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34 最適化(上)

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「兄さん……!」
「タクマ!?」
「しっかりしてください!」
「嘘……タクマ……負けないで!」

 俺が押される度、女達の悲鳴が何重にも聞こえた。

 カナミ、ネリス、ミイナ、アリシア……。
 セラは驚きのあまり声も出てない。

「んー。この感触、いけないねえ。魔法はズルでしょ」
「だから数発殴らせてやったんだろ」
「ふ、面白いなぁ! 俺はねえ、匂いで相手の強さが分かるんだ。ほんの僅かだけど、俺の方が強くなっちゃったよねぇ。なのにどうしてそう冷静でいられるのかなぁ」

 メナンドの戦力値が147。
 対する俺は、145。
 このままだと勝つことは難しい。

 それでも、俺には切り札がある。

「もっと打って来いよ」
「いいねえ。その心意気……!」

 ラッキーシードをどこで手に入れたとか。
 どの貴族が俺の首を狙っただとか。

 そんな疑問は後回しだ。
 今は、この状況をどう打開するか。
 その一点に意識を集中する他ない。

 メナンドが剣を構える。そして、鋭く突き出してきた。
 俺はあえて、剣を避けずに受け入れる。
 いや、受け入れようとした。
 だが、メナンドは途中で攻撃を止めていた。

「お前……今さぁ、何を狙ったんだ?」
「何だと思う?」
「死ににいく目じゃないんだよ。どうしてだ? 何で、俺の剣を避けないんだ?」

 俺の『変異体』狙いが怪しまれたか。

 確実に勝つ為のショートカットだったが、まあ発動させる手段は他にもある。
 俺はこんな時の為に用意しておいた飴玉の包み紙をポケットから取り出した。
 そして、口に放り込んで、噛み砕く。

 以前、セラから獲得した『毒無効』のスキルは既にオフだ。そして、俺の身体は猛毒に侵された。

(……セラ。特製の飴玉の調合、ありがとうな)

 仲間のなかでセラだけが、俺の身体の秘密を知っている。
 以前、刺された時にこっそり種明かししておいたからだ。

 他には誰も、俺の身体の秘密は知らない。
 変異体が始まる……。

 ――平素よりスキル『変異体』のご利用ありがとうございます。
 この度、タクマ様の変異体は過去の発動実績を元に最適化されました。

(……はぁ!?)

 突然のアナウンスにビビる。
 最適化って何だ。
 やっぱりこの世界はデータの塊なのか……?

 俺の疑問をよそに、スキルは発動していく。

 傷の治癒……完了と判断します。
 続けて解毒プロセス……不要と判断します。
 『毒無効』をオンに変更しました。

 スキルの内容変更に伴い、『変貌』を獲得しました。
 『オーバードライブⅡ』の発動が可能となりました。発動完了。今から20分間、戦力値が+70されます。
 次回の『変異体』発動までのインターバルは24時間です。
 今後ともご利用の程、よろしくお願い致します。

 ――戦力値215。
 いやいやいや、急すぎるだろ。
 勝手に最適化などしないで欲しい。

「匂いが変わった? お前何しやがった!?」

 頭が追いついていない部分があるが、新しい力を試そう。

「『変貌』しろ」

 と、使用した瞬間、右腕に強烈な違和感が走った。
 見ると、俺の腕がスライムになっていた。

「はぁ?」

 ゼリー状の肉塊に変貌している。
 ウネウネと蠢く不形の腕はスライムそのものだ。
 質量を自在に調整できるらしく、伸縮させる・硬化させる・鋭利化させるといった活動状態の変化が可能なようだった。

 しかし、変形できるのは右腕までらしい。
 いや、我ながら化け物じみてないか?

 女達の方を見るが、ちょっと引いていた。
 そりゃそうだろ。

 ひとまず、聖剣を鞘に戻す。一応、鞘に納めていても聖剣による強化値は変わらない。
 地面に刺すなどして身体を離れたりするとその限りじゃないが、鞘に収まってる状態は装備状態と判断されるからだ。
 武器を持ち変えたわけではないので、武器の持ち変えにも該当しないようだった。まるでシステムの穴を突くような強化方法だな。

「なんだ? なんだなんだなんだ……!?」
「そう驚くなよ。傷つくだろ。しかし、これなら問題なくいけそうだ」

 『変貌』の効果は腕を変化させるだけではない。
 体術のパラメーターを引き上げ、戦力値を+30する効果もある。
 つまり、オーバードライブⅡと変貌が合わさった結果、戦力値は+100されているということだ。
 元々の俺の戦力値は115。これに聖剣も合わせ、115+30+70+30されたことになる。
 俺の現在の戦力値は、驚愕の245……。こうなると何でもし放題だよな。

「くたばれ怪物野郎!」
「こっちだウスノロ」

 98も戦力値が違うと、相手の動きを目で追うことすら出来なくなってくる。
 攻撃の瞬間に減速してやっと戦っている風になるくらいの力量差だ。
 最初があまりにいい勝負だったので、ここまで差をつけてしまうと俺だけズルしてるみたいで申し訳ない。

「なあ、何か奥の手とかはないのか? 実はもう一個ラッキーシードを持ってたり」
「ふざけんな! これが俺の全力だ!」

 これがメナンドの全力らしい。
 なら、もういいよな。

 俺は一瞬だけ本気を出して『見えないパンチ』を死角から放ち、メナンドをよろめかせた。

「最後に聞いておくが、お前が殺した女達に対する謝罪はあるか?」
「そんなもんねえよ! 弱い奴がいけないんだ!」
「そうかそうか。まあ、お前は絶対に生かして帰す気はなかったけどな。俺の女を犯すと言った奴は例外なく殺すことに決めてるんだ」
「……ヒッ」

 俺は助走をつけて大きく跳躍した。
 一気に二十メートルくらい、弾丸のように夜空に向かって飛んでいく。
 そして、月面を背景にした俺は、滞空した状態から一気に巨大化させた右腕を地面に向かって振り下ろした。
 体術によって加速したソレは、ミサイルのように地上に直進。

「やめろやめろ俺じゃ勝てないやめてぇ――」

 棒立ちしていたメナンドの身体をペシャンコにして見せた。

「……もしかして、やりすぎたか?」
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