19 / 27
愚昧
しおりを挟む
「ティーナ……。頭のいい貴女が、どうしてこんな馬鹿なことをしたの?」
私を悪者に仕立てるだけで、その先がない。
彼女にしては杜撰すぎる計画。
正直、何がしたいのか分からない。
問い詰める私の言葉に、隣に並ぶアルトが言葉を重ねた。
「君は、姉に構って欲しかっただけなんじゃないか?」
アルトが続ける。
「僕も、ジェシカに構って欲しいから気持ちはよく分かる。だけど、こんな、彼女を傷つけるようなやり方で関わっても、自分が辛い思いをするだけだぞ」
「うるさいわね。私はあなたと違って、もう後がないのよ。だから、今、この一瞬だけでも、お姉様に私を焼きつけることが出来たのなら、それで構わないの。満足なの」
「それ、どういう……」
尋ねると、ティーナが胸を抑えて蹲る。
「はぁ……はぁ……」
「ティーナ? 顔色が優れないよ」
「ふふ、胸が苦しいわ。私はね、病に掛かったのよ。どうせ長生きはできない。だから、ジェシカ姉様の幸せを全部もらうことにしたの。姉様は長く生きられるんだから、全部妹の私に譲るべきでしょう?」
「聞くに堪えんな。我々王族は神よりこの国を預かっている。そして、お前たち貴族は我々の権能を部分的に預かっているに過ぎん。我々が虚偽の証言を行うというのは、統治者としての正当性を毀損する行いだ。あー……前置きが長くなったが、ティーナ、お前も死んでくれ」
顔色の悪いティーナが騎士に腕を掴まれる。
「ティーナをどうするんですか?」
「レンと同じ所へ送るのがいいだろう。離別するまで婚約者だったのだからな」
「そういうことか。だったらもう、ここでお別れね」
青白い顔で、ティーナは薄っすらと笑っていた。
「ティーナ……。あなたはこれで良かったの?」
「もう、十分だよ。久しぶりにお姉ちゃんと遊べたから」
「なにそれ。本当にそれだけの理由で……」
「私のことを忘れないでね、お姉ちゃん」
ティーナが連れていかれる。
ああなって当然の馬鹿な妹だったけど、私はとっさに馬鹿な妹の腕を掴んでいた。
第一王子が意外そうに瞬きした。
「ん? どういうことかな?」
「率直に申し上げるとですね」
心底、馬鹿な発言をしてしまうという自覚はあるが、
「ティーナは妄想と現実の区別がつかない、馬鹿な妹なんですよ。だから、嘘はついていないのだと思います。少し、周りとずれているだけで」
「ほう、つまり嘘はついていないと。そんな詭弁で彼女を見逃せと?」
「ジェシカ、何を馬鹿なことを……」
アルトが止めるのも当然だ。
でも、お姉ちゃんなんて呼ばれて、何もしないでいるのは私には無理だ……。
「お願いします。馬鹿な妹を許してあげてください。二度と社交界には顔を出させませんから」
頭を下げる。
「ふ……ふっふっふ。そうか、そういう娘だったか。ここ数年、互いの足を引っ張りあう姉妹など飽きる程に見てきたが、これは面白い催し物を見せてもらった。アルト、彼女のことだけど、俺に譲ってもらえないかな」
「絶対に譲らない。例えここで命を奪われようとジェシカは譲らない」
「……だろうね。まあ、そういうことならいいよ。他でもない君が許すと言うんだ。外野である我々に口を出す権利もなかろうよ」
……はぁ。
なんとか生還した?
本当に馬鹿な妹だよ。
ティーナの頭を思いきり叩く。
「痛いっ」
「アルト、悪いけど陛下への挨拶が済んだらこの子、一緒に連れ帰っていい? 馬鹿すぎて、ちょっと怖いから」
「それまでレインに預けるか。構わないか、レイン?」
「大いに構うところですが、アルト殿は私を託児所か何かと勘違いされているのですかな?」
「そんなこと言って、コレット達のことは愛してるだろう。頼む」
「頼まれました。行ってらっしゃいませ、アルト殿」
「しっかり陛下に挨拶してこいよ」
団長と当主様に見送られる形で、陛下の元へ。
一連のやり取りを眺めていた陛下は、私達が謁見すると「良い姉だな」とだけ感想を呟いた。
達観しすぎていて、動じない羊のような印象を与える方だ。
「陛下、私、アルト・エドワードは、ここにいるジェシカ・グレイス嬢と婚姻を結びたく存じます」
「ジェシカ嬢も同じ気持ちか?」
「はい。私もアルト・エドワードを夫にしたいと願っています」
「ふむ、よいぞ。夫婦で共に王国へ仕えるがよい」
陛下への挨拶はあっさり終わってしまった。
本当に聞いてくれてたのかな、と思う程だけど、帰り際に従者の方から金貨の詰まった革袋を渡されて……。
「あの、これは?」
「陛下からのご祝儀です。どうぞお納めください」
そんなこともあったりして。王族って貰うだけじゃなくて分配もするんだなって、思ったりした。
現実を見ていないような、ボーっとしたティーナを連れて、私たちは帰る。
(……裁けなかったな)
馬車の中。
隣に座るティーナの手を掴んで。
(どうして手放せなかったのかな)
なんて、考えてしまうけれど。
ティーナの手を引くと、素直に甘えてくる。
もっと早くこうしておくべきだったのかもしれない。
思ったより、私もお姉ちゃんだったんだなって結論づけた。
私を悪者に仕立てるだけで、その先がない。
彼女にしては杜撰すぎる計画。
正直、何がしたいのか分からない。
問い詰める私の言葉に、隣に並ぶアルトが言葉を重ねた。
「君は、姉に構って欲しかっただけなんじゃないか?」
アルトが続ける。
「僕も、ジェシカに構って欲しいから気持ちはよく分かる。だけど、こんな、彼女を傷つけるようなやり方で関わっても、自分が辛い思いをするだけだぞ」
「うるさいわね。私はあなたと違って、もう後がないのよ。だから、今、この一瞬だけでも、お姉様に私を焼きつけることが出来たのなら、それで構わないの。満足なの」
「それ、どういう……」
尋ねると、ティーナが胸を抑えて蹲る。
「はぁ……はぁ……」
「ティーナ? 顔色が優れないよ」
「ふふ、胸が苦しいわ。私はね、病に掛かったのよ。どうせ長生きはできない。だから、ジェシカ姉様の幸せを全部もらうことにしたの。姉様は長く生きられるんだから、全部妹の私に譲るべきでしょう?」
「聞くに堪えんな。我々王族は神よりこの国を預かっている。そして、お前たち貴族は我々の権能を部分的に預かっているに過ぎん。我々が虚偽の証言を行うというのは、統治者としての正当性を毀損する行いだ。あー……前置きが長くなったが、ティーナ、お前も死んでくれ」
顔色の悪いティーナが騎士に腕を掴まれる。
「ティーナをどうするんですか?」
「レンと同じ所へ送るのがいいだろう。離別するまで婚約者だったのだからな」
「そういうことか。だったらもう、ここでお別れね」
青白い顔で、ティーナは薄っすらと笑っていた。
「ティーナ……。あなたはこれで良かったの?」
「もう、十分だよ。久しぶりにお姉ちゃんと遊べたから」
「なにそれ。本当にそれだけの理由で……」
「私のことを忘れないでね、お姉ちゃん」
ティーナが連れていかれる。
ああなって当然の馬鹿な妹だったけど、私はとっさに馬鹿な妹の腕を掴んでいた。
第一王子が意外そうに瞬きした。
「ん? どういうことかな?」
「率直に申し上げるとですね」
心底、馬鹿な発言をしてしまうという自覚はあるが、
「ティーナは妄想と現実の区別がつかない、馬鹿な妹なんですよ。だから、嘘はついていないのだと思います。少し、周りとずれているだけで」
「ほう、つまり嘘はついていないと。そんな詭弁で彼女を見逃せと?」
「ジェシカ、何を馬鹿なことを……」
アルトが止めるのも当然だ。
でも、お姉ちゃんなんて呼ばれて、何もしないでいるのは私には無理だ……。
「お願いします。馬鹿な妹を許してあげてください。二度と社交界には顔を出させませんから」
頭を下げる。
「ふ……ふっふっふ。そうか、そういう娘だったか。ここ数年、互いの足を引っ張りあう姉妹など飽きる程に見てきたが、これは面白い催し物を見せてもらった。アルト、彼女のことだけど、俺に譲ってもらえないかな」
「絶対に譲らない。例えここで命を奪われようとジェシカは譲らない」
「……だろうね。まあ、そういうことならいいよ。他でもない君が許すと言うんだ。外野である我々に口を出す権利もなかろうよ」
……はぁ。
なんとか生還した?
本当に馬鹿な妹だよ。
ティーナの頭を思いきり叩く。
「痛いっ」
「アルト、悪いけど陛下への挨拶が済んだらこの子、一緒に連れ帰っていい? 馬鹿すぎて、ちょっと怖いから」
「それまでレインに預けるか。構わないか、レイン?」
「大いに構うところですが、アルト殿は私を託児所か何かと勘違いされているのですかな?」
「そんなこと言って、コレット達のことは愛してるだろう。頼む」
「頼まれました。行ってらっしゃいませ、アルト殿」
「しっかり陛下に挨拶してこいよ」
団長と当主様に見送られる形で、陛下の元へ。
一連のやり取りを眺めていた陛下は、私達が謁見すると「良い姉だな」とだけ感想を呟いた。
達観しすぎていて、動じない羊のような印象を与える方だ。
「陛下、私、アルト・エドワードは、ここにいるジェシカ・グレイス嬢と婚姻を結びたく存じます」
「ジェシカ嬢も同じ気持ちか?」
「はい。私もアルト・エドワードを夫にしたいと願っています」
「ふむ、よいぞ。夫婦で共に王国へ仕えるがよい」
陛下への挨拶はあっさり終わってしまった。
本当に聞いてくれてたのかな、と思う程だけど、帰り際に従者の方から金貨の詰まった革袋を渡されて……。
「あの、これは?」
「陛下からのご祝儀です。どうぞお納めください」
そんなこともあったりして。王族って貰うだけじゃなくて分配もするんだなって、思ったりした。
現実を見ていないような、ボーっとしたティーナを連れて、私たちは帰る。
(……裁けなかったな)
馬車の中。
隣に座るティーナの手を掴んで。
(どうして手放せなかったのかな)
なんて、考えてしまうけれど。
ティーナの手を引くと、素直に甘えてくる。
もっと早くこうしておくべきだったのかもしれない。
思ったより、私もお姉ちゃんだったんだなって結論づけた。
0
お気に入りに追加
855
あなたにおすすめの小説
たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな、と婚約破棄されそうな私は、馬オタクな隣国第二王子の溺愛対象らしいです。
弓はあと
恋愛
「たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな」婚約者から投げられた言葉。
浮気を許す事ができない心の狭い私とは婚約破棄だという。
婚約破棄を受け入れたいけれど、それを親に伝えたらきっと「この役立たず」と罵られ家を追い出されてしまう。
そんな私に手を差し伸べてくれたのは、皆から馬オタクで残念な美丈夫と噂されている隣国の第二王子だった――
※物語の後半は視点変更が多いです。
※浮気の表現があるので、念のためR15にしています。詳細な描写はありません。
※短めのお話です。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません、ご注意ください。
※設定ゆるめ、ご都合主義です。鉄道やオタクの歴史等は現実と異なっています。
【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。
西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。
路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。
実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく―――
※※
皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。
本当にありがとうございました。
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
夫が不倫をしているようなので、離婚します。もう勝手にすれば?いつか罰が当たるから
hikari
恋愛
シャルロッテはストーム公爵家に嫁いだ。しかし、夫のカルロスはタイパン子爵令嬢のラニーニャと不倫をしていた。
何でもラニーニャは無機物と話ができ、女子力もシャルロッテよりあるから魅力的だという。女子力があるとはいえ、毛皮に身を包み、全身宝石ジャラジャラで厚化粧の女のどこが良いというのでしょう?
ラニーニャはカルロスと別れる気は無いらしく、仕方なく離婚をすることにした。しかし、そんなシャルロッテだが、王室主催の舞踏会でランスロット王子と出会う事になる。
対して、カルロスはラニーニャと再婚する事になる。しかし、ラニーニャの余りにも金遣いが荒いことに手を焼き、とうとう破産。盗みを働くように……。そして、盗みが発覚しざまあへ。トドメは魔物アトポスの呪い。
ざまあの回には★がついています。
※今回は登場人物の名前はかなり横着していますが、ご愛嬌。
※作中には暴力シーンが含まれています。その回には◆をつけました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!
しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる