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74 黒き月
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今更だが、俺は後悔し始めていた。こんなに危険を冒してまで信仰値を取りに行く必要があったのだろうか? 100万という信仰値に惹かれて受けてしまったが、力を欲すれば何十回以上も綱渡りをすることになるかもしれない。
「……いや、もう決めたことだ」
俺は屋敷に戻り女達の顔を見て回った。
申し訳ないが、これから外道神と戦いに行くということは誰にも共有できなかった。
ただ、いつも通りに過ごす女達を見て、「ここに帰ってきたい」という思いを強くする。そして、あっという間に時間が来て、俺は神々が住むという至高天にあるビルの最上階へ転移させられた。
外の夜景が見渡せる、窓一面がガラス張りにされた展望台のような一室だ。
最上階から見渡せる風景は、どこか日本を思い起こさせるビル群だった。
部屋には二人の男と、ラリエシャドーの姿がある。
今日のラリエシャドーは人間の脚だ。
蒼いドレス姿で俺がくるのを待っていた。
同じ部屋にいたフォーマルな黒服を着た二人が、同時に俺を見る。
片方は厳つい雰囲気の三十代の男で、極道っぽい凄味がある。
もう片方はホストでもしてそうな優男で、ヘラヘラと笑いながら挨拶をしてきた。
「こんにちは、人間の坊や。道に迷ってこんなところまで来ちゃったのかな?」
「あんたは誰だ?」
「あんた……へぇ。喧嘩売ってんのかな? 破壊神、序列第二位のクサカベ・ワタルに対して、無礼だと思わない?」
「……やめろ。こんなところで能力を使うなら、俺も力を使う」
二人の男が睨みあう。
「やぼったくてごめんねー。序列第一位のフジタ・ジンと、クサカベ・ワタルだよ。この二人はタクマがミスっちゃった時の代打ね?」
「……ラリエ様、今回ばかりは俺も疑問に思ってるんですが、そいつは使えるんですか?」
鋭くジンに睨まれる。
全身が泡立つような気迫を感じた。
この人には、今の俺じゃ手も足も出ないだろうな。
「俺の強さは分かるようだが、こいつは外道神とやらせるにはまだ若い。今からでも俺かワタルにやらせた方が賢明じゃないですか?」
「そうですよ。この僕が、ワタルの代わりに仕留めてきます。魔神程度に止められる程、敵は甘くないんだよ」
「もう決めちゃったから、グダグダ言わないでもらえるかなー」
「しかしだな……」
「私の言うとおりにしてくれない? 二人は何かあった時のサポート役。メインはタクマ。もう決めたことだから」
取り付く島もない。
「ま、行くからには勝ってきてね。ラリエ様の顔に泥は塗るなよ」
泥を塗るなだと? 思わず失笑が漏れる。
「好き放題に女に催眠かけて泥を塗ってるのはお前じゃないのか? ラリエ当人がこないのもお前が信用できないからだろ」
「何!?」
「タクマの言葉には一理ある。お前が手を出す度、時間を巻き戻すラリエ様の身にもなってみろ。いつまで尻拭いをしてもらってんだ。ガキじゃないんだぞ」
ジンが加勢してくれた。
ワタルは子供っぽい歯ぎしりをしている。
強いとは思うが、精神性が屑だな。
「う……。お前のせいだからな、タクマ」
「責任転嫁も甚だしいよねー。ま、私が本体で出張らないのはタクマ以外に触れて欲しくないからだけどっ」
「こんなガキがいいんですか!?」
ワタルがムキになって俺に指を指す。
掴んで圧し折ってやりたかったが、『唯我独尊』の発動時間は十三分がせいぜいだ。こんなところでは使えない。
「タクマは大物の魂だから。馬鹿にしない方がいいよ」
「冗談ですよね。だってこいつ、前世の記憶もないって聞いてますよ。たまたま大きい器もって生まれただけのガキだって」
「偶然か必然かはこれから分かるよ。タクマ、頑張ってね」
思わせぶりなことを言うラリエだ。
大方ブラフだろうが。
「……タクマ、ヤバいと思ったら逃げて俺と交代しろ。外道神相手に死んでも生き返るから平気……なんてヌルいやり方してたらすぐに消されるぞ。連中にやられたら復活はないと思え」
ジンに頷いておく。
貴重なアドバイスだな。
「それじゃ、もう時間だから。座標に送るね? 足場がないからまずは滞空して敵を見つけるように。暴れ出す前に始末してね」
「分かった」
と、返事をした直後、俺の身体は夜空にあった。
なかなか容赦なく転移してくれる。
俺は敵の姿を探した。が、空には黒い月があるだけだ。
『気配探知』で敵を探るが、特にそれらしいモノは――ん?
あの黒い天体、徐々に落下してないか?
まさか、あの規模なのか――!?
ラリエに聞こうにも念話が届かなくなっている。
仕方なく俺は聖剣と霊剣の二刀流で構えた。
そして、天体に向かって『加速』しつつ飛翔していく。
『唯我独尊』も使用し、グングンと天体に近づいていく。
射程範囲に入った俺は、全力の斬撃を放った。
ダークムーンとでも呼ぶべき威容は、俺の斬撃を受けると僅かに亀裂が入った。
(ダメージは通ってるが……)
俺には生憎と時間がない。
亀裂めがけて『神竜斬・弐式』をお見舞いした。
二つの刀身の中心から狂ったような白い閃光が放たれ、視界を白く塗り潰す……。
はたして、黒月は大きく亀裂を入れられて空へと押し返されていった。
「はぁ……はぁ。殺さなくても点数になるのか?」
分からないが、撃退はできそうだ。
そう、気が緩んだ瞬間の出来事だった。
亀裂の奥から無数の触手が飛び出し、避ける間もなく俺の身体を束縛した。
最近『硬化粘液』でトワを縛ったばかりだが、まさか俺が同じ目に遭うとは。
「神竜斬!」
拘束を解き放つ為に技を放つ。
触手の一部が消滅し、振り解かれる。
しかし、直後に天体の一点に魔力が集中し、強烈な熱量を持つ閃光が放たれた。
避けることもできたが、地上に直撃すれば大きな被害が出る。
俺は右手のアクアスで弾き返してやった。
跳ね返されたビームが黒月に命中し、そのまま穿たれた。
かなりダメージが入ってるみたいだな。
耐久力が落ちてきている。
しかし、俺に残された時間も僅かだ。
もってあと四分ってところか?
『争いはヤメマショウ』
念話が来た……。何言ってやがる。
『自分のことばかり考えてはいけません』
頭痛がしてきた。精神汚染っぽい攻撃だ。
これ以上聞きたくないと思い、触手が放たれた亀裂に斬撃を与え、至近距離で神竜斬を放つことにする。
「どうして攻撃するの? 私達は対話がしたいだけなのに」
亀裂の奥にあるのは触手に覆われた巨大な男の顔だ。
そいつが、俺に語り掛けてくる。
「対話の為に、同化したいだけなんだ。寂しいから、一緒にいたいだけなんだ。どうして、攻撃するの?」
同化、触手、取り込む。
目を見れば分かる。
ようするに、神を食らって餌にしたいだけだ。
こいつらの言う対話は、俺達の言う対話とは違う。
「セックスを覚えてから出直せ……!」
今まで貴重な女神がどれだけ犠牲になったか……。
俺は怒りと共に最大出力の神竜斬を放ち、黒い天体を粉々に消し飛ばした。
「セックス――」と消える間際に天体が呟いていたのが気になった。
女体化して出てきたら、今度はセックスをしながら話を聞いてやるよ。
俺は剣を仕舞い、喝采を上げるラリエの元に帰還した。
「……いや、もう決めたことだ」
俺は屋敷に戻り女達の顔を見て回った。
申し訳ないが、これから外道神と戦いに行くということは誰にも共有できなかった。
ただ、いつも通りに過ごす女達を見て、「ここに帰ってきたい」という思いを強くする。そして、あっという間に時間が来て、俺は神々が住むという至高天にあるビルの最上階へ転移させられた。
外の夜景が見渡せる、窓一面がガラス張りにされた展望台のような一室だ。
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部屋には二人の男と、ラリエシャドーの姿がある。
今日のラリエシャドーは人間の脚だ。
蒼いドレス姿で俺がくるのを待っていた。
同じ部屋にいたフォーマルな黒服を着た二人が、同時に俺を見る。
片方は厳つい雰囲気の三十代の男で、極道っぽい凄味がある。
もう片方はホストでもしてそうな優男で、ヘラヘラと笑いながら挨拶をしてきた。
「こんにちは、人間の坊や。道に迷ってこんなところまで来ちゃったのかな?」
「あんたは誰だ?」
「あんた……へぇ。喧嘩売ってんのかな? 破壊神、序列第二位のクサカベ・ワタルに対して、無礼だと思わない?」
「……やめろ。こんなところで能力を使うなら、俺も力を使う」
二人の男が睨みあう。
「やぼったくてごめんねー。序列第一位のフジタ・ジンと、クサカベ・ワタルだよ。この二人はタクマがミスっちゃった時の代打ね?」
「……ラリエ様、今回ばかりは俺も疑問に思ってるんですが、そいつは使えるんですか?」
鋭くジンに睨まれる。
全身が泡立つような気迫を感じた。
この人には、今の俺じゃ手も足も出ないだろうな。
「俺の強さは分かるようだが、こいつは外道神とやらせるにはまだ若い。今からでも俺かワタルにやらせた方が賢明じゃないですか?」
「そうですよ。この僕が、ワタルの代わりに仕留めてきます。魔神程度に止められる程、敵は甘くないんだよ」
「もう決めちゃったから、グダグダ言わないでもらえるかなー」
「しかしだな……」
「私の言うとおりにしてくれない? 二人は何かあった時のサポート役。メインはタクマ。もう決めたことだから」
取り付く島もない。
「ま、行くからには勝ってきてね。ラリエ様の顔に泥は塗るなよ」
泥を塗るなだと? 思わず失笑が漏れる。
「好き放題に女に催眠かけて泥を塗ってるのはお前じゃないのか? ラリエ当人がこないのもお前が信用できないからだろ」
「何!?」
「タクマの言葉には一理ある。お前が手を出す度、時間を巻き戻すラリエ様の身にもなってみろ。いつまで尻拭いをしてもらってんだ。ガキじゃないんだぞ」
ジンが加勢してくれた。
ワタルは子供っぽい歯ぎしりをしている。
強いとは思うが、精神性が屑だな。
「う……。お前のせいだからな、タクマ」
「責任転嫁も甚だしいよねー。ま、私が本体で出張らないのはタクマ以外に触れて欲しくないからだけどっ」
「こんなガキがいいんですか!?」
ワタルがムキになって俺に指を指す。
掴んで圧し折ってやりたかったが、『唯我独尊』の発動時間は十三分がせいぜいだ。こんなところでは使えない。
「タクマは大物の魂だから。馬鹿にしない方がいいよ」
「冗談ですよね。だってこいつ、前世の記憶もないって聞いてますよ。たまたま大きい器もって生まれただけのガキだって」
「偶然か必然かはこれから分かるよ。タクマ、頑張ってね」
思わせぶりなことを言うラリエだ。
大方ブラフだろうが。
「……タクマ、ヤバいと思ったら逃げて俺と交代しろ。外道神相手に死んでも生き返るから平気……なんてヌルいやり方してたらすぐに消されるぞ。連中にやられたら復活はないと思え」
ジンに頷いておく。
貴重なアドバイスだな。
「それじゃ、もう時間だから。座標に送るね? 足場がないからまずは滞空して敵を見つけるように。暴れ出す前に始末してね」
「分かった」
と、返事をした直後、俺の身体は夜空にあった。
なかなか容赦なく転移してくれる。
俺は敵の姿を探した。が、空には黒い月があるだけだ。
『気配探知』で敵を探るが、特にそれらしいモノは――ん?
あの黒い天体、徐々に落下してないか?
まさか、あの規模なのか――!?
ラリエに聞こうにも念話が届かなくなっている。
仕方なく俺は聖剣と霊剣の二刀流で構えた。
そして、天体に向かって『加速』しつつ飛翔していく。
『唯我独尊』も使用し、グングンと天体に近づいていく。
射程範囲に入った俺は、全力の斬撃を放った。
ダークムーンとでも呼ぶべき威容は、俺の斬撃を受けると僅かに亀裂が入った。
(ダメージは通ってるが……)
俺には生憎と時間がない。
亀裂めがけて『神竜斬・弐式』をお見舞いした。
二つの刀身の中心から狂ったような白い閃光が放たれ、視界を白く塗り潰す……。
はたして、黒月は大きく亀裂を入れられて空へと押し返されていった。
「はぁ……はぁ。殺さなくても点数になるのか?」
分からないが、撃退はできそうだ。
そう、気が緩んだ瞬間の出来事だった。
亀裂の奥から無数の触手が飛び出し、避ける間もなく俺の身体を束縛した。
最近『硬化粘液』でトワを縛ったばかりだが、まさか俺が同じ目に遭うとは。
「神竜斬!」
拘束を解き放つ為に技を放つ。
触手の一部が消滅し、振り解かれる。
しかし、直後に天体の一点に魔力が集中し、強烈な熱量を持つ閃光が放たれた。
避けることもできたが、地上に直撃すれば大きな被害が出る。
俺は右手のアクアスで弾き返してやった。
跳ね返されたビームが黒月に命中し、そのまま穿たれた。
かなりダメージが入ってるみたいだな。
耐久力が落ちてきている。
しかし、俺に残された時間も僅かだ。
もってあと四分ってところか?
『争いはヤメマショウ』
念話が来た……。何言ってやがる。
『自分のことばかり考えてはいけません』
頭痛がしてきた。精神汚染っぽい攻撃だ。
これ以上聞きたくないと思い、触手が放たれた亀裂に斬撃を与え、至近距離で神竜斬を放つことにする。
「どうして攻撃するの? 私達は対話がしたいだけなのに」
亀裂の奥にあるのは触手に覆われた巨大な男の顔だ。
そいつが、俺に語り掛けてくる。
「対話の為に、同化したいだけなんだ。寂しいから、一緒にいたいだけなんだ。どうして、攻撃するの?」
同化、触手、取り込む。
目を見れば分かる。
ようするに、神を食らって餌にしたいだけだ。
こいつらの言う対話は、俺達の言う対話とは違う。
「セックスを覚えてから出直せ……!」
今まで貴重な女神がどれだけ犠牲になったか……。
俺は怒りと共に最大出力の神竜斬を放ち、黒い天体を粉々に消し飛ばした。
「セックス――」と消える間際に天体が呟いていたのが気になった。
女体化して出てきたら、今度はセックスをしながら話を聞いてやるよ。
俺は剣を仕舞い、喝采を上げるラリエの元に帰還した。
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