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4話

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「それは勿体ないよ」
「余計なお世話だ」
「いや勿体ない!!」
 急に枝豆が声を大きくしてきて、そら豆くんは驚いた。
「な、なに」
「だって俺は折角君のことを好きになったのに、俺の気持ちはどうすればいいんだ!」
「いや知らんよ……」
「そうか、じゃあ……」
 枝豆はにっこにこしていたのを引っ込めて、それはそれは真剣な表情で考え事を始めた。そら豆くんはそれを見て、なんだこいつこんな顔も出来るんかい、と少しばかり面食らった。
「わかったよ」
「なにが」
「俺が今から君の魔法使いになろう」
「………………は?」
「手ぇ出して」
「嫌だ」
「痛くないよ、大丈夫だから、はい」
 そう言って、枝豆はファミレスのテーブルの上に自分の左手を開いて差し出した。
 なんだ、この手を触れっていうのか。
 そら豆くんが警戒しながら恐る恐る右手を差し出すと、枝豆は出していた左手でそら豆くんのその右手をぐわしいィィィッと掴んだ。
「ヒイィ!!」
「これが俺の手だよ」
 でしょうね!!
「どんな感じ?」
「どんな、と言われても……」
 そら豆くんは狼狽えた。何をされようとしているのか分からない。
 取り敢えず放してほしい。
「あったかい?」
「まあ……」
 いやどっちかっていうと熱い。
 枝豆は掴んだ状態から、きゅ、と握り直した。
「君の手は柔らかいね」
「悪いか」
「全然。触っていたら気持ちいいよ。俺の手はどう?」
「どうって……」
 大きい。肉厚だ。熱い。爪が固そう。
「……いや、特には……」
「触っていたら嫌かな」
「………………いや、」
 特には。
「じゃあ、俺が君に、魔法をかけてあげよう」
 枝豆はそう言って、そら豆くんの左手をまた軽く握り直して、まるでお伽噺の王子さまがお姫さまにするみたいにして、指先にちゅ、っとキスをした。
「えぇっ!!」
 そら豆くんはあまりにも驚いて、慌てて手を引っ込めようと力を込めてみたけれども、その指先はガッチリ掴まれて逃げ出せなかった。そうして枝豆はさっきの真剣な顔をしてこう言った。

「俺の総てを君にあげよう」

 そら豆くんは、困った。
 恥ずかしくて顔から火を噴きそうだと思った。
 こんなことされたの、生まれて初めてだ。
 枝豆は続けてこう言った。

「俺の総てを君にあげよう。だから、君の総ても俺にくれ」

「…………な、」
 なに言ってんだ、こいつ……。
「魔法、かかったかな?」
と、枝豆はまたにこおー! っと笑った。
 え、え、え、え、なにこれどうしよう、どうしようこの状況……。
「取り敢えずさあ、聞きたいこと沢山あるんだけど、君、なんて名前なの?」
 こいつなに言ってんだ、なにやってんだ、え、取り敢えずなに、名前?

「えと、俺の、名前は、」
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