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5 最後の晩餐
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「さて、今日もやるか」
第六層、紅蓮の番犬ケルベロスが火球をジュークたちに吐き出している。
僕はその様子を遥か後方で見守りながら、心の中で呪文を唱えていた。
『シャドー』
錬金術師である僕は呪力を強化しない限り威力の高い魔法を使えない。
だけど、『呪符』を作成することで上位の魔法を使うこともできる。
僕が使ったシャドーは、僕にソックリな幻影を召喚し、本体である僕はその影に潜むという魔法だ。
影に潜んでいる間は僕の行動は見られないので、何をしても自由だったりする。
ただ、棒立ちすることになるから見栄えは非常に悪かったりする。
僕は戦況を見守りながら、影の中で呪符を五枚取り出した。
『身代わり』は、戦闘で発生するあらゆるダメージを引き受ける符だ。
僕はジューク、タカ、ルーミア、イファ、そしてジュークの使っている高価な魔剣のダメージを引き受けるよう符を使用した。一枚五千ゴールドはするそこそこ値の張るものだけど、効果は非常に高い。致命傷を避けられるんだから安いかなって思う。ただ、ジュークたちには少しダメージを引き受ける程度にしか伝えてないから、感謝もされない。
僕がこの力の真価を伝えない理由は、獲得できる経験値を増やす為だ。
相手の致命傷を避けて一方的に攻撃ができれば、どんなダンジョンだって攻略難度が著しく低くなる。
そうなると彼らに入る経験値も目減りしてしまう。
(例え僕の評価を落としたとしても、ジュークのパーティがSランクで活躍してくれた方が嬉しいから……)
今日も僕はパーティを影ながら支援する。
たとえ評価をされていなくても、それが自分の役割だって確信してるから……。
結局、この日のジュークパーティは十層で竜の魔人をしていたラキアを倒し、見事ダンジョンを攻略して見せた。企業からはダンジョンクリアによる報酬が出て、ジュークは誇らしげにラキアから賞金を受け取ってインタビューを受けていた。
ダンジョンをクリアした時は、十層で魔人をしていた人がインタビューを行うのが慣例だ。
タキシードを着た男装の麗人ラキアは、プロフェッショナルな笑みを浮かべている。
戦闘での遺恨を持ちこさないのはさすがだなと思った。
「ダンジョンクリアおめでとうございます。ジューク様」
インタビューを受けるジュークは機嫌が良さそうだ。
マイクを向けられて笑顔を見せている。
「いや、今回は俺だけの活躍じゃない。仲間達が奮戦してくれたお陰だな。特に、新戦力のイファはいい仕事をしてたな」
「イファさんは新メンバーなのですか?」
「いえ。わたくしは研修枠です。まだ正式にパーティメンバーに決まったわけではありません」
「研修生とは思えない動きでしたよ。的確な治癒だけではなく攻撃魔法まで使われて、私も意識が飛んでしまいました」
あはははは、とジュークたちが笑う。
僕はスポットライトの当たる場所から一歩引いた距離で、彼らのインタビューを見守っていた。
ジューク、イファ、ルーミア、タカと順番にインタビューを受けている。
たまにインタビュー自体を忘れられる時もあるけど、今日はしっかりとマイクを向けられた。しかし、その言葉には小馬鹿にするようなニュアンスが込められていた。
「今回も動きませんでしたねぇ。能ある鷹は爪を隠す……ということでしょうか?」
「おいおいラキアさん、ウチの最強戦力を馬鹿にしないでくださいよ。こいつが飯を作って荷物も持ってくれるから、俺たちはいつだって全力で戦えるんです」
「あ、そうだったんですね。失礼しましたヒロトさん。ヒロトさんはSランクに相応しい荷物持ちだったのですね」
全員がドッと笑う。
イファだけは空気に慣れないのか、無表情にラキアを見つめていた。
何を考えているのかは読めない。
「それではジュークさん、また次回も挑戦お待ちしております」
「次は難易度Aのダンジョンに挑むぜ! 配信見に来てくれた皆ありがとう! また俺たちの戦い、見に来てくれよな!」
配信が終わる。
僕は溜息をついた。
「いいご身分だな。荷物運んで飯作って、戦闘もしてないのに真っ先に溜息かよ」
「今日は魔力を多めに使ったから」
「はぁ!? どこでだ!? お前、新参よりも動けてなかっただろ!」
「ごめん……」
「別に俺はいいけどよ。そんなんだと仲間に迷惑かけてどこでもやってけねえぞ。ウチみたいにヌルいパーティばかりと思うなよ」
ジュークには逆らえない。
「ごめんね」
「これから打ち上げやるけど、お前はどうすんだ? 妹と約束があるなら無理に参加することはないぜ」
「どうせこの人は家族優先でしょ? 聞くだけ無駄よ」
「今に始まったことじゃないしな。ヒロトに協調性を期待する方が間違いだ」
「……僕は帰るよ」
「そうしろ。誰もお前に参加してくれなんて思ってない。これが現実だよ。しっかり噛みしめろ」
イファが僕に手を振る。
さようならってことだ。
僕はジュークから少額の取り分を受け取って、その場を後にした。
第六層、紅蓮の番犬ケルベロスが火球をジュークたちに吐き出している。
僕はその様子を遥か後方で見守りながら、心の中で呪文を唱えていた。
『シャドー』
錬金術師である僕は呪力を強化しない限り威力の高い魔法を使えない。
だけど、『呪符』を作成することで上位の魔法を使うこともできる。
僕が使ったシャドーは、僕にソックリな幻影を召喚し、本体である僕はその影に潜むという魔法だ。
影に潜んでいる間は僕の行動は見られないので、何をしても自由だったりする。
ただ、棒立ちすることになるから見栄えは非常に悪かったりする。
僕は戦況を見守りながら、影の中で呪符を五枚取り出した。
『身代わり』は、戦闘で発生するあらゆるダメージを引き受ける符だ。
僕はジューク、タカ、ルーミア、イファ、そしてジュークの使っている高価な魔剣のダメージを引き受けるよう符を使用した。一枚五千ゴールドはするそこそこ値の張るものだけど、効果は非常に高い。致命傷を避けられるんだから安いかなって思う。ただ、ジュークたちには少しダメージを引き受ける程度にしか伝えてないから、感謝もされない。
僕がこの力の真価を伝えない理由は、獲得できる経験値を増やす為だ。
相手の致命傷を避けて一方的に攻撃ができれば、どんなダンジョンだって攻略難度が著しく低くなる。
そうなると彼らに入る経験値も目減りしてしまう。
(例え僕の評価を落としたとしても、ジュークのパーティがSランクで活躍してくれた方が嬉しいから……)
今日も僕はパーティを影ながら支援する。
たとえ評価をされていなくても、それが自分の役割だって確信してるから……。
結局、この日のジュークパーティは十層で竜の魔人をしていたラキアを倒し、見事ダンジョンを攻略して見せた。企業からはダンジョンクリアによる報酬が出て、ジュークは誇らしげにラキアから賞金を受け取ってインタビューを受けていた。
ダンジョンをクリアした時は、十層で魔人をしていた人がインタビューを行うのが慣例だ。
タキシードを着た男装の麗人ラキアは、プロフェッショナルな笑みを浮かべている。
戦闘での遺恨を持ちこさないのはさすがだなと思った。
「ダンジョンクリアおめでとうございます。ジューク様」
インタビューを受けるジュークは機嫌が良さそうだ。
マイクを向けられて笑顔を見せている。
「いや、今回は俺だけの活躍じゃない。仲間達が奮戦してくれたお陰だな。特に、新戦力のイファはいい仕事をしてたな」
「イファさんは新メンバーなのですか?」
「いえ。わたくしは研修枠です。まだ正式にパーティメンバーに決まったわけではありません」
「研修生とは思えない動きでしたよ。的確な治癒だけではなく攻撃魔法まで使われて、私も意識が飛んでしまいました」
あはははは、とジュークたちが笑う。
僕はスポットライトの当たる場所から一歩引いた距離で、彼らのインタビューを見守っていた。
ジューク、イファ、ルーミア、タカと順番にインタビューを受けている。
たまにインタビュー自体を忘れられる時もあるけど、今日はしっかりとマイクを向けられた。しかし、その言葉には小馬鹿にするようなニュアンスが込められていた。
「今回も動きませんでしたねぇ。能ある鷹は爪を隠す……ということでしょうか?」
「おいおいラキアさん、ウチの最強戦力を馬鹿にしないでくださいよ。こいつが飯を作って荷物も持ってくれるから、俺たちはいつだって全力で戦えるんです」
「あ、そうだったんですね。失礼しましたヒロトさん。ヒロトさんはSランクに相応しい荷物持ちだったのですね」
全員がドッと笑う。
イファだけは空気に慣れないのか、無表情にラキアを見つめていた。
何を考えているのかは読めない。
「それではジュークさん、また次回も挑戦お待ちしております」
「次は難易度Aのダンジョンに挑むぜ! 配信見に来てくれた皆ありがとう! また俺たちの戦い、見に来てくれよな!」
配信が終わる。
僕は溜息をついた。
「いいご身分だな。荷物運んで飯作って、戦闘もしてないのに真っ先に溜息かよ」
「今日は魔力を多めに使ったから」
「はぁ!? どこでだ!? お前、新参よりも動けてなかっただろ!」
「ごめん……」
「別に俺はいいけどよ。そんなんだと仲間に迷惑かけてどこでもやってけねえぞ。ウチみたいにヌルいパーティばかりと思うなよ」
ジュークには逆らえない。
「ごめんね」
「これから打ち上げやるけど、お前はどうすんだ? 妹と約束があるなら無理に参加することはないぜ」
「どうせこの人は家族優先でしょ? 聞くだけ無駄よ」
「今に始まったことじゃないしな。ヒロトに協調性を期待する方が間違いだ」
「……僕は帰るよ」
「そうしろ。誰もお前に参加してくれなんて思ってない。これが現実だよ。しっかり噛みしめろ」
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