背中越しの温度、溺愛。

夏緒

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27話 違和感。2

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 あれ以来、仕事中でも何と無くスマホが気にかかって仕方がない。流石に来客中や商談の合間に見るような事はしないが、そんなに広くない自分の部屋に一人でいる時には、絶えずアドレス帳を開いて同じ名前を眺めていた。
 開きっぱなしのパソコンには、まるで進まない整理中の売上データ。その横には数字の羅列ばかりの書類の束。その脇には雑務の書かれた付箋紙やらメモ書きやら書籍やらが無造作に散らかっている。
 ここ数日のその惨状にやる気を削がれて部屋から出れば、何も知らない明るい女性社員達の、聞きたくもない無神経な噂話の声が流れてくる。
 やってられるか。

 豪は俺と会う事を極力避けているようで、服装こそ未だラフなものの、暇そうな態度はあまり見かけなくなった。素直な奴だから、俺を前にするのは気まずいのだろうというのも簡単に想像がつく。
 目が合わないからこちらからは何もするつもりはないが、別に豪を責めるような気もないので、目が合えばいつものように挨拶をしてやるつもりではいた。
 折角今まで頑張って作り上げた社内の穏和な雰囲気を、そんなしょうもない理由で自分からぶち壊すような事はしたくない。が、本音だ。

 しかしながら女の噂好きっていうものはどうにかならないものか。気にしたくもないのに耳に入るし、それだけ話していれば仕事にだって多少の支障は出るだろう。
 まぁ確かに彼女達にしてみれば、こんなに美味い恰好のネタはないのだろう。あの寡黙な男に恋人が出来たとなれば、噂をしたい気持ちも分からなくはない。
 他人事なら俺だって話に加わりたいくらいだ。でも実際は他人事じゃないんだ。
 仕事の合間を縫うようにして聞こえてくる嘘か本当か分からないような色鮮やかな話は、今は只ただ俺を苛つかせるだけだった。
 キス? デート? お泊り?
 気になるなら本人に聞けば良いじゃないか。憶測が飛び交うからこっちだって気にかかる。
 いっそ教えてやろうか。その噂の的のそいつは、ついこの間まで俺のものだった、お前達だって見た事あるあいつだぞ。
 言える訳がない。豪のためにも、俺のためにも。

 それにしたって、確かに自分の中に今までにない違和感はあった。いつになく苛々しているのは認める。くれてやった筈のあいつの事が頭から消えないからだ。もう何ヶ月会ってない。今何をしている。
 顔も知らない女に嫉妬する程俺のことを好きな癖に、何で俺じゃない男を選んだ。
 キスぐらいはもうしたんだろうな。家にも入れたのか。
 寝盗られたつもりはないが、そもそも俺しか知らない癖に、他のやつと、豪と本当に出来るのか?
 想像しそうになって、そんな事ばかりが頭にあって、苛ついて仕方がない。
 無意識にまたスマホの画面を眺める。
 この間の譲治との会話が脳裏に過ぎる。

 そんなに苛つくなら連絡すりゃあ良いじゃねぇか。

「……。糞」

 煩ぇよ。子供五人も作っといて最終的に離婚したような奴には偉そうに言われたくないんだ。
 は、連絡?
 するに決まってるだろ。
 あいつはもともと俺のものだ。
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