巻き込まれ転移者の異世界ライフ。○○人の女を囲って幸せに生きる ~ざまぁで終わらせるわけないだろ~

みかん畑

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36 王の試練

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 王の試験とやらは、王族と候補者のみが入ることを許される聖域で行われるということだった。クアラの案内で王城の隠された地下室へ向かい、設置されていた転移魔法陣を起動させる。そうして転移させられた先は、異界のような空気を感じさせる花畑だった。濃霧が立ち込めており、視界は不明瞭だ。

「ここから先は一人で進まなければなりません。どうか試練を乗り越えて、私を迎えに来てください」
「ああ、俺を信じて待っていてくれ」

 クアラと接吻し、霧の奥へ向かって一人歩いていく。
 事前に元老院で聞いていた話では、王の試練は歩き続けることだと言う。
 歩き続け、見つけたものを持ち帰れという話だ。

「何が出るやら……」

 しばらく歩いていると、霧の中から気配が近づいてきた。

「ねえ、そこに誰かいるの?」
「その声は……アカリか?」
「兄さん!?」

 ……信じられない。日本に置いてきたはずの妹が、制服姿で佇んでいた。
 まさか、このタイミングで転移させられたのか?

「よかった……。本当に無事で……」
「いや、驚いたな。また会えるなんて思わなかった」
「酷いです。私はずっと探してたのに……。警察にも何度も相談に行って……お父さんとお母さんも心配してました。兄さんの勤めてた会社から急に連絡があって、仕事帰りにふらっといなくなったって……」
「ああ、そうだったな」

 思えば帰宅の途中で濃霧に迷い込み、気がついたら謁見の間にいたんだった。

 どうして、故郷のことを今まで気にしてなかったんだろうな。
 俺は、こんなにも家族を大事に思ってたのに……。

「兄さん、ここがどこかは分かりませんが、帰りましょう?」
「分かってる。この世界で手に入れたものも多いが、アカリのことが一番大切だ」
「嬉しい……」

 アカリを抱きしめる。彼女と俺は血を分けた兄妹ではない。俺は本当の両親の顔を知らない。西原の親父とお袋は、航空機事故で両親を失った俺を引き取って、ずっと育ててくれてたんだ。その恩返しもできてない内に異世界の王になるなど、考えが軽率だった。

「日本に戻る方法を考えないとな」
「兄さん、雰囲気が変わりました?」
「まあ、少し変わったこともあるかもしれない」

 王の試練など放棄してしまおう。そう思い足を動かそうとするが、地面に縫いつけられたかのように動かなかった。……いや、違う。これは、身体が拒絶しているのか?

「なあ、ここの霧だが、なんだか頭が朦朧としないか」
「私はそんなことありませんが……」
「なるほど。聖域の機能を殺した方がよさそうだな」

 破壊の権能が発動し、霧が晴れていく。
 それに伴い、頭もクリアになった。

 俺は妹を鑑定した。
 鑑定結果は、生霊S。
 つまり、本人の想いを形にしただけの紛い物ということになる。

(これが王家の試練か)

 当人にとって大事なものを呼び出し、歩みを止めさせる。そして、試練を中断させる。そう考えると、ウェガにも人並みに大切なものがあったのだなと思い、笑みが浮かんだ。

「兄さん?」
「いや、大掛かりな術式だったな。まさか、日本にいる妹の生霊まで呼ぶとは思わなかった。お前は兄に会いたいというアカリの思いが形になったものだが、アカリ本人じゃない」
「……怖いです。兄さんが何を言っているのか分かりません」

 アカリの虚像に対して破壊の権能を行使するべきだろうな。彼女は俺にとっての障害だ。

「兄さんのこと、怒らせてしまいましたか? 謝るので、傍にいさせてください」

 いや、例え紛い物であっても。
 もう会えないと思っていた家族を消し去ることなど、俺にはできそうもない。
 本人じゃないと分かっていても、妹の想いであることに違いはないのだ。

「……まったく」

 俺もつくづく妹に甘い。『再現』の魔法を使い、生霊であるアカリの器を用意してやる。受肉させれば俺の傍を離れる必要もないだろう。恐らくだが、生霊のままでは聖域を離れたら消滅してしまう。

「あの……兄さん?」
「詳しい状況については後で説明する。だから、今は黙ってついてきてくれ」
「兄さん……状況は分かってませんが、私は兄さんが好きです。だから、ずっと傍にいさせてください」
「嬉しいよ。大事な話はこの仕事が終わってからな」
「はい。色々と聞かせてください」

 アカリ本人の想いが剥き出しになったからか、初めて恋愛感情のようなものをぶつけられて焦った。

 本当に参ったな……。

「ひとまず行くぞ」
「やっぱり変わりましたね。以前よりも男らしくなった気がします」

 アカリに腕を抱かれて歩き始める。
 そんなに歩かない内に、雰囲気が変わった。
 再び霧が立ち込めて、霧の向こう側から老人が姿を現われたのだ。

「まさか、試練を強引に突破するとはのう」

 またしても生霊か? 身構えたが、俺の記憶にもない見知らぬ老人だ。
 着流しを着た東洋人顔の男である。

「そう構えるな。試験は合格にしてやってもよい。わしはトリテアの初代国王、クワハラ・リン・トリテインだ」
「日本人か?」
「見ての通りよ。まったく懐かしいのう。まさか転移者が王になるとは思わなんだ」

 クワハラが胡坐をかく。すると、そこは座敷の一室となった。
 聖域内の景色を自在に変えることができるらしい。
 俺は彼に倣って座り、妹は正座になった。

「これ、魔法ですか?」
「後で説明する。それで、クワハラさん。あんたも転移者だったのか?」

 クワハラはおちょこを二人分用意した。日本酒を二人分注ぎ、アカリにはグラスに入ったオレンジジュースを用意している。

「お前さんの予想通りだ。『創造の女神』と、奪うことしか知らぬ『邪悪な神』。女神と邪神の長きに渡る戦いに巻き込まれた日本人の一人が、このわしじゃな」
「じゃあ、邪神と直接戦ったのか?」
「うむ。戦い、これに勝利した。わしは報酬として『不死』の権能を手に入れ、自分で興した国を見守を見守ることにした。邪神が再び地上に現れた時に備えることができるよう、国作りをしたかったのだ」
「なるほど。その試みは成功したのか?」
「まあ、邪神を退けることには成功したがのう。ある意味では失敗でもあった」

 クワハラが遠くを見つめる。

「トリテアが邪神との戦いに明け暮れている間に、ミナガルデやスピリタニアといった新興国は成長し、反対にトリテアは衰退した。わしが長年行ってきたことなど、しょせんは独善でしかなかった。そろそろ終わらせようと思ってな。不死の権能もアイシス様に返上しようと思っておる」
「この世界が存続しているのは間違いなくあんたの功績だ。トリテアが戦ってきたことで、この世界の人類は魔人に支配されずに済んでるんだからな」
「ねぎらってくれるのか」

 クワハラが俺に刀を寄こした。

「わしが今までに得た能力を封じてある。お前さんの持つ剣聖の加護があれば、剣に収めた力を自身に移し替えることができるだろう」

 刀から強烈な圧を感じる。一体何を封じたらこうなるんだ……。

「天叢雲剣。わしが邪神を討った時の『武技』をお前に託す」
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