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87 ラクシアへ

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 商人らしい服装に着替えた俺は、単身ストーンデーモンの元へ転移した。
 役目を終えたストーンデーモンを待機状態にし、帝国の敷いた街道をノンビリと歩く。
 今回は結界破壊の為だけに来ているので独りだ。

(寂しいな)

 いつもは常に誰かが傍にいるし、今回に限ってはアクアスも持ってきていない。

 だが、来たのは無駄じゃなかった。
 ラクシア帝国はラムネアとはレベルが違うと感じる。

 平原は開拓され、街道がどこまでも続いて見える。
 いったい、どれ程の労力をかけて準備したのか。
 見たところ付近には魔物もいないようだ。
 ギルドか騎士を使って排除しているんだろうな。

 と、そのような所感を抱きつつ孤独に街道を歩いていると、遠目に馬車が迫ってくるのが見えた。

 まさか乗っているのはミイナではないだろうな。
 などと思いつつ避けると、馬車が停まって男が降りてきた。
 身なりのいい二十代の男だ。
 腰には高価そうな剣を提げている。

「そこの女、こんなところで何をしている」

 女ってどいつだ……。
 左右を見るが俺しかいない。
 ああ、そういえば『ペルソナ』で変装してるんだったな。

「俺か?」
「……なかなか風変わりだな。俺、などという女は見たことがない」
「口が悪くて悪かったな。あんたは誰だ」
「私はクレト侯爵だ。ブルーム国の王子との会談を終えて戻ってきたところだ」

 それは凄い偶然だな。
 俺にとっては迷惑なだけだが。
 片膝をつき、形ばかりの恭順の意を示す。

「私はラムネアから来た商人です。道中で積み荷を奪われ、今は一人になってしまいました」
「なるほどな。ご愁傷様だがままあることだ。それで、いったい何をしに帝国へ来たのだ」
「実は、奴隷商に弟を奪われまして。コマネシオンという男を探しに帝国へ来ました」

 予め考えておいた言い訳を使う。
 何か引っかかればと思ったが、クレトの反応は分かりやすいものだった。

「あいつか……。弟のことは運が悪かったと諦めるがいい」
「何かご存知なのですか?」
「知っているが、ただで教えるわけにはいかんな」
「お金でよければ……」
「そんなもの幾らでも手に入る。抱かせろ」
「は……?」

 まるでケダモノだ。
 初対面の女を抱くなど常識を疑うぞ。

「ここ数日、女を抱いてないのでな。貴様が身体を差し出すなら情報をやってもいい。交換条件だ」
「ならば断ります」

 男に抱かれる趣味はない。
 関わるのも面倒だと思い、侯爵を無視して歩き始める。
 しかし、クレトに俺を逃がす気はないようだった。

「多少手荒になるが、私が天国を見せてやろう。出てこい。女を捕えろ」

 馬車から近衛騎士らしい少女が一人出てきた。
 14歳くらいの美しい娘だ。
 特注の甲冑を装備しており、護衛の騎士をしているらしい。
 なんと彼女はツインテールをしていた。
 これは……いいものだな。

 久しぶりに鑑定をする。
 戦力値は――なるほど。レベル84の戦力値103。
 ダイババよりは劣るが、この世界なら最高レベルの相手だ。

 名前はローネシアというらしい。
 所持しているスキルは『ワルキューレ』。

 ……聞いたことのないスキルだ。

 俺は『冥王』の力をオフにして戦力値451で相手をすることにした。
 これは常時発動型の『冥王』を使わない場合の、素のステータスになる。

 久しぶりに生身で戦う感じがするな。
 俺は短剣を構える。

 しかし、ローネシアは動かなかった。

「あなた、逃げるか自害しなさい。この男に捕まるくらいだったら死んだ方がいい」
「おい、『禁則』で死にたいか。さっさと女を捕えろよ」
「うっ……」

 見ればローネシアの首には首輪が嵌められており、彼女はそれを押さえて苦しんでいるようだった。何らかの魔法だろうな。それも、ロクでもないタイプの。

「早く逃げて!」
「悪いが、逃げる気はない」
「だったら、この手で楽にしてあげる!」

 先に仕掛けてきたのはローネシアの方だった。

「や!」

 おお、思ったより速いな。
 ラクシア帝国の近衛騎士がどれくらいのものか見てやろう。

 俺は彼女の攻撃を全て短剣で捌き切る。
 キンキンキンと金属を打ち鳴らす音が響くが、俺は一歩も動いていない状態だ。

「慣れた頃だろう。こちらからも仕掛けるぞ」
「……くっ」

 前進しながら刺突を繰り出す。と言っても、当てる気のないものだ。
 近衛が後ずさるのを見たクレトは、俺の動きに目を見開いていた。

「本当にただの商人か!? おいローネシア! 『ワルキューレ』の使用を許可する! ただし殺すなよ!」
「くっ……」

 ローネシアの瞳が輝き、背中に光の翼が生えた。
 頭上には光の輪まで生まれている。

 俺は急いで戦力値を確認した。
 +50で戦力値153か。
 トワやストーンデーモンが150だから、かなりの強化値だ。

 しかし、地獄をモチーフにしたカルマオンラインで天使型モンスターなんか見たことないんだけどな。どういう系統の力なんだ。

「やぁぁぁぁ……!」

 ローネシアが飛翔する。
 勢いよく向かってくるが、羽虫の特攻程度の力しか感じられない。

 『ワルキューレ』を発動させたローネシアの剣を、俺は片手で掴んだ。
 そして――『ヒュプノス』を発動。
 ローネシアを催眠状態にする。

 剣を構えたまま固まった近衛に、クレトは表情を失くした。

「ロ、ローネシア! 動け! 私を守れ!」
「うるさい男だな。大人しくしろ。素直に情報を引き渡せば何もしないと約束する」
「信じられるか! 起きろローネシア! 俺を守らないか!」
「もういい。お前は寝てろ」

 俺は話の通じそうにないクレトを眠らせ、反対にローネシアを起こした。
 ついでに邪魔が入らないよう『冥王』を発動した上で『時間停止』も使用する。
 瞬間、世界が灰色に静止した。

「え……。なんで世界が灰色に……」
「ここは停止した時の世界だ。俺の力で生み出した空間だ」
「ひっ」

 異常事態にローネシアが怯えている。

「驚くのも無理はないが、話がしたいだけなんだ。剣は持ったままでいいから、話をしてくれないか?」

 なるべく穏やかに話しかけたつもりだが、ローネシアは剣を落としてしまった。

「私が剣を持っていても、何の脅威にも感じない。そういうことなのね」
「まあ、言ってしまえばそういうことになるな」
「……これ以上の抵抗は無意味だと判断するわ」
「それが正しい判断だろうな。情報をくれたら大人しく帰る。……いや、すまない嘘をついた。俺は帝国の結界を破壊してから帰るつもりだった」
「……神は商人の恰好で現れるのね」

 俺は神などではないが。

 『時間停止』を発動させている間、俺は120万の戦力値のリソースを全て『時間停止』に割り当てることになる。残された俺の戦力値は『冥王』を得る前のもので、そこに俺は自分の限界を感じ取っている。

 言うほど万能ではないということだ。

 本物の神であれば椅子に座したまま森羅万象を操るのだろうが、俺にはそこまでの力はない。せいぜい、創造神の高みを夢想する程度だ。 

 まあ、神だと思うならそう思わせておけばいい。
 さて、まずはコマネシオンの情報を収集するか。
 クレトも何か知ってる風だったしな。

「聞かせてくれないか。コマネシオンはこの国でどういう立ち位置の奴なんだ?」
「宮廷魔術師よ。それもただの宮廷魔術師じゃない。筆頭と呼ばれるくらい優秀で、ここ数年で一気に頭角を現してきたの」
「魔術師? 商人じゃないのか?」
「開発したアイテムを魔術ギルドで売ってるけど、本職は魔術師よ。私も彼の計画で作られたの。『戦姫計画』っていう、凍結された計画でね。胎児だった頃から特殊な処置をされて、戦闘用に調整されたのよ」
「非人道的だな。凍結されて当然だ」

 俺の言葉にローネシアは微笑した。

「違うわ。私の計画が凍結されたのはたんに採算が合わないから。帝国は狂った技術の巣窟よ」
「ローネシアは母国が嫌いなんだな」
「大嫌い。あそこに戻るくらいなら死んだ方がマシ。毎日咥えたくもないペニスを口に捻じ込まれて、手で奉仕させられてるのよ。禁則があるからセックスはできないけど、そういう性処理には使われる。辛いわ」

 ……許せない。ローネシアのような美しい娘に何て非道なことを……。

「その禁則、俺が壊してやろうか」
「えっ?」

 俺は『ペルソナ』を解いた。男の姿の俺を見たローネシアが慄く。

「タクマ・レオ・クライ・フォン・アルバトロム。それが、俺の本当の名だ」
「ウソ……。聞いたことがある。魔王ジュリを退けた真の勇者様……。奴隷制度を破壊し、国王の暗殺を防ぎ、十人以上の美少女に囲まれた真の英雄……。本物なの……? か、かっこいい」
「俺がカッコいいのか?」

 気を良くした俺は聖剣とアクアスを手元に召喚する。

「わ、すご……」

 驚いてくれて可愛いな。

「お前の禁則も、辛かった奉仕の過去も、俺の力なら消せる。どうだ? 信じてみないか?」
「信じたら、何か変わるの?」
「そうだ。俺と一緒に来い」
「……うん。信じてみようかな。タクマ様って呼んでいい?」
「構わないが、敬語は不要だぞ。子供に気を遣わせたくないからな」
「ん、タクマ様がそう言うなら甘える」

 俺は彼女の頭に触れた。
 そして、『掌握』のスキルで彼女の記憶を見た。
 なるほど。クレトは朝と夜に嫌がるローネシアにフェラをさせていたらしい。
 二人きりになると手コキをさせることもあり、ローネシアにとっては苦痛の時間だったようだ。

「もう大丈夫だからな。時の流れを戻すが、ローネシアは俺の後ろに隠れてろ。クレトとは俺が話をつけてやる」
「お願い。タクマ様だけが頼りだから」

 頷いて、時の流れを戻す――

「あ、貴様は誰だ!? どういうことだ! なぜローネシアが……!」
「まずは、ローネシアが男と関係を持ったという過去を消してやろう」

 『冥王』の力が発動し、その権能によってローネシアの苦痛の過去が冥府に葬られる。記憶には残るが、事実は消滅した。

「あ、口の中がスッとした」
「今朝の奉仕の事実も消えたからな。ローネシアの身体は綺麗になった。望むなら記憶の方も消せるぞ」
「タクマ様、すごすぎ」
「続いて禁則も消そう」

 ローネシアを縛っているのは黒い首輪だ。近くで見るとそれが魔力によって練られたものだと分かる。
 俺はローネシアの首に触れる。パキン、と何かが割れるような音がして、彼女の首輪は粉々に消し飛んだ。

「ば、馬鹿な……。無理に外そうとすればローネシアを殺すはずなのに」

 ……屑が。そんなものが『冥王』の力に通じるか。
 能力ごと殺せばただの首輪に過ぎない。

「タクマ様……? 私、首がスッキリして……」
「お前を縛ってきた首輪は消えたぞ。これでローネシアは自由だ」
「……まだ実感がない。けど、ありがとう。好き」

 ローネシアが俺に抱きつき、つま先立ちをして頬にキスをしてくれた。
 それを見たクレトが激怒している

「お前ぇぇぇ! ローネシアは私の女だぞ! 今すぐに解放しろ!」
「馬鹿なのか? 今、解放したばかりだろうが」
「禁則で逆らえないの知ってて奉仕させるとか最低だし……。ホントに嫌だった。私、もうタクマ様といるから近寄らないで。……タクマ様、私もタクマ様の女にしてくれる? まだ小さいけど、一生懸命奉仕するから」

 女はもう増やさないつもりだったんだけどな……。
 仕方ない、これで最後にしておこう。

「分かった。俺もローネシアのことは好きだ。キスするぞ」
「ん……いっぱいチュウして」

 許可が下りたので、俺はローネシアを抱き上げた。

「きゃっ……。あむ……んー……じゅるる……ちゅ……」
「私の天使から離れろぉぉぉ!」

 再度『時間停止』を行い、クレトの頭以外の時を止める。

「な、身体が動かん……!」
「お前はそこで大人しく見ていろ。ペットにしていた天使が女になる瞬間をな」
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