とてもチンケな恋のはなし

夏緒

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28話 ストーカーは生まれ変わりたい。3

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 そこから、何をしていたのかよく分からないままに時間が過ぎ、我に返っていろいろ実感が湧いてきたのが仕事終わりの早朝だった。
 朝の少し肌寒い空気の中を歩いて帰途につきながら自分の手のひらを眺めた。
 抱いたのだ、ジュリアを。
 そう思った途端、拓ちゃんは思わず足を止めて身震いをした。
 なんでだ。
 なにがどうなっている。
 わけがわからない。
 なにが起こった。
 見つめる手のひらに柔らかな肉の感触が蘇ってくる。
 柔らかかった。どこもかしこも。
 柔らかかったんだ。

 それから拓ちゃんは、カメラ越しに呼ばれるがまま、もしくは呼ばれずとも、ジュリアの部屋を訪れるようになった。
 自分から赴くときには気をつけなければいけない。
 違う誰かと鉢合わせないように。ジュリアが出かけようとしているのを邪魔しないように。
 週に一度、10日に一度。そのくらいの頻度で拓ちゃんはジュリアの部屋のインターホンを押した。
 しかしこうなってくると面白くないのは他の男たちの存在だ。
 本心では、もう彼らと会うのはやめてもらいたかった。
 自分がいるのだから、拓ちゃんが誰よりもジュリアのことを愛しているのは間違いないのだから、それだけでいいはずじゃないか。そう思っていたし、事実何度かオブラートに厳重に包んでそう伝えてはみたのだけれども、ジュリアはそんな拓ちゃんの言葉にはろくに耳を貸さなかった。
 オブラートの量が多すぎたかもしれない、などと思っていた。
 ある日、そうしてすっかり馴れてきたビビッドイエローのベッドの上で、拓ちゃんはジュリアの胸に顔を埋めて微睡んでいた。
 ジュリアもうつらうつらとしていて、ああ、このまま眠りにつけたら一生起きなくてもいいとさえ思う。
「ジュリア」
「なあに、拓ちゃん」
「独り占めしたい」
「ん~?」
「……、いや、なんでもない」
 自分だけを見てほしい。
 そう伝えたいのだけれど、上手く伝えられる自信がない。
 言いかけて口籠った拓ちゃんに、ジュリアは何を思ったかしばらく考え込んでから、ぽつりと洩らし始めた。
「男の子ってね、不思議なの」
「不思議?」
「一度寝るとね、あたしのことを自分のものだと思うみたいなの。そんなはずないのにね。あたしはあたしだけのものなのに」
「え……?」
 その言葉は、男の子、と一括りにはされているものの、その実拓ちゃんひとりに対して投げかけられたもののように感じて、拓ちゃんは静かにどきっとした。
「拓ちゃんは、あたしとどうなりたいの?」
 突然投げかけられたそんな言葉に、拓ちゃんは戸惑った。
 ジュリアはいつものにこにこした笑顔を引っ込め、まっすぐに拓ちゃんの目を見てくる。
 拓ちゃんは人とまっすぐ目を合わせることに慣れていないので非常に戸惑ったけれども、それでも、これはチャンスかもしれない、自分の気持ちをちゃんと伝えるのは今しかないのかもしれないと思って、頑張ってジュリアをまっすぐに見返してみた。
 どうなりたいか? ジュリアとどうなりたいかだって?
 そんなものは決まっている。
「ぼくだけと、付き合ってほしい」
 そしてゆくゆくは結婚してほしい。
「それ、あたしにメリットある?」
「えっ?」
 拓ちゃんは返ってきた返事に驚いて固まってしまった。
 メリット……?
 ジュリアが拓ちゃんと付き合うことによって得られるメリット?
 そんなもの……、考えたこともない。
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