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62 魔神覚醒

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「タクマ! 殺す!」
「ありゃ失敗作やなー」

 アークデーモン。
 レベル253。
 戦力値272。
 魔王軍に勧誘できるくらいのステータスだ。

 大当たりじゃないか?
 そう思ったが、彼女の所見は違ったらしい。

「メタ的な話やけど、この世界で戦力値が300超えすると魔神の領域に至れるねん。せやけど、この世界に生まれ落ちた瞬間に、例外なく才能としてのレベルキャップを持たされるんや。これはよっぽど努力せんと壊せん壁やな。せやけどこいつらはマグマシードっちゅうマジックアイテムに頼った強化で天井を壊して魔物になってもうた。大失敗や。神性っちゅうのは人間性の発露や。こいつらはどんだけ強くても魔神に至れん。こんな半端な進化の為に人間辞めたんならアホ過ぎるわ」
「辛らつだな」
「お前ら話してる場合かよ!」

 『唯我独尊』を使い、アルニスの攻撃をガードする。

 しかし、スキルが不発だったのかガードが半端に崩された。

「はぁ……はぁ……。なんでこんなに疲れてるんだ」
「神クラスのスキル使ってたらそら疲れるやろ。多分、今のあんちゃんやと数分程度が限界やないかな。鍛えれば十分くらいはいけるかも知れへんけど」
「いや、そういう大事なことは先に――」

 と抗議してる間に、俺は胸を貫かれた。

「タクマ様……ッ!?」
「おいタクマ!」

『旦那様……ッ!!!』

 俺は、死んだのか? しかし、そうならスキルが発動してるはずだが――

 得体の知れない感覚だ。
 身体が何処かへ落ちていく。
 これは――?

 気がつくと、俺は光に溢れた道を歩いていた。
 太陽もないのに空が輝き、足元は薄い雲に覆われている。
 何故か歩かなければならないという思いがあるが、苦痛はない。

「綺麗な世界だな……」

 歩いて行く。ただひたすらに、歩いて行く。

 そして、次に気がつくと俺は激しい戦乱が続く道を歩いていた。怒りや苦しみ、嘆きといった感情が伝わってくる血塗られた道だった。

「どうしてこんな場所に来てしまったんだ?」

 虚しさを覚える。だが、俺は歩き続けなければならない。
 その道が地獄へ続いていようとも。

 そしてまた景色が変わり、今度は荒れ果てた獣道を歩いていた。下から伸びてきた獣の手に足を引かれるが、俺はそれらを無視して歩いた。ここにあるモノには救いが与えられないのだ。

(……声が、出なくなってきたな)

 再び場面は変わった。今度の俺は、飲み食いも出来ぬまま干からびた大地を歩いていた。空は燦々と日照り、残酷な程にカラカラの大地が続いている。ふと血迷って地面を歩いていた蟻に手を伸ばすが、それらは俺が手を伸ばすと消えて無くなった。

(……ここには何もないんだ)

 最後に、俺は燃える大地を素足のまま歩いていた。魂まで焼き尽くされそうな地獄だ。ふと、何人か知った顔を見た気がしたが、気のせいだろうか。意識が朦朧としてきたが、発狂しそうな程の痛みと苦痛に耐えながら歩き続ける。

 そうして、歩き続けた先に、アルニスの顔があった。

(……戻ってきた? 今のが、『六道輪廻』か)

『旦那様……!?』

 力を振り絞って『唯我独尊』を発動させる。
 アクアス……頼む。

 床に落ちていたアクアスが俺の意を受けて水刃を飛ばし、俺を貫通している腕を一本飛ばした。
 すぐにアルニスの腕が再生するが、俺は『変貌』でスライムの腕を伸ばして懐の瓶を取り出すと、それを飲んで胸の傷を修復した。ハイパーポーションを持参してきて良かった。

「ヒッヒッヒ。辛そうだなぁタクマァ」
「ああ、地獄を見た気がする。だが、お陰で力は得てきた……」

 ――178+30+40+20+60で328。

 頭のなかでアナウンスが響いた。

 おめでとうございます!
 プレイヤーとして戦力値300を達成したことにより、スキル『魔神』を獲得しました。
 スキル『魔神』を取得したことにより、ステータスに『信仰値』が追加されました。
 新たに『創造』のスキルが使用可能になります。

 『創造』は『信仰値』を消費することによって、スキル・アイテムの作成といった新たな試みが可能となるスキルです。より多くの『信仰値』を集め、強大な力を持った魔王を倒しましょう!

「魔王の前にまずはアルニスだけどな」
「消えろタクマァァァ!」
「実際お前は厄介な敵だったよ」

 多分、この世界で三番目くらいに速い攻撃を見切り、全力の一振りを叩き込む。
 人間を辞めたアルニスの身体から紫色の血が飛び散る。
 
「魔力が戻ってきた。最後はこの一撃で締めよう」

 恐らく、頭を潰せばアルニスは蘇生できないはずだ。

 と、俺が神竜斬の溜めの動作に入った直後、天井が崩落して銀髪の少女が降りてきた。
 少女は落下の勢いでアルニスの身体を踏み潰すと、グチャグチャになったアルニスからジャンプして俺の前に飛んできた。

(いや……死んだんだが?)

 少女は有無を言わせず腹に拳を叩き込んできた。

「……ぐっ」

 もちろん、俺は殴り返したりしない。
 なぜなら、目の前にいるのが俺好みの美しい少女だったからだ。

「見て分かる? 魔王よ」
「……何?」
「だから、私が魔王だって言ってるの。覚醒したみたいだから見に来てあげたわ」
「魔王ジュリか」

 カルマオンラインで何度か見かけたはずだが、あまりの美しさに目を奪われていた。
 愛らしい少女のような外見とは裏腹に、その戦闘力はかなり高い。
 戦闘に特化した薄い胸を見ても、その強さは分かるだろう……。

「ぐふっ……」

 再度、今度は顔面をビンタされた。
 心なしか魔王の眼力が増した気がした。

「二発も耐えるなんて凄いわね。もう、戦えるんでしょ。グダグダやってないで魔王城に来なさいよ」

 どうしよう。間近で見ると可愛い。
 細い手足と漆黒のドレス、銀色に輝く髪はツインテールだ。
 蒼いサファイアのような瞳も、固い人形のような表情も、ツンツンしていて愛らしいと言える。

 ここで戦いたくないと言ったらどうなるのだろう。
 気になったので、そのまま言ってみた。

「お前とは争いたくない」
「はぁ? 私を殺して破壊神になる。それがあなたの目的でしょ」
「全部知ってるのか?」
「知ってるし。だから様子を見に来たの。でもひとまず魔王城で待つわ。お茶の準備をして」
「楽しみだ」
「あまり油断してこないでね。うちは血の気が多いのがいっぱいだから」

 来た時と同じ唐突さで、魔王は飛び立っていこうとする。
 羽根はないが、飛行のスキルを持ってるらしい。

「そういえば、魔王は結界を突破できないはずだよな。お前、本当に魔王なのか?」
「その理由も来たら教える。じゃあね」

 魔王ジュリ……か。
 小さくて可愛かったな。
 抱きしめたい。

 そんなことを思いつつ、俺は小さな身体が転移魔法で消えるのを見送った。
 しかしあんな魔法、カルマオンラインになかったよな?

 俺も魔法の創造をしてみようと思った。
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