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28 残骸と再生

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「ねえタクマ、私のこと好き?」

 ああ、大嫌いだよ。以前の村でくすぶっていた頃の俺ならそう答えただろう。
 だが、今の俺はそこまで鬼にはなれなかった。

「愛してる。だから買ったんだ」

 白々しいことを言う。
 アリシアを買ったのは同情したからだ。

 しかし、そんなことはアリシアには認められないだろう。
 彼女は俺を見下していた人間だ。

「それじゃ、タクマのものになってあげるわ」

 あくまで上から目線。
 しかし、声は緊張で上ずっていた。

 それからのアリシアの動きは速かった。
 彼女は足の速いゾンビのように俺に近づくと、俺に跨って熱心にキスをしてきた。技術なんかない、拙いが思いが伝わってくるキスだった。

 いつだって権力者の犠牲になるのは弱者だ。
 この歪な国で、一部の王族や貴族達が受け入れた奴隷制度はアリシアを傷つけた。

 道具のようにされたアリシアは、以前の俺を見下していたアリシアじゃない。

 安っぽい演技をしながら、その実俺に満足してもらおうと奉仕し、無理をして傍に置いてもらおうとするだけの道化だ。そんなことをしなくても俺にはアリシアを受け入れる準備があったが、彼女は自分の不安を搔き消す為に必死だった。

「アリシア、無理はするなよ」
「……してない。私がしてあげたいの。タクマ、ずっと私のこと気になってたでしょ。ロシノに嫉妬してたでしょ」
「そうだな。ずっとアリシアとこうなりたかった」
「うん、分かってるから」

 アリシアの残骸……。そんな単語が思い浮かんで掻き消す。
 自分を保つために、アリシアは俺を強く求めた。
 慣れない身体で、一生懸命に俺を受け入れて主導権を握ろうとしてきた。
 その主導権を握ろうというのも、俺に満足してもらおうとする涙ぐましい努力だ。

 アリシアをいかせることは簡単だった。押し倒して、俺のペースに持ち込めばいいだけだ。
 しかし、そんなことをしたらアリシアは泣き出すだろう。泣いて、衝動的になって、さらに壊れるに違いない。

 だから、俺はアリシアの無理なペースに付き合う。
 目の端から涙を流して俺に跨る彼女を、俺は拒絶しない。
 アリシアの涙は見て見ぬ振りをする。

 俺は彼女に主導権を握られた、ずっとアリシアに憧れていた村人なんだ。
 ……今だけはな。

「アリシア、もう出そうだ」
「ん、え? うん、いいよ。出して……」

 強く突き上げて、竿を外に出して、アリシアにこすりつけて俺は達した。

「あ、外で出したんだ」
「ごめん、こらえきれなくて自分から動いてしまった」
「いいわ。次からは避妊具してね。……あと、どうだった?」
「最高だったよ。愛してる」

 アリシアにキスをする。彼女は俺に愛を囁かれると、震えた。
 電流が走ったように背筋を震わせ、しかし気丈に振る舞う。

「私のこと、買って良かったでしょ?」
「そうだな。本当に、アリシアを買って良かった」
「タクマ強いんだよね。ずっと傍にいてね。私を守ってね」
「当然だ。俺は誰にも負けないくらい強い。今の俺にはそれだけの力がある。アリシアはずっと傍にいればいいんだ」

 俺は悪い男だ。
 アリシアを依存させていることを理解している。

 奴隷にされて心が壊れた彼女は、俺の女になることで自分を再生している。
 だけど、それの行きつく先は以前のアリシアとは別人だ。

 自分本位で、男を自分のアクセサリーのように思っていたアリシア。
 間違っても俺なんかに振り回されるような女じゃなかった。

「まだ先だけどね。いつか結婚してあげるんだから」
「いいのか?」
「嬉しいでしょ? 一番、私が綺麗なんだから。胸はね、成長させてるところだけど」
「可愛いな。アリシアは可愛い」
「うん。そうでしょ。分かってる」

 アリシアの髪を撫でる。
 こんな女じゃなかった。
 でも、これが今のアリシアだ。
 俺が守っていくアリシアだ。

「口とか、胸でもする? 全部、タクマのモノにする?」
「もちろんだ。でも、こうして抱いててもいいか? こうすると安心するんだ」
「うん……。タクマがそうしたいなら」

 椅子に座ったままアリシアを抱きしめる。

「眠くなっちゃう」
「夜まで寝てもいいぞ」
「ちゃんと起こしてくれる? あとで寝れなくなったら一緒に起きててくれる?」
「もちろんだ。俺はアリシアの騎士だからな」
「騎士なんて似合わない」

 久しぶりに笑顔を見た。今日はこれでいいとしよう。

「なに? 急に笑って、私のこと馬鹿にしてない?」
「してないよ」
「してる。絶対にしてる」

 下らないやり取りをして時間を潰した。
 どちらかと言えばロリ体形のアリシアなので、俺が甘くなってしまうのも仕方ないと思った。誰にともなく言い訳しつつ、俺はアリシアを甘やかし続ける。

 柄にもなく、失った分の幸せを取り戻してやりたいと思わされた。
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