ちょっとそのはなし、ぼくには荷が重い気がする、とか、どこから口を挟めばいいのか分からなくてしばらく逡巡する。
そうしていると、奥ではなしを聞いていたらしいぼくの母さんが厨房から出てきて
「あらいいじゃないの」
と勝手に承諾してしまった。
「うちのお客さんを増やすチャンスかもしれないし、行ってきなさいよ。勉強だけじゃなくて、いろいろ話し相手にもなってあげたらいいじゃない」
そう言って母さんがぼくの背中をばちんと叩いたことで、ぼくの休日は周りの大人たちの事情によって、何故か近所の家の家庭教師をすることになった。
「ここ、か……」
確かにぼくの家からそんなに離れていないところに、その家はあった。
歩いて10分くらいだと言うのに、生活圏内にないとこんなにも知らないものなんだな。
綺麗な外観の白い一軒家に白い門扉。
表札には『春川』と書かれている。
佐々木さんが前もっていろいろと連絡してくれているというので、ぼくはその塀の前で散々躊躇った末に一度大きく深呼吸をして、恐る恐るそのインターホンを軽く押した。
「葉太くん大学はもう去年卒業したんだろ、そしたらさ、店が閉まってる火曜日ならヒマなんじゃねえかなあと思って、おれぁ奥さんに言ったんだ、アテがあるから聞いてきてやるよって」
「え、ちょっと待ってください? アテってぼくのことですか」
「どうせこないだ彼女に振られたんだから予定なんてないんだろ? 頼むよー、おれぁあの奥さんにいい顔をしてぇんだよ、な?」
「ちょっと待って、いろいろツッコミどころが……」
思わずぼくは足を止めた。
佐々木さん、自分の奥さんに今のだらしない顔見られたらきっと怒られるぞ、とか、なんで佐々木さんがぼくが振られたことを知っているんだ、とか、ちょっとそのはなし、ぼくには荷が重い気がする、とか、どこから口を挟めばいいのか分からなくてしばらく逡巡する。
そうしていると、奥ではなしを聞いていたらしいぼくの母さんが厨房から出てきて
「あらいいじゃないの」
と勝手に承諾してしまった。
「うちのお客さんを増やすチャンスかもしれないし、行ってきなさいよ。勉強だけじゃなくて、いろいろ話し相手にもなってあげたらいいじゃない」
そう言って母さんがぼくの背中をばちんと叩いたことで、ぼくの休日は周りの大人たちの事情によって、何故か近所の家の家庭教師をすることになった。
「ここ、か……」
確かにぼくの家からそんなに離れていないところに、その家はあった。
歩いて10分くらいだと言うのに、生活圏内にないとこんなにも知らないものなんだな。
綺麗な外観の白い一軒家に白い門扉。
表札には『春川』と書かれている。
佐々木さんが前もっていろいろと連絡してくれているというので、ぼくはその塀の前で散々躊躇った末に一度大きく深呼吸をして、恐る恐るそのインターホンを軽く押した。
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