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43 合流

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 深夜の内に、俺は姫とメイドを連れて屋敷に帰還した。

 メイドは俺の屋敷へ移ることに反対したが、姫には逆らえず俺の意見を飲む形になった。
 応接間にひとまず連れていくと、エリスが優雅に紅茶を淹れてくれた。

「とても訓練されているんですね」

 レイナもエリスの手つきには感心しているみたいだ。

 俺と女達が並んで座り、向かいあう位置にレイナが座る。

「まずは暖かい内に飲みませんか?」
「そうだな。皆も、少し長い話になるから飲みながら聞いて欲しい」

 俺もティーカップを持ち上げて口をつける。

 と、姫の傍に仕えるメイド(リリカと言うらしい)が、やや小馬鹿にしたように俺を見てきた。何か細かい不作法があったのだろうが、なかなか挑発的なメイドだ。俺に仕える幼メイド達と並ぶくらい身体が小さいが、気は人一倍強いらしい。

 まあ、今は無視をして話を進めることにする。

 俺はレイナ姫にまつわる一連の話を、掻い摘んで女達に話した。

 男装して、レオニード王子として振る舞っていたこと。
 メナンドに俺を襲わせたのが、彼女の側近だったこと。
 彼女の側近が、姫を陥れるよう相談を持ちかけてきたこと。
 そして、

「タクマ様とセックスをしました。なので、私と彼は恋人同士ということになります。皆さんと同じ関係です。王族ですが上下はないと思っていますので、よろしくお願いします」

 姫とセックスしたことも報告した。

 女達を見たが、「まあ、そうなるよね。よろしくー」くらいの感じで聞いてるみたいだった。

 早々にエリスに手を出し、聖女すら抱いた俺だからな。
 もう姫を抱いたくらいでは驚かれなくなってしまった。
 たぶん、健気に働いてる幼メイド達を抱いたりしたら刺されると思うが、逆に言えばそれ以外のことは受け入れられてるようだ。

 ちなみに断っておくが、俺は断じて屋敷の幼メイド達には手を出してない。
 ミオ、ユナ、ノノの三姉妹や読書好きのリコなど、彼女達は俺にとって娘のような存在だ。
 手を出さず、これからも見守っていきたいと思っている。……懐いてて可愛いしな。

 ほのぼのしてると、レイナの従者であるリリカに冷や水を浴びせられた。

「お話に入る前に、タクマ様は姫様を除いて五人も恋人がいるようですが、信頼に足る御仁なのでしょうか」

 五人の恋人だと……?
 カナミ、ネリス、セラ、ミイナ、アリシア。
 エリスが抜けているぞ。

 即座にアリシアが言い返してくれた。

「五人じゃなくて、六人よ。そこのエリスもタクマの恋人なんだから」
「リリカ、ちゃんと謝罪してください。エリスさんも恋人だそうです」
「謝るのそこじゃないですよね……!?」

 常識人的なツッコミを入れるリリカである。
 俺も同意見だ。

「ハッキリと申し上げますけど、六人も女性を囲うようなだらしない殿方に、姫様はお預けできません! 私は教会にこそ、御身を預けるべきだと思います!」

 なるほど。しかし、それには反対だ。

「教会の宝物庫からラッキーシードという貴重なマジックアイテムが持ちだされたのを忘れたのか。持ち出されたのがマジックアイテムならまだ取り返しもつくが、レイナが誘拐されたら二度と取り返しはつかなくなるぞ。ここには結界もあるし、屋敷に居た方が安全だろう」
「うっ……! ですけど、結界を理由にここが安全だと言い切れる保証はありませんよ! だって失礼を承知で言いますけど、ここに張られているのはミイナ様が張られた結界ですよね? だったら、教会にも同じものが張られてたはずです! それでも宝が持ち出されたということは、ここの結界を信じる理由にもなりませんよね!」
「教会は罪を受け入れ、悔い改める場でもあります。ここに張られている結界を教会に張るようなことはありませんよ。それと、リリカさんはこの屋敷を信じられないと仰いますが、私はこの世界で一番、タクマの隣にいるのが安全だと思っています。単純に、タクマは誰にも負けないからです。それと、神が定めた勇者を否定するということは、教会の教えを否定することでもありますが、もしかしてリリカさんは破門されたいのですか?」

 ミイナの必殺技、『あんた破門されるわよ』が決まった。
 リリカは震え、怯んだ彼女に俺の女達は追い打ちを掛け始める。

(抜群のコンビネーションだな)

「リリカさん、兄さんならアルニス王子の私兵やこの国の騎士達、冒険者全員が総攻撃をしてきたとしても勝てると思うのですが、何が不満なのですか? 兄さんを疑うということは勇者を疑うということ、やはり異教徒なのではないですか?」
「ま、フツーに考えるとそうだよな。勇者に暴言って不味いんじゃないかなー。従者が異教徒とか、レイナ姫にも迷惑が掛かるだろうなー」
「大変ね、リリカさん。大人しく謝ったら?」
「ていうか、タクマくらい優しくて強い人なんて他にいないし。ちょっとエッチだけど、それ以外は完璧だし」
「ご主人様は信頼できる方ですよ。リリカ様も一度、時間を共有されるといいと思います。きっと、深い繋がりを通して新たな自分に目覚めますから」

 ミイナ、カナミ、ネリス、セラ、アリシア、エリス。
 俺の大事な女達がフォローをしてくれる。姫も一緒にリリカを窘めてくれた。

「あなたがタクマ様を信用できないというのは分かりました。ですが、私はここにいる皆さんと同意見です」
「姫様……! 私は、姫様のことを思って……!」
「あなたの気持ちは嬉しく思います。私の本当の姿を知りながら、ずっと傍で仕えてくれたあなたに、私は心から感謝もしています。ですが、今のあなたはタクマ様に嫉妬しているだけのように思えます。違いますか?」
「…………ッ!?」

 心当たりでもあったのだろうか。
 リリカが思いきり目を見開く。

「あなたにも本当のタクマを知って欲しいです。それでもダメならまた話し合いましょう。一度、タクマに仕えてみてくれませんか?」
「でも、それでは姫様のお世話が……」
「タクマ様、エリスをしばらくお借りしたいのですが……」

 ――いや、しかし、それでは俺がエリスを使えなくなる。
 俺は毎日エリスのお世話になってるんだ。
 彼女がいなくなると生活が破綻してしまう。

「すまないが、エリスは……」
「ご主人様、ここは姫様の提案に乗ってはいかがでしょうか」
「エリス……」
「私で姫様のメイドが務まるか不安に思われているかもしれませんが、必ずこの役目を果たして見せます。ですから、ご主人様が信頼できる御仁であるということを、リリカ様に分からせてあげてください」

 分からせ……か。
 確かにリリカは分からせたい少女ナンバーワンの座を俺の中で築き始めている。
 小柄で愛らしいルックスと、それとは正反対の尖った性格。
 ことあるごとに睨みつけてくるメイドとしての適性を疑うような彼女に、俺は「分からせたい」という思いを抱き始めていた。

「分かった。俺がリリカを分からせよう」
「そんな! 分からせるってなんですか! エッチなことでもするつもりですか!?」
「いい加減にしてください、リリカ。そんなに私の言いつけが聞けないなら、出ていってくれてもいいです。もう、リリカには頼りませんから」
「え……!」

 生意気だったリリカが狼狽えている。
 いい気味だと思うが、放っておいたら話が進まない。

 こんなしょうもないことで仲間割れしてる時間はないんだからな。

「リリカ、お前が俺を疑っていることはよく分かった。従者として姫様のことを守りたいという気持ちも理解できる。だが、エリスの手をよく見てみろ」

 エリスは俺の傍を離れるという苦しみから、固く握りしめた拳が血を流していた。

「彼女は、俺の傍を離れるくらいなら自決するくらい、主従愛の強いメイドだ。そのエリスが、主である俺の名誉の為、こうして血の涙を流しながら耐えてくれてる。リリカに彼女と同じだけの覚悟はないのか?」
「ば、馬鹿にしないでください。私にだってそれくらいの覚悟はありますから!」
「だったらその覚悟を見せてみろ。いつも一緒に居て金魚の糞みたいに付きまとうだけが主従関係じゃない。時には離れていても相手を信頼するのが真の主従関係だ」

 俺が言い切ってやると、リリカは悔しげに俯いた。

「でもタクマってエリスが外に出てる間、常に気配察知で安全確認してるよね。ていうか、用がないと買い物付き合ってるくらいだし」
「……しっ。タクマはいいのよ。分かっててやってるのだから」

 アリシアの小声での密告をセラがたしなめてる。
 アリシアにはお仕置が必要のようだな。

 一方、何も聞こえなかったらしいリリカは不承不承といった様子で頷いた。

「分かりました。姫様を預けるに足る方か、私が直接タクマ様を監視します! その代わり、少しでもエッチなことをしたら訴えますから!」
「ありがとうリリカ! やっと分かってくれて嬉しいわ!」

 敬愛する主人が手を叩いて喜んでいる。
 リリカは納得がいかないまま、期間限定で俺専属メイドになった。

「さて、ではレイナを守る為の会議を開こうか」

 ようやく本題に入れる。
 キッと力強く俺を睨むリリカのことはこの際いったん忘れて、俺はミイナに教会からの協力を取りつけるよう話を進め始めた。今回は本当に時間との勝負になりそうだからな。遊んでいる余裕はない。
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