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18話 そういう関係 11
しおりを挟むごろり、床に敷いた布団に転げる。隣の自分の部屋に帰り、さっきの話を思い出す。
「執着心。……だよなあ」
好きなんて綺麗なもんじゃない。それって紛れもない執着心だろ。少なくとも俺は他に呼び方を知らない。
別に隣人が不倫だからって何をどうこう言うつもりはないが、ふたりのあの笑顔に裏を感じたような気がして、少しだけ悲しくなった。
エリカさんが戻ってきたような靴音は未だに聞こえない。代わりに誰かが階段をゆっくりと降りていく音は聞こえた。陽平さんだろうか。
こんな時、いつもなら俺は真っ先に慎二に連絡をしていた。辛いことがあった時とか、どうしようもない時。誰かに話を聞いてもらいたいような気分の時には、必ず慎二に連絡した。慎二はいつも穏やかに話を聞いてくれていて、時々はそのまま顔を見に家まで来てくれたりした。酎ハイ缶持って、なんだ泣いてんのかと思ったのに、とか、からかうようなことを言いながらいつも俺に付き合ってくれた。
今だって、何気ない素振りで電話でもすれば、慎二はいつものように穏やかに話を聞いてくれるんだろう。だけど、どうにもそれをする気にはならない。心配の向こう側に違う気持ちを一緒に持ってくるような気もしたし、それにそういう時の慎二の穏やかさは、さっきの陽平さんのそれと似ているような気がした。
「なんだよ……」
役立たずが。
なんで半分なんだろ。
でもよく考えてみれば、言ってることとやってることが違う気もする。だって陽平さんは、俺がエリカさんと何をしていても全く嫌がることもないし、先週なんかエリカさん、好きな人に振られたとか言ってた。一人で飲みにも行かせてるみたいだし、縛り付けるどころか完全に解き放っているような。
「全っ然分からん」
俺に陽平さんは難しすぎる。
そこからしばらく、俺は慎二を避けまくった。
家の前にいればエリカさんの家に逃げ込み、会社に顔を出せば事務所の奥で用のない計算を繰り返すか、早々に客のところに出向いた。電話には一応出るけど、なんだかんだ言い訳をしてすぐに切った。社長には喧嘩をしていると嘘をついた。陽平さんとエリカさんは、結局なにも変わらなかった。俺だけが、慎二から逃げ回っている。
そうしてまた10日近くが経ち、ある日いきなり。
慎二がキレた。
「おいこら。いい加減にしろ」
いつものように自分の部屋を通りすぎてエリカさんの部屋へ向かおうとしたところ、ガンッと鈍い音を響かせて慎二は俺の部屋の玄関ドアに勢いよく殴りかかった。めこ、と音がして、ドアが拳型にへこむのを目前で見た。
男に壁ドンをされるのは初めてだし、それがこんな物理的な意味で破壊力のあるものだとも思っていなかった。
やべえ。
ガチで怒っている。
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