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67 管理神

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 ――タクマ。ねえタクマ。
 聞こえてる? ねえ聞こえてるの?
 私は管理神だよ。タクマ! 起きて! 聞こえてる?
 タク――

「うるさ……!」

 耳元で粘着されていたので起きてしまった。

 目覚めると、俺は海の上にプカプカ浮いていた。

 な……なんだこの状況。

「おっはよーーーーーー! 私はラリエだよ! 海って気持ちいいね! ねえ今どんな気持ち? 突然海にいてどんな気持ち!?」
「え……うざ」

 ラリエと名乗ったのは人魚の少女だった。
 金色の髪と青い瞳が俺を覗き込んでる。

 ――スキル、『人魚モード』をプレゼントされました。良かったですね。

 いや別に嬉しくねーよ。

 と思いつつ人魚モードを実行したら尾ひれで浮けるようになった。
 ああ、これは楽かもな。

 プカプカと波に浮いて辺りを見回す。
 遠くに南国っぽいビーチが見えた。
 その向こうには白い街並みが見える。

「ここは何なんだ? というか、あんたは何なんだ?」
「ここはブルーム国のビーチだよ! そんなことも知らないの? 元廃人プレーヤーなのに!?」
「…………」
「あだだだ! 女子に暴力振るうとかサイテー!」
「頬っぺたをマッサージしてるだけだ。で、お前なんなの?」

 俺に気取られることなく転移を実行した手際。
 まあ、褒めてやってもいい。

「私は管理神ラリエの分身、ラリエシャドーだね」

 神はこの世界に干渉できないはずじゃ――
 ああ、それでコピーを送り込んで来たということか。

「それで、何をしに来たんだ。俺を始末する手伝いか?」
「いえいえ、お仕事の勧誘に来ただけです」

 冗談めかしてラリエが言う。
 俺に仕事だと……?

「ね、タクマも破壊神のお仕事手伝ってみない?」
「あの外道神を退治するって奴か。しかし、俺は反逆者だ。あんたらの敵になるんじゃないか?」
「べっつにぃー?」

 ラリエが小首を傾げてる。

「すんごい迷惑行為してるだけで、べっつにぃーって感じかなぁー。私的にはタクマの言い分も分かるしねー。なんてゆーか、皆が心のどこかでは分かってたグレー行為みたいな? 星杯ちゃんを犠牲にしてる楽園っていうのも、分かる話ではあるんだよね」
「実際、なんとかできないもんなのか。この世界だとジュリになるが、あまりに魔王が可哀想だ」
「だけど破壊神が天国からエネルギー補給を受けてようやく外道神と互角だからさ。破壊神の平均戦力値って10300なんだけど、内10000は天国からくるエネルギー補給なワケ。外道神は大体10000くらいの戦力値は持ってるから、ちょっと簡単には今の仕組み崩せないよねー。タクマみたいなチートスキルがあれば別だけど、チートスキル操れるのなんて破壊神の中でも上位十三人くらいだしさ」
「なら星杯の意思を消さないとか、そういうアプローチはなかったのか?」
「星杯は女の子タイプしか生産に成功してないんだけど、意思を残したままだと、勇者に倒されたあとにそのままレイプされる事案とかあってさ。散々煮え湯を飲まされた相手だし……ってことなんだろうけど、ある意味、意識を消してやるのが慈悲みたいな」
「分かった。また相談に乗って欲しい」

 簡単に解決できる問題ではないようだな。

 それと、外道神は10000か。
 唯我独尊で+5して勝利を狙うパターンだが、かなりキツイ戦いになりそうだな。

「相談に乗るのは全然いいよ。タクマと話すの楽しいし。あ、ちなみに、破壊神の仕事を手伝うと信仰値が一回あたり100万入ってくるよ」
「大きい報酬だな。まあ、相手の強さを考えれば妥当か」
「仕事があるときは1時間前に教えるね?」
「かなり直前なんだな」
「私は未来視ができるけど、未来が確定するのが一時間前なの」

 ラリエは気持ちよさそうに波に揺らいでいる。

「他に聞きたいこととかある?」
「どういう場所で戦うことになるんだ?」
「えーとねー、まず大きな円があって、その外側にも大きな円がある。この辺りまで来たら撃退する流れかな。足場がないから空中戦になると思うよ」

 大雑把に説明された。

「適当かよ」
「一応、私達がいる円の中が至高天。創造神様が開かれた守護領域になるの。外道神がいる領域は流天っていう外域で、そっちは創造神様の管理外になる。至高天と流天の狭間に敵が来たら、ぶち殺すぞー! って破壊神の誰かが撃退に行くんだー。で、その破壊神が万が一、負けたら序列に沿って上の破壊神が出たりするわけ。どの破壊神を選出するかは区域ごとに担当した管理神が決めてて、うまく迎撃したら管理神もポイントがもらえて、失敗して破壊神が負けたりしたら、かなりの信仰値をマイナスされちゃうね。意図的に破壊神を死なせたりしたら重い処分を食らうこともあるんだよ?」
「あんた達も苦労してるんだな」
「そうだよー。だからタクマみたいな将来性のある破壊神を、私は見捨てたりしないよ? これからもよろしくね? もし頑張ってくれたら、私の処女をあげちゃうかも。キャ!」

 ラリエがふざけて抱きついてきた。

 こういうふざけて匂わせてくる奴に限って、身持ちが固かったりするんだよな。
 自分の身体を餌に男を操るタイプだろう。

「私さ、自分の将来のパートナーとか分かっちゃうんだ。だから、簡単に身体は許さないの。いい人だなーって思ったら例え一億年でも待つタイプ。ずっと、待ってたんだよ? タクマがくるの」

 ラリエの瞳が爛々と輝き、俺は鳥肌が立った。
 初めてだ。「捕食される側」の感覚を味わったのは……。

「どんどん外道神を倒して、どんどん強いスキルを手に入れてね。クリュウなんか眼中になくていいんだから、私との未来を見ててね」

 甘い毒のような言葉を吐いて、ラリエは俺の頬に口づけをすると泡と消えた。

 頬を撫でてから、転移を使って屋敷へ戻ることにした。
 ひと泳ぎしたい気分だったが、何となく早く皆の顔が見たかった。
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