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9話 そういう関係 2
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慎二は、俺が大学に入った頃からの友達で、卒業して2年経つから、もうわりと長い付き合いだ。細身の長身に優しい笑顔を浮かべるわりには思いの外頑固で、小さなことでの言い争いなんかしょっちゅうだ。それでも何だかんだお互いに良い距離を保ってきた。
「っつーかお前仕事は?」
「俺今日もともと休みなんだ」
腰を戻した慎二は、相変わらず眉を下げたままでいる。彼女がいた時期だって知っているし、男が好きだなんて話も聞いたことがない。
なのにこれ。
「あっそ。……あー、で、あのさあ、あんま聞きたくないんだけど、昨日は何がどうなってあんなことになった訳? 慎二さんよぉ」
「え、っとですね、それは、そのぅ……」
慎二はあからさまに目を泳がせた。聞いた自分がいうのも難だけど、本当は本気で聞きたくない。慎二がなに考えてんのかも何故俺がいきなりケツ掘られたのかも聞きたくはない。っつーか最早思い出すのも嫌だ。今こうして改めて顔突き合わせてんのも本当は嫌だ。あんな姿見られて、あんなことされて、俺は今よくこれだけ冷静でいられると思う。
それでも慎二は大事な友達だし、なかったことにできるならなかったことにしたい。それよりも何よりは、自分があんな目にあった理由だけは知っておかなければならなかった。
「んだよ、言わなきゃ分かんないだろ」
「言ってもあきらに分かるかどうか……」
「お前俺のこと馬鹿にしすぎだろ」
「だってお前馬鹿じゃんよ、俺昨日ちゃんと拗らせてるっつったじゃん」
「だーから何をどう拗らせたらあれに繋がるんだっつーの」
俺が問い詰めると、慎二はいよいよ情けない顔になって頭を掻いた。
駄目だこいつほんとに馬鹿だ。
口の中でぼやいたのが聞こえた。
「なんだとオイ」
「なあこれ全部言わなきゃ駄目?」
「お前謝りに来たんじゃないのかよ。俺どう納得すればいいのかわかんないじゃん」
口ごもる慎二に呆れて溜め息が出そうになる。本当に何しに来たんだこいつは。
「だからぁ、要するに、あのー……」
苛ついた声で頭をガリガリ掻いた後、慎二は腹を括ったかのように急に真面目な顔をして、こっちをまっすぐに見た。ふわり、薄いカーテンが風に浮く。
「引くなよ」
「なんだよ」
「俺あきら好きだ」
「は?」
「ずっと言うつもりなかったんだけど、自分で昨日やらかしちまったから……」
「……俺?」
「お前」
「好きだ?」
「好きだ」
「……」
……なんですと。
「やっぱ引くよなあ」
慎二は寂しそうに口の端だけ微笑ませて、俺から静かに目線を逸らした。
いや引くっていうか、
「まじかよ」
知らんかった。
「まじだよ、意味は昨日身をもって知ったろ」
「まじかよ。……え、いつから? っつーかお前女と付き合ってたじゃん」
「俺実は男でも女でもいける」
「まじかよ! そんなん全然言ったことねえじゃん!」
「言うか! 言えるわけねえだろそんなもん」
「まじかよ」
やべえ俺さっきからまじかよしか言ってない。これは馬鹿だ言われても仕方ないか。いやでも他になんて言えば……
「あーあ、絶対言わないつもりだったんだけどなあ。っていうか他にどんな理由があると思ってたんだよ」
慎二は諦めたように眉を下げて苦笑を浮かべた。身体を起こして床に後ろ手をつく。そんな寂しそうな顔されても……
「俺、なんかの弾みの勢いとかなら、なかったことにして元通りになりたいと思ってたんだけど……」
想定外の展開にしどろもどろ。
今度はこっちの目が泳ぐ番だった。
「っつーかお前仕事は?」
「俺今日もともと休みなんだ」
腰を戻した慎二は、相変わらず眉を下げたままでいる。彼女がいた時期だって知っているし、男が好きだなんて話も聞いたことがない。
なのにこれ。
「あっそ。……あー、で、あのさあ、あんま聞きたくないんだけど、昨日は何がどうなってあんなことになった訳? 慎二さんよぉ」
「え、っとですね、それは、そのぅ……」
慎二はあからさまに目を泳がせた。聞いた自分がいうのも難だけど、本当は本気で聞きたくない。慎二がなに考えてんのかも何故俺がいきなりケツ掘られたのかも聞きたくはない。っつーか最早思い出すのも嫌だ。今こうして改めて顔突き合わせてんのも本当は嫌だ。あんな姿見られて、あんなことされて、俺は今よくこれだけ冷静でいられると思う。
それでも慎二は大事な友達だし、なかったことにできるならなかったことにしたい。それよりも何よりは、自分があんな目にあった理由だけは知っておかなければならなかった。
「んだよ、言わなきゃ分かんないだろ」
「言ってもあきらに分かるかどうか……」
「お前俺のこと馬鹿にしすぎだろ」
「だってお前馬鹿じゃんよ、俺昨日ちゃんと拗らせてるっつったじゃん」
「だーから何をどう拗らせたらあれに繋がるんだっつーの」
俺が問い詰めると、慎二はいよいよ情けない顔になって頭を掻いた。
駄目だこいつほんとに馬鹿だ。
口の中でぼやいたのが聞こえた。
「なんだとオイ」
「なあこれ全部言わなきゃ駄目?」
「お前謝りに来たんじゃないのかよ。俺どう納得すればいいのかわかんないじゃん」
口ごもる慎二に呆れて溜め息が出そうになる。本当に何しに来たんだこいつは。
「だからぁ、要するに、あのー……」
苛ついた声で頭をガリガリ掻いた後、慎二は腹を括ったかのように急に真面目な顔をして、こっちをまっすぐに見た。ふわり、薄いカーテンが風に浮く。
「引くなよ」
「なんだよ」
「俺あきら好きだ」
「は?」
「ずっと言うつもりなかったんだけど、自分で昨日やらかしちまったから……」
「……俺?」
「お前」
「好きだ?」
「好きだ」
「……」
……なんですと。
「やっぱ引くよなあ」
慎二は寂しそうに口の端だけ微笑ませて、俺から静かに目線を逸らした。
いや引くっていうか、
「まじかよ」
知らんかった。
「まじだよ、意味は昨日身をもって知ったろ」
「まじかよ。……え、いつから? っつーかお前女と付き合ってたじゃん」
「俺実は男でも女でもいける」
「まじかよ! そんなん全然言ったことねえじゃん!」
「言うか! 言えるわけねえだろそんなもん」
「まじかよ」
やべえ俺さっきからまじかよしか言ってない。これは馬鹿だ言われても仕方ないか。いやでも他になんて言えば……
「あーあ、絶対言わないつもりだったんだけどなあ。っていうか他にどんな理由があると思ってたんだよ」
慎二は諦めたように眉を下げて苦笑を浮かべた。身体を起こして床に後ろ手をつく。そんな寂しそうな顔されても……
「俺、なんかの弾みの勢いとかなら、なかったことにして元通りになりたいと思ってたんだけど……」
想定外の展開にしどろもどろ。
今度はこっちの目が泳ぐ番だった。
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