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89 帝都崩壊
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クレトから情報を引き抜いた俺は、ローネシアと共に帝都上空にいた。
手をかざし、結界の強度を測定する。
なるほど、戦力値3万以上で破壊できる結界か。
この世界は創造神が創り出した物を、破壊神が買い取って使用しているものだ。細かな演算程度はクリュウの方でもできるだろうが、結界を破壊するなどといったことは奴にも出来ないだろうな。
「ローネシア、少し離れてくれ。お前が身体を許した男の強さを見せてやる」
「うん、破壊してきて。こんな腐った国」
憧れのヒーローの背中を見守るような目だ。
やってることは悪役そのものなんだけどな。
さて、使う術は何にしよう。
魔王軍にいる面々と被ったら、壊したのが彼女達のせいになってしまう。
かといって俺の『神竜斬』もここでは使えない。
顔を隠した意味がなくなるからな。
面倒だが、新技でも作るか。
俺は新たに『アースブレイカー』というスキルを作成した。
魔力を溜めて威力を調整できるスキルだ。
「消えろ」
指先にエネルギーを集中し、放つ。
極大の輝きが徐々に落下していき、住民達が気づいた時には閃光が瞬き、神の施した守りの結界は粉々に砕け散った後だった。
俺は試しに待機させていたストーンデーモンを呼び出し、帝都に放った。
結界で弾かれるはずのストーンデーモンが悠々と地面スレスレを飛び、俺の元に戻ってくる。
どうやら結界は完全に消滅したようだな。自分の仕事ぶりに満足する。
「さすがタクマ様……。何でもできて素敵……」
「ここではタトナスと呼んでもらおうか。せっかく姿形を変えてきてるわけだしな」
「あ、そうだった。御者とクレトの記憶も操作したんだものね」
「そういうことだ」
帝都は大パニックになっている。
空を指差し、俺を目視した者も多そうだ。
少し、派手にやり過ぎたかもな。
さて帰るかと思っていたが、『飛行』が使える冒険者が一人飛んできた。
狼っぽい風貌の筋肉質な男だ。雰囲気から、かなり使えそうな男だと予測する。
「ヘイ、あんたご機嫌なことしてくれてんじゃねえか。まさか結界を壊すなんてよ」
探りを入れられたら面倒なので、魔法除けの指輪を『創造』して嵌めておく。
ないとは思うが、データを見られたら誤魔化しが効かないからな。
「ありゃ? オレの『鑑定』が効かないな。あんたもプレイヤーなのかい? それとも――魔王ってヤツなのかね?」
「驚いた。お前が新しい勇者か」
俺の反応に男が破顔する。
「ああ、俺もこのショーに選ばれた一人さ。まったく、お互い面倒なゲームに巻き込まれたよな」
ショートとかゲームとか、何か情報を知ってるのだろうか。
「これのどこがショーなんだ?」
聞いてみる。
男は陽気に笑ったままだ。
「ほら、バラエティー番組なんかでよくあるだろ。実はドッキリでしたってヤツ。オレが思うに、この状況は茶番なんだよ。きっとどこかで神様が見守っててショーにしてるんだ。オレ以外にも何人かプレイヤーはいるから、誰が最初に魔王役を倒すか賭けてるんだな」
よく喋る男だ。『鑑定』を使うが、弾かれた。
「おっと、話の途中に手癖が悪いね。生憎だがプレイヤーに会うのは四度目なんだよ。こっちだって対策くらいしてるさ。大切なアイテムをスられた後だしな」
「お前、名前は?」
「ローグだ。よろしく」
手を差し伸べられたので握手を交わす。
瞬間、俺の手に刻印が刻まれた。
「それはお近づきの印さ。ところで、あんたの名前はなんて言うのかな?」
「タトナスだ。この印、消していいか?」
「やめた方がいい。その印を消した瞬間、タトナスさんは爆殺される羽目になるよ」
――面白い。ブラフか?
それとも何か能力を獲得してるということか?
「さて、もう一個質問だ。タトナスはプレイヤー側かい? それとも、魔王役かい?」
「どちらとも言えるな。プレイヤーであり、魔王に寄り添う者でもある」
「そうかい。なかなか面白いロールだ。ところで、オレの彼女になる気はないかな? 一目惚れしたんだ。凍えるようなアイスブルーの瞳、眩く輝くプラチナブランドの髪、どちらもとても惹かれるよ。そのチャーミングな胸もね」
言い寄られるのはこれで二度目だ。
「断る。何を期待してるか知らないが、お前の女になる気はない」
「こんなに可愛いのに攻略不可か。なら、プレゼントを贈るよ」
「タ――」
ローネシアが叫びそうだったので人差し指を立てる。
瞬間、俺の身体は爆発して粉々になった。
「ヒヒっ! よし、プレイヤーを一人脱落させてやったぜ! 可愛くてもったいなかったけど、女の子はもう一人いるしな」
「今の、どういう技だったんだ?」
「えっ……?」
『冥王』の力で『六道輪廻』の復活までのラグ(60秒)を削り、即座にパワーアップして戻ってきた。
ローグを敵と認定した俺は『ミスト』も発動させ、転移阻害を行うと同時に『魔法除けの指輪』も砕いた。指輪を砕くのに使用したのは当然『冥王』の力だ。
「ふ、触れずにどうやって……」
「認識したモノを葬り去る。それが物体であれ概念であれ記憶というような形のないものであれ、俺が認識すればそれは消滅させることが出来る。俺が得たのはそういう力だ」
「……ッ!」
まあ、力は多く使うから普通に戦った方が省エネではあるんだけどな。
俺は『鑑定』の力を使い、魔除けの指輪を失ったローグの技を暴くことにする。
――なるほど。ローグの使用した技は『スティグマ』というらしい。
握手を交わした相手の身体に刻印を刻み、離れた場所にいても刻印を通じて魔法を掛けられるようにするスキルらしい。これを刻めば相手がどこにいようが一方的に魔法を使い、攻撃できるというわけだ。本来は支援向けの魔法だろうが、よく使うものだ。
しかし、戦力値120万の守りがある俺に、何のスキルを使用したんだ?
気になって更に調べた俺は、『オーラボム』というオリジナルのスキルに行き当たった。
これは、対象の魔力を火力に変換して爆発させるスキルか。
なるほど、俺本人ではなく俺の魔力を利用し、攻撃のダメージ自体も俺の魔力に依存していたわけだな。どうりで攻撃が通るわけだ。
なかなか賢い男だと褒めてやりたい。
だが、仕掛けが分かれば対策も可能だ。
俺は『カウンターボム』というスキルを作成した。
これは俺の魔力に何者かが干渉した場合、その干渉した者に『オーラボム』を炸裂させるスキルだ。発動のタイミングは相手の起爆前に調整したので、さっきみたいな無様な爆発はもうないだろう。
「『オーラボム』はもう使わない方がいいぞ。お前が爆発するだけになったからな」
「バケモノかよ。転移も封じられてるのか?」
「ついでに言うともう念話も通じないぞ」
「あああぁぁ! やっぱり死にたくねえ! もう死ぬのは御免だ! キクチ……! どっかで見てるんだろ! オレが悪かった! お前の子分になるから回収してくれ!」
「仲間がいるのか?」
『掌握』した方が良さそうだ。
「く、来るなぁ! オーラボム……!」
と、ローグが叫んだ瞬間、爆発が起こりローグは落下していった。
俺の発動させた『ミスト』を抜け、眼下の街へ落下していく。
『ミスト』は生物には有効だが、死体には通じない。
魔力量の差で身体が粉々になる程の爆発は起こらなかったが、それでも死は免れなかったようだ。
『蘇生』させて情報を奪うか?
地上へ降り立つ――が、ローグの死体が見当たらない。
あいつ、蘇生系のスキルは持ってなかったはずなんだがな。
キクチ……だったか。仲間がいるようなことを言っていた。
(逃がしたか……)
『気配探知』を行うが、大国の中心ともなれば人が多すぎて探しきれない。
(一度帰ってラリエにでも相談するか?)
「こんにちは、お姉さん」
と、考え事をしていると学ランの少年に話しかけられた。
黒髪の陰のありそうな子供だ。
「タイミング的にプレイヤーか。そう思ってますよね? 正解です」
「お前、クリュウの手先か?」
「ええ、違いますよ。あんな弱そうな奴に従ったりしませんし。僕はワタルさんに選ばれたプレイヤーです」
「随分とルールに変更があったようだな。いったい何人のプレイヤーが入ってきてるんだ。まあ、俺のせいなんだろうけどな」
「あはは、自覚があるなんて驚きです。僕の名前はキクチ・ユウタ。さっきのローグを回収した実行犯です」
悪びれもせずに言う奴だ。
「で、お前は俺の首を取りに来たのか?」
「いえ、別にそんな気はありませんよ。他のプレイヤーはやる気みたいですが、僕は神の座なんて興味ないんで。それよりも、王様になりたいなって思ってます」
「王様か。ラクシア帝国は止めといた方がいいぞ。これから滅ぶかもしれないからな」
「あはは、じゃあそうします。僕はブルームに行こうと思ってます。お姉さんとは敵対しないつもりなんで、このまま行かせてもらってもいいですか?」
「ローグの手綱を握っておくならな」
「分かりました。キクチパーティはお姉さんと敵対しないことを約束します。それでは」
言って、キクチの姿は影のように消えた。
『転移』とも違う、コピーを使って遠隔地から話してるような感じだったな。
全く、癖のあるプレイヤーばかりが入ってきてるらしい。
「タクマ様、身体と魔力は大丈夫?」
優しいローネシアが心配してくれる。
「どちらも問題はない。だけど、長居するには目立ち過ぎたな」
早くも帝国の騎士達が集まってきている。
往来の向こうから馬の嘶きのようなものが聞こえてきた。
『気配探知』を使うと、かなりの騎士が集まっているように感じる。
このまま帰ろうと思っていたが、せっかく集まってくれたんだ。
挨拶くらいしておくのがマナーだろうな。
帝国の守備隊が見えてきた。
騎兵が6000程はいるか。
この短期間でよく揃えたものだ。
傍らにローネシアを抱き、ストーンデーモンを隣に控えさせて出迎えることにする。
「よく来たな、帝国の騎士共。俺は魔神タトナス。この地上を支配せんとする魔神だ」
「魔神タトナス……。魔王とは異なる存在か。なぜ、王都の結界を消し去った!」
隊長格っぽいのが吠えてきた。
目ざとくストーンデーモンがいる理由に気づいたか。
まあ、あれだけ派手に結界を破壊してやれば気づくよな。
「言っただろう。俺はこの地上を支配すると。手始めにこの帝都を頂こうか」
「何ぃ……!」
うーん。調子に乗ってペラペラと話し過ぎてるかもな。
結界を破壊してこっそり帰るつもりが、ローネシアにいいところを見せようと思って頑張り過ぎている気がする。
迷ったが、俺はここらで一度退却することにした。
ジュリに攻めてもらってる間に要請を受けて勇者が出向く計画だ。
俺の目的はコマネシオンと帝国の繋がりを暴く為、帝国に侵入することである。
ここで帝都をぶっ潰しても何のメリットにもならないのだ。
俺は疲れている演技をした。
「……とはいえ、今日は力を使いすぎた。神の結界を破壊する為、溜め込んでいたエネルギーを使い果たしたからな。さらばだ諸君、またどこかで――」
「全員、突撃! 魔神は力を使い果たした! 今が討伐の好機ぞ!」
わあああー! と騎兵が突撃してくる。
あ、馬鹿、何を調子に乗ってるんだ。
焦った俺は指先から『魔弾』を飛ばしてしまった。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」
隊長らしき人物が盾で耐えている。
しかし、隊長は光に包まれて消滅した。
後続に控えていた騎兵達も消滅していき、後に残ったのは綺麗な更地だ。
騎士は一人も見当たらない。全滅だ……。
(……やってしまった。守備隊を全滅させてしまったぞ)
「さすがだわ。もう余力はないと言って油断させ、相手が攻めてきたところで一気に飲み込む。タトナス様は知略にも優れているのね!」
いや、誤解だ……。そう否定しようとしたが、目撃者達はローネシアの言葉を真に受けたようだった。
「悪魔だ……。魔王だってこんな非道な戦い方はしないぞ!」
「弱者に希望を見せて次の瞬間に叩き潰すなんて……」
「恥を知りなさい魔神! 私達は最期の一人になっても抗い続ける! あなたの行いを決して許さないわ!」
すげえ非難されてるな。
結界を壊しただけで誰も殺そうなんて思ってなかったのにな。
まあ、仕事は果たしたから十分だろう。
俺はローネシアとストーンデーモンを連れ、帝都から撤退していった。
あとの仕上げはジュリにお願いするつもりだ。
手をかざし、結界の強度を測定する。
なるほど、戦力値3万以上で破壊できる結界か。
この世界は創造神が創り出した物を、破壊神が買い取って使用しているものだ。細かな演算程度はクリュウの方でもできるだろうが、結界を破壊するなどといったことは奴にも出来ないだろうな。
「ローネシア、少し離れてくれ。お前が身体を許した男の強さを見せてやる」
「うん、破壊してきて。こんな腐った国」
憧れのヒーローの背中を見守るような目だ。
やってることは悪役そのものなんだけどな。
さて、使う術は何にしよう。
魔王軍にいる面々と被ったら、壊したのが彼女達のせいになってしまう。
かといって俺の『神竜斬』もここでは使えない。
顔を隠した意味がなくなるからな。
面倒だが、新技でも作るか。
俺は新たに『アースブレイカー』というスキルを作成した。
魔力を溜めて威力を調整できるスキルだ。
「消えろ」
指先にエネルギーを集中し、放つ。
極大の輝きが徐々に落下していき、住民達が気づいた時には閃光が瞬き、神の施した守りの結界は粉々に砕け散った後だった。
俺は試しに待機させていたストーンデーモンを呼び出し、帝都に放った。
結界で弾かれるはずのストーンデーモンが悠々と地面スレスレを飛び、俺の元に戻ってくる。
どうやら結界は完全に消滅したようだな。自分の仕事ぶりに満足する。
「さすがタクマ様……。何でもできて素敵……」
「ここではタトナスと呼んでもらおうか。せっかく姿形を変えてきてるわけだしな」
「あ、そうだった。御者とクレトの記憶も操作したんだものね」
「そういうことだ」
帝都は大パニックになっている。
空を指差し、俺を目視した者も多そうだ。
少し、派手にやり過ぎたかもな。
さて帰るかと思っていたが、『飛行』が使える冒険者が一人飛んできた。
狼っぽい風貌の筋肉質な男だ。雰囲気から、かなり使えそうな男だと予測する。
「ヘイ、あんたご機嫌なことしてくれてんじゃねえか。まさか結界を壊すなんてよ」
探りを入れられたら面倒なので、魔法除けの指輪を『創造』して嵌めておく。
ないとは思うが、データを見られたら誤魔化しが効かないからな。
「ありゃ? オレの『鑑定』が効かないな。あんたもプレイヤーなのかい? それとも――魔王ってヤツなのかね?」
「驚いた。お前が新しい勇者か」
俺の反応に男が破顔する。
「ああ、俺もこのショーに選ばれた一人さ。まったく、お互い面倒なゲームに巻き込まれたよな」
ショートとかゲームとか、何か情報を知ってるのだろうか。
「これのどこがショーなんだ?」
聞いてみる。
男は陽気に笑ったままだ。
「ほら、バラエティー番組なんかでよくあるだろ。実はドッキリでしたってヤツ。オレが思うに、この状況は茶番なんだよ。きっとどこかで神様が見守っててショーにしてるんだ。オレ以外にも何人かプレイヤーはいるから、誰が最初に魔王役を倒すか賭けてるんだな」
よく喋る男だ。『鑑定』を使うが、弾かれた。
「おっと、話の途中に手癖が悪いね。生憎だがプレイヤーに会うのは四度目なんだよ。こっちだって対策くらいしてるさ。大切なアイテムをスられた後だしな」
「お前、名前は?」
「ローグだ。よろしく」
手を差し伸べられたので握手を交わす。
瞬間、俺の手に刻印が刻まれた。
「それはお近づきの印さ。ところで、あんたの名前はなんて言うのかな?」
「タトナスだ。この印、消していいか?」
「やめた方がいい。その印を消した瞬間、タトナスさんは爆殺される羽目になるよ」
――面白い。ブラフか?
それとも何か能力を獲得してるということか?
「さて、もう一個質問だ。タトナスはプレイヤー側かい? それとも、魔王役かい?」
「どちらとも言えるな。プレイヤーであり、魔王に寄り添う者でもある」
「そうかい。なかなか面白いロールだ。ところで、オレの彼女になる気はないかな? 一目惚れしたんだ。凍えるようなアイスブルーの瞳、眩く輝くプラチナブランドの髪、どちらもとても惹かれるよ。そのチャーミングな胸もね」
言い寄られるのはこれで二度目だ。
「断る。何を期待してるか知らないが、お前の女になる気はない」
「こんなに可愛いのに攻略不可か。なら、プレゼントを贈るよ」
「タ――」
ローネシアが叫びそうだったので人差し指を立てる。
瞬間、俺の身体は爆発して粉々になった。
「ヒヒっ! よし、プレイヤーを一人脱落させてやったぜ! 可愛くてもったいなかったけど、女の子はもう一人いるしな」
「今の、どういう技だったんだ?」
「えっ……?」
『冥王』の力で『六道輪廻』の復活までのラグ(60秒)を削り、即座にパワーアップして戻ってきた。
ローグを敵と認定した俺は『ミスト』も発動させ、転移阻害を行うと同時に『魔法除けの指輪』も砕いた。指輪を砕くのに使用したのは当然『冥王』の力だ。
「ふ、触れずにどうやって……」
「認識したモノを葬り去る。それが物体であれ概念であれ記憶というような形のないものであれ、俺が認識すればそれは消滅させることが出来る。俺が得たのはそういう力だ」
「……ッ!」
まあ、力は多く使うから普通に戦った方が省エネではあるんだけどな。
俺は『鑑定』の力を使い、魔除けの指輪を失ったローグの技を暴くことにする。
――なるほど。ローグの使用した技は『スティグマ』というらしい。
握手を交わした相手の身体に刻印を刻み、離れた場所にいても刻印を通じて魔法を掛けられるようにするスキルらしい。これを刻めば相手がどこにいようが一方的に魔法を使い、攻撃できるというわけだ。本来は支援向けの魔法だろうが、よく使うものだ。
しかし、戦力値120万の守りがある俺に、何のスキルを使用したんだ?
気になって更に調べた俺は、『オーラボム』というオリジナルのスキルに行き当たった。
これは、対象の魔力を火力に変換して爆発させるスキルか。
なるほど、俺本人ではなく俺の魔力を利用し、攻撃のダメージ自体も俺の魔力に依存していたわけだな。どうりで攻撃が通るわけだ。
なかなか賢い男だと褒めてやりたい。
だが、仕掛けが分かれば対策も可能だ。
俺は『カウンターボム』というスキルを作成した。
これは俺の魔力に何者かが干渉した場合、その干渉した者に『オーラボム』を炸裂させるスキルだ。発動のタイミングは相手の起爆前に調整したので、さっきみたいな無様な爆発はもうないだろう。
「『オーラボム』はもう使わない方がいいぞ。お前が爆発するだけになったからな」
「バケモノかよ。転移も封じられてるのか?」
「ついでに言うともう念話も通じないぞ」
「あああぁぁ! やっぱり死にたくねえ! もう死ぬのは御免だ! キクチ……! どっかで見てるんだろ! オレが悪かった! お前の子分になるから回収してくれ!」
「仲間がいるのか?」
『掌握』した方が良さそうだ。
「く、来るなぁ! オーラボム……!」
と、ローグが叫んだ瞬間、爆発が起こりローグは落下していった。
俺の発動させた『ミスト』を抜け、眼下の街へ落下していく。
『ミスト』は生物には有効だが、死体には通じない。
魔力量の差で身体が粉々になる程の爆発は起こらなかったが、それでも死は免れなかったようだ。
『蘇生』させて情報を奪うか?
地上へ降り立つ――が、ローグの死体が見当たらない。
あいつ、蘇生系のスキルは持ってなかったはずなんだがな。
キクチ……だったか。仲間がいるようなことを言っていた。
(逃がしたか……)
『気配探知』を行うが、大国の中心ともなれば人が多すぎて探しきれない。
(一度帰ってラリエにでも相談するか?)
「こんにちは、お姉さん」
と、考え事をしていると学ランの少年に話しかけられた。
黒髪の陰のありそうな子供だ。
「タイミング的にプレイヤーか。そう思ってますよね? 正解です」
「お前、クリュウの手先か?」
「ええ、違いますよ。あんな弱そうな奴に従ったりしませんし。僕はワタルさんに選ばれたプレイヤーです」
「随分とルールに変更があったようだな。いったい何人のプレイヤーが入ってきてるんだ。まあ、俺のせいなんだろうけどな」
「あはは、自覚があるなんて驚きです。僕の名前はキクチ・ユウタ。さっきのローグを回収した実行犯です」
悪びれもせずに言う奴だ。
「で、お前は俺の首を取りに来たのか?」
「いえ、別にそんな気はありませんよ。他のプレイヤーはやる気みたいですが、僕は神の座なんて興味ないんで。それよりも、王様になりたいなって思ってます」
「王様か。ラクシア帝国は止めといた方がいいぞ。これから滅ぶかもしれないからな」
「あはは、じゃあそうします。僕はブルームに行こうと思ってます。お姉さんとは敵対しないつもりなんで、このまま行かせてもらってもいいですか?」
「ローグの手綱を握っておくならな」
「分かりました。キクチパーティはお姉さんと敵対しないことを約束します。それでは」
言って、キクチの姿は影のように消えた。
『転移』とも違う、コピーを使って遠隔地から話してるような感じだったな。
全く、癖のあるプレイヤーばかりが入ってきてるらしい。
「タクマ様、身体と魔力は大丈夫?」
優しいローネシアが心配してくれる。
「どちらも問題はない。だけど、長居するには目立ち過ぎたな」
早くも帝国の騎士達が集まってきている。
往来の向こうから馬の嘶きのようなものが聞こえてきた。
『気配探知』を使うと、かなりの騎士が集まっているように感じる。
このまま帰ろうと思っていたが、せっかく集まってくれたんだ。
挨拶くらいしておくのがマナーだろうな。
帝国の守備隊が見えてきた。
騎兵が6000程はいるか。
この短期間でよく揃えたものだ。
傍らにローネシアを抱き、ストーンデーモンを隣に控えさせて出迎えることにする。
「よく来たな、帝国の騎士共。俺は魔神タトナス。この地上を支配せんとする魔神だ」
「魔神タトナス……。魔王とは異なる存在か。なぜ、王都の結界を消し去った!」
隊長格っぽいのが吠えてきた。
目ざとくストーンデーモンがいる理由に気づいたか。
まあ、あれだけ派手に結界を破壊してやれば気づくよな。
「言っただろう。俺はこの地上を支配すると。手始めにこの帝都を頂こうか」
「何ぃ……!」
うーん。調子に乗ってペラペラと話し過ぎてるかもな。
結界を破壊してこっそり帰るつもりが、ローネシアにいいところを見せようと思って頑張り過ぎている気がする。
迷ったが、俺はここらで一度退却することにした。
ジュリに攻めてもらってる間に要請を受けて勇者が出向く計画だ。
俺の目的はコマネシオンと帝国の繋がりを暴く為、帝国に侵入することである。
ここで帝都をぶっ潰しても何のメリットにもならないのだ。
俺は疲れている演技をした。
「……とはいえ、今日は力を使いすぎた。神の結界を破壊する為、溜め込んでいたエネルギーを使い果たしたからな。さらばだ諸君、またどこかで――」
「全員、突撃! 魔神は力を使い果たした! 今が討伐の好機ぞ!」
わあああー! と騎兵が突撃してくる。
あ、馬鹿、何を調子に乗ってるんだ。
焦った俺は指先から『魔弾』を飛ばしてしまった。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」
隊長らしき人物が盾で耐えている。
しかし、隊長は光に包まれて消滅した。
後続に控えていた騎兵達も消滅していき、後に残ったのは綺麗な更地だ。
騎士は一人も見当たらない。全滅だ……。
(……やってしまった。守備隊を全滅させてしまったぞ)
「さすがだわ。もう余力はないと言って油断させ、相手が攻めてきたところで一気に飲み込む。タトナス様は知略にも優れているのね!」
いや、誤解だ……。そう否定しようとしたが、目撃者達はローネシアの言葉を真に受けたようだった。
「悪魔だ……。魔王だってこんな非道な戦い方はしないぞ!」
「弱者に希望を見せて次の瞬間に叩き潰すなんて……」
「恥を知りなさい魔神! 私達は最期の一人になっても抗い続ける! あなたの行いを決して許さないわ!」
すげえ非難されてるな。
結界を壊しただけで誰も殺そうなんて思ってなかったのにな。
まあ、仕事は果たしたから十分だろう。
俺はローネシアとストーンデーモンを連れ、帝都から撤退していった。
あとの仕上げはジュリにお願いするつもりだ。
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これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
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