背中越しの温度、溺愛。

夏緒

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5話 苦味。2

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 扉何枚分かを通した、くぐもったシャワーの音が聞こえてくる。出て来る時には多分裸のままだ。
 別に涼平と付き合っているとか、そういう訳じゃない。彼には裕太くんっていう、可愛い恋人が居る。歳のわりには童顔な、屈託のない笑顔を浮かべる可愛い子だ。邪魔するつもりなんかない。
 まぁ、恋人って言っても、裕太くんの一方通行らしいけど、でも本人は知らない。
 涼平の本命は、別に居る。
 彼のひとつ年上の、つまりおれの友達の、まなかだ。
 でも彼は、彼女に手を伸ばす気はないらしい。
「複雑な男だなぁ……」
 パソコン画面のアルファベットを指でなぞる。あ、スペルミスしてる。後で教えてやらないと。

 そういえば、ヒカルと最後にビール飲んだの、いつだったかな。ここ最近は会えば喧嘩ばっかりで、一緒にお酒を飲んだり、笑ったりした記憶がない。自分から別れを切り出した癖に、頭の中はまだヒカルでいっぱいだ。
 背中に温い風を送る扇風機。ヒカルなら今頃きっとクーラーをつけているな、とか。
 嫌になる。
 だらだら二年以上も一緒に居るから、別れたって言ったって、どうせまた時間が経てば傍に居る。いつものようにお構い無しに電話がかかってきてさ。馬鹿だから、表示された名前が嬉しくてその電話取っちゃって。声を聞けば会いたくなって、会えばそれなりに笑い合うことが出来る。
 傍にいることが幸せだと、もう一度思えるようになる。
 そんな時間の流れが見て取れるから、今だって比較的落ち着いていられるのだ。傍に居るのが当たり前って、きっとお互いに思ってる。それが嫌な訳じゃないけど。
 でもさ。
 自分から寄ってきたんだからさ、もうちょっとくらい、大事にしてくれたって良いじゃないか。
「ヒカルの馬ぁ鹿……」
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