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31話 初体験。1
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side I
「っ、」
豪くんのキスは、触れた場所から滲んで伝わる程、優しさで溢れていた。
八畳のワンルームはヒカルの広い家程ではないものの、決して安くはない商売道具の輸入家具がところ狭しと並んでいる。木目調で統一された部屋は見慣れたモダンなそれらとは違って、優しい空気を作っていた。二人して座ったベッドの、布団のシーツからは洗濯洗剤の匂いがする。
おれはこの間のヒカルとの事が頭から離れなくて、後ろめたくてそっと唇を離した。
「な、なんか、照れるな」
それでも初めてキスをした甘い空気に酔ってしまって頬が熱くなる。豪くんが二回目のキスをしようと髪を撫でてくるから、それとなく避けるようにコップを指してみた。
「あの、喉渇くよな、おれお茶もうちょっと貰うわ」
「……俺が入れますよ」
「いや、いいよ、大丈夫。冷蔵庫開けるよ」
こちらの逸らした顔とは反対に、豪くんは真っ直ぐにこちらを見てくる。全身から「好き」が伝わってくる。
擽ったい心地良さを感じながらコップ片手に立ち上がって、冷蔵庫に手を延ばした。冷えたペットボトルには底の方にしか茶が残っていなくて、仕方無しに振り返って豪くんを呼ぶ。
「ごめん、自分でやるとか言ったけど茶がなかった」
そう言うと豪くんは立ち上がって冷蔵庫の横の、床に置いたダンボールを開いた。
「あ、空だ。すみません買い置きがない。茶っ葉なら多分ここにあるけど、淹れたら熱いっすよね」
豪くんは言いながら、冷蔵庫の中に残っていたペットボトルの中身を全部おれのコップに注いでくれる。
「ああ、いや、いいよいいよ。手ぶらで来たおれも悪いし。コンビニでも行くか」
少し部屋から、この二人きりの空間から抜け出したいと思った。こんなのではいけない。この部屋にも、豪くんにも、早く慣れなければ。そう思いながら注いでもらったばかりの茶を飲み干し、出掛けるならその前にコップだけ洗ってしまおうとシンクに向く。
勝手の分からない台所に立ってごそごそしていると、不意に後ろに気配を感じて、振り返るよりも先に背中から抱きしめられた。
「……どうした」
「樹さん、俺」
腕の触れ合っている部分がどんどん熱くなる。右耳に、短くて硬い髪の毛が当たった。
「好きなんです、あんたが」
耳元で呟かれたその言葉に急に緊張してきて、その瞬間から自分の心臓の脈打つ音が大きく聞こえ始めた。
前に回された豪くんの大きな手が水道の水で勝手に俺の手から泡を洗い落とし、その濡れたままの手で俺を逃がすまいとするかのように抱き締めてくる。その指先が今度は器用に、上から順番にシャツの釦をゆっくりと外していく。豪くんも緊張しているのか、指先は微かに震えていた。
「あの、コンビニは」
「後で」
そう言われてはどうするべきか分からなくてじっとしていると、ぷちぷちと半分外したところで右肩からシャツを滑り落とされて、首筋から背中に、ゆっくりと唇が降ってくる。舐めたり、時々噛んだりしながら、左肩のシャツも脱がされていく。心臓が痛いほど打ち付ける。
「っ! っぁ」
指先が胸を掠って、反応してしまって思わず身体が跳ねた。慌てて口を押さえると、今度は明らかにわざと指先で擦ってくる。背骨辺りに感じる舌の感触が熱くて、触られる度にいちいち反応を見せてしまう身体が恥ずかしくて、何も言えずに黙ってされるがままになっていた。
「っ、」
豪くんのキスは、触れた場所から滲んで伝わる程、優しさで溢れていた。
八畳のワンルームはヒカルの広い家程ではないものの、決して安くはない商売道具の輸入家具がところ狭しと並んでいる。木目調で統一された部屋は見慣れたモダンなそれらとは違って、優しい空気を作っていた。二人して座ったベッドの、布団のシーツからは洗濯洗剤の匂いがする。
おれはこの間のヒカルとの事が頭から離れなくて、後ろめたくてそっと唇を離した。
「な、なんか、照れるな」
それでも初めてキスをした甘い空気に酔ってしまって頬が熱くなる。豪くんが二回目のキスをしようと髪を撫でてくるから、それとなく避けるようにコップを指してみた。
「あの、喉渇くよな、おれお茶もうちょっと貰うわ」
「……俺が入れますよ」
「いや、いいよ、大丈夫。冷蔵庫開けるよ」
こちらの逸らした顔とは反対に、豪くんは真っ直ぐにこちらを見てくる。全身から「好き」が伝わってくる。
擽ったい心地良さを感じながらコップ片手に立ち上がって、冷蔵庫に手を延ばした。冷えたペットボトルには底の方にしか茶が残っていなくて、仕方無しに振り返って豪くんを呼ぶ。
「ごめん、自分でやるとか言ったけど茶がなかった」
そう言うと豪くんは立ち上がって冷蔵庫の横の、床に置いたダンボールを開いた。
「あ、空だ。すみません買い置きがない。茶っ葉なら多分ここにあるけど、淹れたら熱いっすよね」
豪くんは言いながら、冷蔵庫の中に残っていたペットボトルの中身を全部おれのコップに注いでくれる。
「ああ、いや、いいよいいよ。手ぶらで来たおれも悪いし。コンビニでも行くか」
少し部屋から、この二人きりの空間から抜け出したいと思った。こんなのではいけない。この部屋にも、豪くんにも、早く慣れなければ。そう思いながら注いでもらったばかりの茶を飲み干し、出掛けるならその前にコップだけ洗ってしまおうとシンクに向く。
勝手の分からない台所に立ってごそごそしていると、不意に後ろに気配を感じて、振り返るよりも先に背中から抱きしめられた。
「……どうした」
「樹さん、俺」
腕の触れ合っている部分がどんどん熱くなる。右耳に、短くて硬い髪の毛が当たった。
「好きなんです、あんたが」
耳元で呟かれたその言葉に急に緊張してきて、その瞬間から自分の心臓の脈打つ音が大きく聞こえ始めた。
前に回された豪くんの大きな手が水道の水で勝手に俺の手から泡を洗い落とし、その濡れたままの手で俺を逃がすまいとするかのように抱き締めてくる。その指先が今度は器用に、上から順番にシャツの釦をゆっくりと外していく。豪くんも緊張しているのか、指先は微かに震えていた。
「あの、コンビニは」
「後で」
そう言われてはどうするべきか分からなくてじっとしていると、ぷちぷちと半分外したところで右肩からシャツを滑り落とされて、首筋から背中に、ゆっくりと唇が降ってくる。舐めたり、時々噛んだりしながら、左肩のシャツも脱がされていく。心臓が痛いほど打ち付ける。
「っ! っぁ」
指先が胸を掠って、反応してしまって思わず身体が跳ねた。慌てて口を押さえると、今度は明らかにわざと指先で擦ってくる。背骨辺りに感じる舌の感触が熱くて、触られる度にいちいち反応を見せてしまう身体が恥ずかしくて、何も言えずに黙ってされるがままになっていた。
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