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10話 ストーカー、窮地に陥る。3
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「待て! 行くなジュリア!!」
自分の姿なんて気にしてはいられない。
勇気がなんだ、自信がなんだ。
ジュリアが危ない。その一心で吉崎 拓哉は玄関を飛び出した。
ガチャっと勢いよく玄関ドアを開けると、ちょうど隣の部屋からジュリアと男も出てきたところだった。
「ジュリア!!」
吉崎 拓哉が叫ぶと、ジュリアは驚いた顔で吉崎 拓哉を振り返り、勢いに気圧されて一歩後ずさった。
「ジュリアだめだ、そいつから離れろ、ぼくのところにくるんだ!」
吉崎 拓哉がそういって腕を広げると、ジュリアは困ったように吉崎 拓哉と男、リョウの顔を見比べた。そして、吉崎 拓哉に曖昧に笑ってみせ、それからこう言った。
「あの……、だれ?」
「あ……、」
ジュリアは、2年も前に一度挨拶を交わしただけの隣人のことなど、覚えてはいなかった。
ひとえに吉崎 拓哉の緻密なストーカー行動の賜物である。
「ジュリア、知り合い?」
「え? うーん……、知ってるような……、知らないような……?」
リョウに尋ねられたジュリアは首を傾げている。当然だ。
吉崎 拓哉は腕を広げたまま固まった。石のごとく。
自分が絶対にやってはいけないミスを犯したことに気づいたのだ。
ジュリアの前に己の姿を晒してしまった。髪が伸びてもさもさとしており、髭も剃っていない。部屋着はよれよれとしていて見るも無残。分厚い黒縁眼鏡だけが武装状態だ。
しかもあろうことかジュリアの名前を呼んでしまった。誤魔化しようがないほど大声で。それはもうはっきりと。
なぜ名前を知っているのか、などと聞かれたらもうお仕舞いだ。部屋に侵入を許しパソコン画面を見られようものなら即刻お縄。迷惑防止条例ストーカー規制法違反容疑で手錠をかけられてしまう。ジュリアを救うどころではない。明日の朝には自分の預かり知らぬところでテレビと新聞とネットニュースを賑わすネタになるのだ。仮に出所したってもう生きていけない。
だからこそ吉崎 拓哉は石になった。
今までいかに見つからずにやり遂げるかは考えてきても、いざバレたときにどうするか、などということは、一切考えてこなかった。
吉崎 拓哉が固まった状態のままでいると、眼前のふたりも固まったまま動かない。
だらだらと脂汗を流しながら吉崎 拓哉は必死に脳みそだけをフル回転し、それからジリ、と片足だけ、玄関ドアのほうへと動かした。
そこから部屋へ逆戻りしようと勢いよく体を動かす。
開けっ放しだった玄関ドアへ手をかけ、取り敢えずパソコンだけは死守しなければと部屋の中へ駆け込もうとする。
ところが吉崎 拓哉は36歳。
ジュリアの横にいる男はどう見ても20代前半だ。
瞬発力と体力が違った。
吉崎 拓哉が閉めようとした玄関ドアをリョウと呼ばれた男が寸でのところで手をかけこじ開けようと力を入れる。
体力の差は歴然だが吉崎 拓哉は情けない声を出しながら必死で玄関ドアに両手をかけ閉めようと全力で引っ張った。
「ひいいいいいい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい帰りますううううううう!! はなしてえええええ!!」
「待て待て待て待て待て待て待て待て!! 誰だテメェ出てこいやゴラァァ!!」
「えっ、なに、なに、どういうこと? ちょっと待ってよぉ!」
3人が3人とも慌てている。
吉崎 拓哉はなんとかしてこの状態を逸したい。
取り敢えず玄関だけ閉めてしまいたい。
パソコンを破壊するまでちょっとだけ待ってほしい。
だがその願いも虚しく、最終的に両者の力自慢大会はリョウの圧勝で終わった。
「オラァ……。力いっぱい逃げやがって……。なにもんだおまえ。怪しすぎんだろ。なあ、ちょっとおれらとおはなししようや、お兄さんよぉ」
吉崎 拓哉は、玄関に尻もちをつきながらリョウを見上げて震え上がった。
自分の姿なんて気にしてはいられない。
勇気がなんだ、自信がなんだ。
ジュリアが危ない。その一心で吉崎 拓哉は玄関を飛び出した。
ガチャっと勢いよく玄関ドアを開けると、ちょうど隣の部屋からジュリアと男も出てきたところだった。
「ジュリア!!」
吉崎 拓哉が叫ぶと、ジュリアは驚いた顔で吉崎 拓哉を振り返り、勢いに気圧されて一歩後ずさった。
「ジュリアだめだ、そいつから離れろ、ぼくのところにくるんだ!」
吉崎 拓哉がそういって腕を広げると、ジュリアは困ったように吉崎 拓哉と男、リョウの顔を見比べた。そして、吉崎 拓哉に曖昧に笑ってみせ、それからこう言った。
「あの……、だれ?」
「あ……、」
ジュリアは、2年も前に一度挨拶を交わしただけの隣人のことなど、覚えてはいなかった。
ひとえに吉崎 拓哉の緻密なストーカー行動の賜物である。
「ジュリア、知り合い?」
「え? うーん……、知ってるような……、知らないような……?」
リョウに尋ねられたジュリアは首を傾げている。当然だ。
吉崎 拓哉は腕を広げたまま固まった。石のごとく。
自分が絶対にやってはいけないミスを犯したことに気づいたのだ。
ジュリアの前に己の姿を晒してしまった。髪が伸びてもさもさとしており、髭も剃っていない。部屋着はよれよれとしていて見るも無残。分厚い黒縁眼鏡だけが武装状態だ。
しかもあろうことかジュリアの名前を呼んでしまった。誤魔化しようがないほど大声で。それはもうはっきりと。
なぜ名前を知っているのか、などと聞かれたらもうお仕舞いだ。部屋に侵入を許しパソコン画面を見られようものなら即刻お縄。迷惑防止条例ストーカー規制法違反容疑で手錠をかけられてしまう。ジュリアを救うどころではない。明日の朝には自分の預かり知らぬところでテレビと新聞とネットニュースを賑わすネタになるのだ。仮に出所したってもう生きていけない。
だからこそ吉崎 拓哉は石になった。
今までいかに見つからずにやり遂げるかは考えてきても、いざバレたときにどうするか、などということは、一切考えてこなかった。
吉崎 拓哉が固まった状態のままでいると、眼前のふたりも固まったまま動かない。
だらだらと脂汗を流しながら吉崎 拓哉は必死に脳みそだけをフル回転し、それからジリ、と片足だけ、玄関ドアのほうへと動かした。
そこから部屋へ逆戻りしようと勢いよく体を動かす。
開けっ放しだった玄関ドアへ手をかけ、取り敢えずパソコンだけは死守しなければと部屋の中へ駆け込もうとする。
ところが吉崎 拓哉は36歳。
ジュリアの横にいる男はどう見ても20代前半だ。
瞬発力と体力が違った。
吉崎 拓哉が閉めようとした玄関ドアをリョウと呼ばれた男が寸でのところで手をかけこじ開けようと力を入れる。
体力の差は歴然だが吉崎 拓哉は情けない声を出しながら必死で玄関ドアに両手をかけ閉めようと全力で引っ張った。
「ひいいいいいい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい帰りますううううううう!! はなしてえええええ!!」
「待て待て待て待て待て待て待て待て!! 誰だテメェ出てこいやゴラァァ!!」
「えっ、なに、なに、どういうこと? ちょっと待ってよぉ!」
3人が3人とも慌てている。
吉崎 拓哉はなんとかしてこの状態を逸したい。
取り敢えず玄関だけ閉めてしまいたい。
パソコンを破壊するまでちょっとだけ待ってほしい。
だがその願いも虚しく、最終的に両者の力自慢大会はリョウの圧勝で終わった。
「オラァ……。力いっぱい逃げやがって……。なにもんだおまえ。怪しすぎんだろ。なあ、ちょっとおれらとおはなししようや、お兄さんよぉ」
吉崎 拓哉は、玄関に尻もちをつきながらリョウを見上げて震え上がった。
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