大事に育てた畑を奪われたからこの村は見捨てることにした ~今さら許しを乞うても無駄なんだよ~(完)

みかん畑

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50 相違と疑惑と協力者(下)

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 ラスクが深々と溜息をつく。

「……はぁ。やめてくれ。お前が素直に頭を下げると気味が悪い。聖女様もこんな奴に付き合わないでください。大体いつも悪いのはこいつなんですから」
「あんまりな言い草だな」

 ラスクの物言いにミイナも微笑している。
 そこに悪意が感じられなかったからだろう。

「まあ、お前ほど実力のある冒険者に頭を下げられて何も思わない程、俺も枯れちゃいない。それに、王都の方と比べて、地方のギルドで魔物が多く狩られていない問題についても、取り組んで欲しいとは俺も思っていた」
「もしかして、レオニード王子に協力してくれるのか?」
「ああ、お前を信用してもいいかもしれないな」

 ――まだ油断はしない。信用するとは言い切ってないからな。

「それで、どうせ俺から情報が漏れないよう秘密保持の『死の宣誓書』でも持ってきてるんだろう? 見せてみろよ」

 ここが勝負だと思った。

「いや、死の宣誓書は持ってきていない。俺はあんたが不義理をするような人じゃないと信じているし、レオニード王子も俺の言葉を信頼してくれたんだ」
「……ほう。なかなか話せるじゃねえか」

 ラスクが照れたように笑っている。彼は義理を重んじる人間だ。
 宣誓書で縛りつけるより、こういうやり方の方が合っていると思った。

「まあ、本当のところを話すと王子じゃなくて姫なんだけどな」
「姫……? 何の話だ?」

 俺はレオニード王子の正体からアルジャンが主君であるレイナ姫を陥れ、兄殺しの汚名を着せた上で強姦しようとしていることまで、洗いざらい伝えた。

 俺の話を聞いたラスクは激怒した。
 俺にじゃない。アルジャンの不義理に対してだ。

「野郎……! レオニードを暗殺した王子に媚びへつらってオマケに主君の姫を強姦するだぁ!? 騎士道精神の欠片もねえ奴じゃねえか! なんて糞野郎だそのアルジャンってのは! お前もよく決意したな! 同じ冒険者として、俺は胸がスカッとしたぜ!」
「あ、ああ……。まあ、俺の女にしてしまったんだがな」
「……はぁ。俺の尊敬を返せ。お前はやっぱりクズ野郎だった」
「言っておくが弱味につけ込んだわけじゃない。頼られて、そのだな」
「いいいい。別に聞きたいとも思わねえ。お前が女に甘いのは俺も知ってたからな」

 え? どういうことだ?

「ずっと噂になってたんだよ。ほら、お前が駆け出しの時に、大して稼いでないのに親を亡くしたガキに小遣いやったりしてたろ。しかもお前が魔物の情報まで流して冒険者ギルド専属の情報屋として育ててたのも皆知ってたぞ」
「噂になるもんだな」
「そりゃ、お前が横流ししてる情報にはかなりの価値があったからな。今まで弱点の分かってなかった魔物への有効な攻撃なんかも流れてきて、お陰で冒険者の犠牲が減ったもんだ」

 ネリスとのこと、噂になってたのか……。全く知らなかった。

「他にも苦労して妹を食わせてるとか、自分は冬でも貧しい身なりの癖に、女物の服を買い漁ってたとか」

 カナミもネリスも育ち盛りだったから服の交換が頻繁に必要だったんだよ。
 俺はレベルも他と比べて高いし頑丈だったが、二人はただの女子供だったからな。

「俺も、面倒ばかり背負いこむ野郎だと思ってたぜ」
「別に面倒という感覚はなかったが」
「たまにお前をやっかむ奴がいるが、勇者だからモテるわけじゃないんだろうな。お前が面倒を苦とも思わず手を差し伸べるから、皆して手を掴んじまうんだろう。いつか俺のとこに娘が生まれたら、お前にだけは近づかないよう言っとくわ」
「それがいい。惚れたら困るからな」
「抜かせ」

 くだらない冗談で笑いあう。

「天秤は貸してやる。当日は俺も出向いてやるよ」
「家族がいるなら無理はするなよ」
「明日から実家に預けとく。お前も俺を信頼して死の宣誓書を書かせなかったんだ。俺も義理は果たすぜ」

 熱い男だ。正直、かなり心強い。

「で、あとは何か欲しいもんあるか? 金は余ってるんだろ。融通するぜ」
「なら、エリクサーを一本買いたい」
「あの霊薬をか!? 誰かくたばりそうな奴でもいるのか?」

 少し気がかりなことがあるんだよな。

「病床の陛下に献上したいと思ってる」
「陛下だと?」
「今、王宮はアルニス達が牛耳ってるらしい。そして、アルニスには継承権争いで兄を毒殺した過去がある。身内でも、自分の障害になるならやれるっていうことだ」
「お前まさか、アルニスを疑ってるのか!? しかし、さすがに……陛下に毒など盛れるか? アルニス達が幅を利かせているにしても、王宮で働いてる奴を全員入れ替えるなんて無理だ。特に近衛騎士だっているだろうに、毒殺なんて狙っても必ずどこかで足がつくはずだぞ」
「謙譲の品や食事だったら毒見係もいるだろう。だが、王子が直接手渡したワインとかだったら毒の有無など確かめないんじゃないか? 毒を薄めたワインで晩酌などしていれば、陛下も気づかない内に微量の毒が蓄積して病になった可能性はある」

 ――思えば、カルマオンラインにおいてラムネアの国王イドルフは、鉄血の異名を持つ程、老齢にも関わらず武の研鑽を怠らない現役の王だった。それが、この世界では昨年あたりからずっと臥せったまま表舞台に出てこなくなり、俺のなかで違和感がくすぶっていたのだ。

 強烈な違和感を覚えた俺は、アルニス王子の一派にその理由を求めてしまった。
 まだ確証はないが、俺の『鑑定』と『エリクサー』があれば、陰謀の毒牙からイドルフを救えるんじゃないかと思う。

「いよいよ、大事になって来やがったな」
「リスクもあるし何処にアルニスの猟犬がいるかも分からない。それでも手を貸してくれるか?」
「既に手は握ると約束しただろうが。ここまで聞いて黙ってらんねえよ!」

 俺はラスクと握手を交わす。

 横で見ていたリリカが、無言で固まっている。
 俺がラスクを説得できるとは思っていなかったんだろう。

 正直、鑑定の力でラスクの人となりを理解していたのも大きかったが、それでもラスクの信頼を得られるかは賭けだった。
 何とかギルドにとって美味しい条件を提示し、あとは事前に姫の了解を得て『死の宣誓書』を使わない方針で進めるなどして成功率を上げたが、最終的には誠意を見せる他なかった。

 しかし、俺の活動についてラスクが把握し、それなりに評価してくれていたことも協力に繋がったと思っている。
 真面目にコツコツ頑張ってきて良かったな。

 俺を疑っていたリリカの反応を楽しみながら、俺は当日の計画についてラスクと詰めていった。
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