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50 救いの手

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 聖地エレノア。ここは初代聖女にして、建国の王クワハラの妻だった女が異教徒の凶弾に倒れた場所だとされている。信徒達にとって重要な地だが、普段は大司教が管理をしており、一般の信徒を入れることは固く禁じられている。

「どうしてこんなところにくるの? 私のこと襲う気でしょ?」
「大司教にまつわる情報を手に入れてから、俺は徹底的に奴が足を運んだ先を調べていった。そして、見つけたのがこの悪徳の都、ソドムだ」

 碑文の刻まれた石板で壁ドンをする。
 聖女はビクリと肩を竦ませている。

「これから真実を見せてやる」

 碑文に魔力を注ぐと裏側に地下へ通じる階段が現れた。

「こ、こんな仕掛けあったの? 魔法も使えない国なのに、たまに変なのが見つかるわね」
「いいからついてこい」

 トリテアにある魔法の痕跡は、クワハラ達のものだ。
 今は廃れてしまった技術が過去にはあった。そういうことだろう。

 カツ、コツ、と石造りの階段を降りていく。長い階段を五分ほど無言で降りると、地下の部屋に通じる扉が現れる。俺が扉を押すと、そこはベッドだけが置かれた手狭な隠し部屋だった。

「え……」

 アンナが言葉を失う。獣人の少女が鎖に繋がれていた。

 肩で髪を切り揃えた、褐色の肌の娘だ。
 身体中に殴られたような痣があり、口の端は切れていた。服は着ていない。
 鞭でも使ったのか、あちこちに裂傷まであった。
 
 俺達と目が合うと、彼女は頭を抱えて縮こまった。

「た、助けにきたのよ?」

 アンナが安心させるように話しかける。
 亜人なんかどうでもいいと言っていた彼女だが、人間として最低限の良心は捨てていなかったらしい。

「お姉ちゃん……」
「うん。……うん。もう大丈夫だから」
「たたかないでぇ」

 アンナは言葉を失くしてる。
 想像と現実は違う。

「あいつ……許せない……」
「そうだな。今すぐ解放してやろう」

 鎖を破壊し、娘を解放してやる。

「俺の仲間のところに送る。もう大丈夫だからな?」
「……もうたたかれない?」
「誰もあなたを叩いたりしないから。……今までごめんね。助けてあげられなくて、本当にごめんね」

 獣人の少女を転移魔法で本邸に送る。
 エメリスに事情は話しておいたから、彼女ならうまくやってくれるだろう。

「何よ……。なんなのよ。どうしてあんな小さい子がこんな目に……!」
「噂で知ってたんだろ? あいつが獣人の子供を暴行するペド野郎だってことはな」
「悪い噂はあったけど……あんな……」
「これが現実なんだよ」

 無理に性交すれば壊れてしまう程の幼子だ。
 それを、ライアスは痛めつけていた。

「どう感じた? お前が亜人だからという理由で救わなかった子供だ」
「こんな酷いって知らなかった」
「俺が気づくよりも早く、聖女であるお前なら大司教を断罪できた。それをしなかったのは怠慢だ」

 俺は転移門を開いた。

「どうする。俺が大司教の始末をつけてもいいが、望むならお前に判断を委ねる」
「私に疑われるなんて思ってないでしょうし、こっちで証拠を見つけてケリをつけるわ」
「そうか。俺はさっきの娘の治癒をするから帰る」
「私を抱いていかないの? それが目的だったんでしょ?」

 それは誤解だ。俺はするなんて一言も言ってない。

「今日は亜人を救いにきた。それだけだ。お前のことは抱きたいけどな」
「噂通りね。それでも、大司教よりは遥かにマシよ」
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