とてもチンケな恋のはなし

夏緒

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34話 ストーカーは生まれ変わりたい。9

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「知ってんだよあんたのこと。ゆたか以外にも何人も何人も何人も相手してんだろこのヤリマンが!! わたしのゆたかに近づかないでよ!! あんたのせいでこっちはもう滅茶苦茶なんだよ!!」
 涙で充血し始めた目を見開いてゆたかくんの彼女はジュリアに食ってかかった。
 胸ぐらを掴みそうな勢いのゆたかくんの彼女を、もうひとりの女性が慌てて止めている。
 拓ちゃんもなんとか間に入ってジュリアを守ろうと思ったが、如何せんどう間に入ればいいのか分からない。
 すると拓ちゃんがおろおろしだす前に、ジュリアがすっと表情を変えて、それからゆたかくんの彼女に向かって頭を下げた。
「ごめんなさい」
「は?」
 ゆたかくんの彼女は、ジュリアが素直に謝ってきたことに少し動揺したのか、胸ぐらを掴もうとしていた手を止めた。
「ごめんなさい。あなたの気持ちを考えずに軽率なことをしてしまって。ゆたかくんとはもう会いません。連絡先も消します」
「謝って済むと思ってんの」
 ゆたかくんの彼女の声は震えている。
「わたしが今までどんな気持ちでいたのかなんて分かんないんでしょ。だからそうやって謝れば済むと思ってる」
 ジュリアはなにも言い返さなかった。
 ただずっと頭を下げ続けるジュリアにゆたかくんの彼女は困ってきたのか、今度は拓ちゃんをきっと睨んできた。
「あんたも知ってんでしょう、この女がどんな女なのか。彼氏だか取り巻きだか知らないけど、ヤリマンなんだよこいつは。誰とでも寝るの。誰とでも。糞だわ。頭おかしい。病気うつされる前にあんたも別れたほうがいいんじゃないの。っていうか自分の女ならおまえがこいつなんとかしろや!!」
 興奮からなのか元からそうなのか、ゆたかくんの彼女は随分と口汚い。
 だがそんなことも気にならないほどに、拓ちゃんは無性に腹が立った。
 公衆の面前で必要以上にジュリアの悪口を言うな。
 赤の他人がぼくとジュリアのことに口を出してくるな。
 謝っているジュリアにこれ以上の恥をかかせるのは、許さない。
 拓ちゃんは努めて冷静な声を出した。
 それができたのは、ひとえに深夜の面倒臭いコンビニ客を相手にし続けてきた成果である。
「ぼくはただ、好きな人の傍にいるだけだ」
 ゆたかくんの彼女は、まっすぐに拓ちゃんのことを睨んできた。
 恐い。
 怒っている女性はみんな恐い。
 それが自分に向かってくる赤の他人なら尚更だ。
 それでも拓ちゃんは、なんとか物怖じしていないように取り繕いながら言葉を続けた。
「彼女がどんな人なのかはぼくだって知っている。きみには本当に申し訳なかった。ぼくも一緒に謝る。でもぼくは、彼女がなにをしていても、それでもいいと思ったから、愛しているから傍にいるんだ。きみにぼくたちのことまでとやかく言われる筋合いはない」
 その言葉に、ジュリアは下げていた頭を上げた。
「拓ちゃん……」
 ゆたかくんの彼女は、それでも悔しそうな目で拓ちゃんを睨んでくる。
 友だちの女性が、もう行こう? ね? とゆたかくんの彼女を宥めた。
 ゆたかくんの彼女は、最後にぼろっと一粒涙を溢してから、赤くなった顔で捨て台詞を吐いた。
「それは愛じゃない。あといい歳こいてぼくって言うな気持ち悪い!!」
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