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62話 おかえり。2
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「久しぶりだな」
口をついて出たのは、我ながら呆れるような有り触れた言葉だった。
「まあ、」
「元気だったか」
「まあ、それなりに」
嬉しい。
目の前に樹が居る。俺を見ている。会話をしている。嬉しいと思う。
それだけでまた胸が詰まる。
でも、素直には喜べない。
「豪とは、まだ続いてるのか」
出来れば聞きたくない。でも聞かなければいけない。
イエスって言うな。
「振られた。この間」
「……本当に」
「うん」
「別れたのか」
「別れました」
鸚返しのような拙い会話。外れない目線。何だこれ。
期待してしまう。
「へぇ、そうか。別れたのか。なら、」
期待していいか。降って湧いたとんでもないチャンスだ。手に持ったままだったグラスを落ち着くために一口だけ煽って、コースターに置いた。
樹のグラスも取り上げて、口をつけさせないまま布の上に戻す。代わりにその濡れた指をあからさまにしっかりと握った。
酔ってるから丁度良い。久々なんだ。ちょっとだけ、格好つけさせてくれ。
「なら、戻って来ないか。俺のところへ」
声を低くして、真剣な顔を少しだけ近付けて、握った指を手前に引く。見開かれた瞳から目を逸らさない。答えはイエスしか聞くつもりはない。
どんなつもりで今ここにいるのかなんて、知った事か。豪と別れたから、仕方なく代わりに俺? 結構じゃないか、大歓迎だ。
涙が滲みそうな瞳は堪えるように眉を寄せた。搾り出したような小さな声が返ってくる。
「……良いのかな。戻っても」
「当たり前だ」
下がりそうな情けない顔を無理矢理上げさせて、その頬を撫でてやる。優しく笑いかけてやれば、とうとう大粒の涙がぼたぼた落ちてきた。俺は泣かせてばっかりだな。
でも。
「おかえり、樹」
口をついて出たのは、我ながら呆れるような有り触れた言葉だった。
「まあ、」
「元気だったか」
「まあ、それなりに」
嬉しい。
目の前に樹が居る。俺を見ている。会話をしている。嬉しいと思う。
それだけでまた胸が詰まる。
でも、素直には喜べない。
「豪とは、まだ続いてるのか」
出来れば聞きたくない。でも聞かなければいけない。
イエスって言うな。
「振られた。この間」
「……本当に」
「うん」
「別れたのか」
「別れました」
鸚返しのような拙い会話。外れない目線。何だこれ。
期待してしまう。
「へぇ、そうか。別れたのか。なら、」
期待していいか。降って湧いたとんでもないチャンスだ。手に持ったままだったグラスを落ち着くために一口だけ煽って、コースターに置いた。
樹のグラスも取り上げて、口をつけさせないまま布の上に戻す。代わりにその濡れた指をあからさまにしっかりと握った。
酔ってるから丁度良い。久々なんだ。ちょっとだけ、格好つけさせてくれ。
「なら、戻って来ないか。俺のところへ」
声を低くして、真剣な顔を少しだけ近付けて、握った指を手前に引く。見開かれた瞳から目を逸らさない。答えはイエスしか聞くつもりはない。
どんなつもりで今ここにいるのかなんて、知った事か。豪と別れたから、仕方なく代わりに俺? 結構じゃないか、大歓迎だ。
涙が滲みそうな瞳は堪えるように眉を寄せた。搾り出したような小さな声が返ってくる。
「……良いのかな。戻っても」
「当たり前だ」
下がりそうな情けない顔を無理矢理上げさせて、その頬を撫でてやる。優しく笑いかけてやれば、とうとう大粒の涙がぼたぼた落ちてきた。俺は泣かせてばっかりだな。
でも。
「おかえり、樹」
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