心からきみを、

夏緒

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中編

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「おまえは俺のこの手に一体なにがしたいんだァ? ぁあん、いやらしい目で見やがってぇ。人の手ぇ勝手にオカズにしてんじゃねぇぞ」
「してねぇしここ居酒屋なんですから、ちょっと考えて喋ってくださいよ、人が聞いたらびっくりするだろ! あと今のそれ完全にセクハラだかんな!」
「んなこと言ったっておまえが本当に……、あ、分かった」
「なにが」

 酔っ払いの相手は面倒だ。
 はなしがまるで通じないし、時として言わなくていい自分でも気づいていないような真実を明るみに出したりする。

「ははーん、おまえアレだな、俺にナニかをしたいんじゃなくて、俺に、してほしい、んだな」
「は、」
「いやあー、ちょっと困ってたんだよー、俺流石にいくら相手がおまえとはいえ、ケツはどうかなーとか思っててさあ、でもまあ逆におまえがケツ出すっていうんなら俺もなんかやれそうな気がしてくるわ! おまえほっそいからさあ、あーなるほどなー、それでいっつも俺の手を物欲しそうに眺めてたわけかー! なあなあケツってどうなの、ケツはやっぱ……」

 や め て ! !
 ケツ連呼はもうヤメテエエエエエ!!!!
 おれあんたにそこまで求めてないから!!!!
 妄想飛躍しすぎだからアアアアアアア!!!!
 そもそもおれケツ使うような経験ないからな!!!!
 そろそろ落ち着いて相手できねぇぞお姉さんたち本当にそんな顔でこっち見るのヤメテエ!!!!

「なァ、教えろや、おまえは俺のこの指に、どーんなことをしてほしいわけ?」

 センパイがにやにやと悪戯な目つきで、おれの目の前で指を揺らす。
 まるで誘うように、もしくは愛撫みたいな。
 その仕草でおれの純情な恋心が台無し。
 くそ、馬鹿にしやがって。
 あーあ、本当になんでおれは、こんな人を好きになってしまったんだろうか。

「まじでちょっと黙ってほしい」
「なんだよおもしろくねぇなぁ。仕方ねぇ、店出るか」

 おれがやっとのことでそれだけ言うと、センパイはさも面白くなさそうに口を尖らせながら立ち上がった。
 良かったやっと帰る気になったか。
 拗ねようがなんだろうがもう知ったこっちゃねぇぞ。
 明日から極力近づかずにいよう。
 おれは隣のお姉さんたちとできるだけ目を合わせないようにしつつ立ち上がって、センパイの後を追った。

「おれも面白くねえですよ、ここ幾らですかね、割り勘しましょう。タクシー拾いましょうか?」
「いや、薬局探すわ、まだどっか開いてるだろ」

 会計のために財布を開きながら、センパイは何故かそんなことを言い出す。
 その声がさっきまでよりもなんかしっかりしているように聞こえて、なんだ、立ち上がった途端に酔いが冷めたのか?

「薬局? なんか要るもんでもあるんです?」
「うん、浣腸」
「かん……」
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