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48話 残像。1
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side R
電気も点けない暗い部屋で自分のベッドに乱暴に押し倒した時、頭に浮かんだのは目の前の顔じゃなかった。
いつも俺の後ろをついてきていた、犬。
拭うように目を閉じて、繰り返していたキスをもっと深いものにする。少しくらい抵抗してくれれば良いのに、全部を受け入れようとしてくれるから余計辛くなる。折角だから大切に触りたいのに、急いて余裕のない状態ではどうにもならなかった。
柔らかい皮膚を手の平でなぞる。薄いブラウスの釦は、小さかった。掴みやすくて柔らかい胸を揉む度に残像のように浮かぶのは、笑った顔。
怒った顔。
拗ねた顔。
照れた顔。
悲しそうな顔。
ああ、ごめん。
手の平に伝わるのは、いつもと違う華奢な身体、熱。
女を抱くのは久しぶりだった。情けない顔してるのを見られたくなくて、首筋から胸元に顔を埋める。耳に付くのはいつもと違う音の高い吐息。
誰の代わりでもない。本当に欲しかったもの。ローションなんかなくても、勝手に濡れていく。俺はそのまま、多分少し乱暴に、まなかを抱いた。
ごめん。
ごめんな。
ほんとごめん。
ごめん、裕太。
他の人好きになってごめん。
「悪い、ちょっと、煙草吸ってくる」
ベッドから一人だけ出て、脱ぎ散らかした上着のポケットの中から煙草を探し出す。終わった後に放り出すみたいで最低だとは分かっていても、少し一人で落ち着きたかった。
外に出る為に下だけ履いていると、ベッドの中からくったりした声がした。
「外、雨でしょ」
「雨が当たらないとこで吸う」
「私、」
「あ?」
「帰ろうか」
「……。良いよ、雨止むまで、そこに居ろって」
悪いと思ったけど、笑いかけてやる余裕がなかった。顔を見ると、違う顔がダブった。そのまま雨が中に入らないように、窓を開けてベランダに出て、閉めた。
今更動揺してきて、震える指でケースから一本取り出して口に挟む。指だけじゃない、身体が震えてきていた。寒いからじゃない。
指に力が入らなくて、ライターになかなか火が点かない。両手の親指で押してなんとか煙を吸い込んだ。喉が震えて上手く吸えない。
窓ガラスに凭れてしゃがみ込む。顔を上げていたら跡がつきそうだったから、まっすぐ下を向いて目を閉じた。
でも睫毛は、濡れなかった。
いつでも俺の後ろをついてきた。出来るだけは、あいつの理想でいてやりたかった。可愛くて仕方がなくて、どんなものからでも守ってやるつもりだった。
大事にしてやるつもりだったのに。
さっきの、触れた瞬間、興奮で身体が震えたのを思い出す。思い出して、思わず拳を握り絞めた。殴りたかった。
碌に吸ってもないのに、煙草の先が風で灰になってベランダに落ちた。
俺が悪い。
全部俺が悪い。
でもごめん。
もうお前には戻れない。
電気も点けない暗い部屋で自分のベッドに乱暴に押し倒した時、頭に浮かんだのは目の前の顔じゃなかった。
いつも俺の後ろをついてきていた、犬。
拭うように目を閉じて、繰り返していたキスをもっと深いものにする。少しくらい抵抗してくれれば良いのに、全部を受け入れようとしてくれるから余計辛くなる。折角だから大切に触りたいのに、急いて余裕のない状態ではどうにもならなかった。
柔らかい皮膚を手の平でなぞる。薄いブラウスの釦は、小さかった。掴みやすくて柔らかい胸を揉む度に残像のように浮かぶのは、笑った顔。
怒った顔。
拗ねた顔。
照れた顔。
悲しそうな顔。
ああ、ごめん。
手の平に伝わるのは、いつもと違う華奢な身体、熱。
女を抱くのは久しぶりだった。情けない顔してるのを見られたくなくて、首筋から胸元に顔を埋める。耳に付くのはいつもと違う音の高い吐息。
誰の代わりでもない。本当に欲しかったもの。ローションなんかなくても、勝手に濡れていく。俺はそのまま、多分少し乱暴に、まなかを抱いた。
ごめん。
ごめんな。
ほんとごめん。
ごめん、裕太。
他の人好きになってごめん。
「悪い、ちょっと、煙草吸ってくる」
ベッドから一人だけ出て、脱ぎ散らかした上着のポケットの中から煙草を探し出す。終わった後に放り出すみたいで最低だとは分かっていても、少し一人で落ち着きたかった。
外に出る為に下だけ履いていると、ベッドの中からくったりした声がした。
「外、雨でしょ」
「雨が当たらないとこで吸う」
「私、」
「あ?」
「帰ろうか」
「……。良いよ、雨止むまで、そこに居ろって」
悪いと思ったけど、笑いかけてやる余裕がなかった。顔を見ると、違う顔がダブった。そのまま雨が中に入らないように、窓を開けてベランダに出て、閉めた。
今更動揺してきて、震える指でケースから一本取り出して口に挟む。指だけじゃない、身体が震えてきていた。寒いからじゃない。
指に力が入らなくて、ライターになかなか火が点かない。両手の親指で押してなんとか煙を吸い込んだ。喉が震えて上手く吸えない。
窓ガラスに凭れてしゃがみ込む。顔を上げていたら跡がつきそうだったから、まっすぐ下を向いて目を閉じた。
でも睫毛は、濡れなかった。
いつでも俺の後ろをついてきた。出来るだけは、あいつの理想でいてやりたかった。可愛くて仕方がなくて、どんなものからでも守ってやるつもりだった。
大事にしてやるつもりだったのに。
さっきの、触れた瞬間、興奮で身体が震えたのを思い出す。思い出して、思わず拳を握り絞めた。殴りたかった。
碌に吸ってもないのに、煙草の先が風で灰になってベランダに落ちた。
俺が悪い。
全部俺が悪い。
でもごめん。
もうお前には戻れない。
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