大事に育てた畑を奪われたからこの村は見捨てることにした ~今さら許しを乞うても無駄なんだよ~(完)

みかん畑

文字の大きさ
上 下
67 / 118

67 管理神

しおりを挟む
 ――タクマ。ねえタクマ。
 聞こえてる? ねえ聞こえてるの?
 私は管理神だよ。タクマ! 起きて! 聞こえてる?
 タク――

「うるさ……!」

 耳元で粘着されていたので起きてしまった。

 目覚めると、俺は海の上にプカプカ浮いていた。

 な……なんだこの状況。

「おっはよーーーーーー! 私はラリエだよ! 海って気持ちいいね! ねえ今どんな気持ち? 突然海にいてどんな気持ち!?」
「え……うざ」

 ラリエと名乗ったのは人魚の少女だった。
 金色の髪と青い瞳が俺を覗き込んでる。

 ――スキル、『人魚モード』をプレゼントされました。良かったですね。

 いや別に嬉しくねーよ。

 と思いつつ人魚モードを実行したら尾ひれで浮けるようになった。
 ああ、これは楽かもな。

 プカプカと波に浮いて辺りを見回す。
 遠くに南国っぽいビーチが見えた。
 その向こうには白い街並みが見える。

「ここは何なんだ? というか、あんたは何なんだ?」
「ここはブルーム国のビーチだよ! そんなことも知らないの? 元廃人プレーヤーなのに!?」
「…………」
「あだだだ! 女子に暴力振るうとかサイテー!」
「頬っぺたをマッサージしてるだけだ。で、お前なんなの?」

 俺に気取られることなく転移を実行した手際。
 まあ、褒めてやってもいい。

「私は管理神ラリエの分身、ラリエシャドーだね」

 神はこの世界に干渉できないはずじゃ――
 ああ、それでコピーを送り込んで来たということか。

「それで、何をしに来たんだ。俺を始末する手伝いか?」
「いえいえ、お仕事の勧誘に来ただけです」

 冗談めかしてラリエが言う。
 俺に仕事だと……?

「ね、タクマも破壊神のお仕事手伝ってみない?」
「あの外道神を退治するって奴か。しかし、俺は反逆者だ。あんたらの敵になるんじゃないか?」
「べっつにぃー?」

 ラリエが小首を傾げてる。

「すんごい迷惑行為してるだけで、べっつにぃーって感じかなぁー。私的にはタクマの言い分も分かるしねー。なんてゆーか、皆が心のどこかでは分かってたグレー行為みたいな? 星杯ちゃんを犠牲にしてる楽園っていうのも、分かる話ではあるんだよね」
「実際、なんとかできないもんなのか。この世界だとジュリになるが、あまりに魔王が可哀想だ」
「だけど破壊神が天国からエネルギー補給を受けてようやく外道神と互角だからさ。破壊神の平均戦力値って10300なんだけど、内10000は天国からくるエネルギー補給なワケ。外道神は大体10000くらいの戦力値は持ってるから、ちょっと簡単には今の仕組み崩せないよねー。タクマみたいなチートスキルがあれば別だけど、チートスキル操れるのなんて破壊神の中でも上位十三人くらいだしさ」
「なら星杯の意思を消さないとか、そういうアプローチはなかったのか?」
「星杯は女の子タイプしか生産に成功してないんだけど、意思を残したままだと、勇者に倒されたあとにそのままレイプされる事案とかあってさ。散々煮え湯を飲まされた相手だし……ってことなんだろうけど、ある意味、意識を消してやるのが慈悲みたいな」
「分かった。また相談に乗って欲しい」

 簡単に解決できる問題ではないようだな。

 それと、外道神は10000か。
 唯我独尊で+5して勝利を狙うパターンだが、かなりキツイ戦いになりそうだな。

「相談に乗るのは全然いいよ。タクマと話すの楽しいし。あ、ちなみに、破壊神の仕事を手伝うと信仰値が一回あたり100万入ってくるよ」
「大きい報酬だな。まあ、相手の強さを考えれば妥当か」
「仕事があるときは1時間前に教えるね?」
「かなり直前なんだな」
「私は未来視ができるけど、未来が確定するのが一時間前なの」

 ラリエは気持ちよさそうに波に揺らいでいる。

「他に聞きたいこととかある?」
「どういう場所で戦うことになるんだ?」
「えーとねー、まず大きな円があって、その外側にも大きな円がある。この辺りまで来たら撃退する流れかな。足場がないから空中戦になると思うよ」

 大雑把に説明された。

「適当かよ」
「一応、私達がいる円の中が至高天。創造神様が開かれた守護領域になるの。外道神がいる領域は流天っていう外域で、そっちは創造神様の管理外になる。至高天と流天の狭間に敵が来たら、ぶち殺すぞー! って破壊神の誰かが撃退に行くんだー。で、その破壊神が万が一、負けたら序列に沿って上の破壊神が出たりするわけ。どの破壊神を選出するかは区域ごとに担当した管理神が決めてて、うまく迎撃したら管理神もポイントがもらえて、失敗して破壊神が負けたりしたら、かなりの信仰値をマイナスされちゃうね。意図的に破壊神を死なせたりしたら重い処分を食らうこともあるんだよ?」
「あんた達も苦労してるんだな」
「そうだよー。だからタクマみたいな将来性のある破壊神を、私は見捨てたりしないよ? これからもよろしくね? もし頑張ってくれたら、私の処女をあげちゃうかも。キャ!」

 ラリエがふざけて抱きついてきた。

 こういうふざけて匂わせてくる奴に限って、身持ちが固かったりするんだよな。
 自分の身体を餌に男を操るタイプだろう。

「私さ、自分の将来のパートナーとか分かっちゃうんだ。だから、簡単に身体は許さないの。いい人だなーって思ったら例え一億年でも待つタイプ。ずっと、待ってたんだよ? タクマがくるの」

 ラリエの瞳が爛々と輝き、俺は鳥肌が立った。
 初めてだ。「捕食される側」の感覚を味わったのは……。

「どんどん外道神を倒して、どんどん強いスキルを手に入れてね。クリュウなんか眼中になくていいんだから、私との未来を見ててね」

 甘い毒のような言葉を吐いて、ラリエは俺の頬に口づけをすると泡と消えた。

 頬を撫でてから、転移を使って屋敷へ戻ることにした。
 ひと泳ぎしたい気分だったが、何となく早く皆の顔が見たかった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...