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27 屋敷と面談

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 レイナ姫がくれた屋敷は、噴水つきの大豪邸だった。

「豪邸とは聞いてたが、これどうやって管理すればいいんだ」
「腕がなりますね。一週間というローテーションで管理していけば、ある程度は保つことも可能だと思います。ただ、あまり使わない部屋については管理が甘くなるかもしれません」

 メイドとして雇ったエリスが意見をくれる。
 一方、俺の女達ははしゃぐばかりで何の役にも立ちそうになかった。

「すごいですよ兄さん! 噴水です! 家に噴水がついてます! すごい! 兄さんすごい!」

 ああ、噴水は分かったから。

「すげえ! あんなに部屋がいっぱい! あたし、二階に住みたい! あの部屋がいい!」

 子供か……。いや、ネリスはまだ子供だったな。俺も元高校生で大して年は変わらないはずなんだが。

「あの、タクマ、少し話があるのだけど」

 セラは珍しく神妙な面持ちをしている。
 いつも涼しげな顔をしているが、今日は様子が違うな。
 まさか、セラも二階に住みたいとか言い出すのだろうか。

「どうしたんだ? 部屋なら好きに選んでいいぞ」
「そうじゃないの……。わた、私……」

 ボロボロとセラが泣き始めて驚く。

「……どうしたんだ。辛いのか?」
「違うの。もう、満足していたの。一緒に外の世界が見れて、恋人気分を味わって、もう、十分だと思ってたの」

 事情は分からないがセラの肩を抱く。
 ああ、もしかして。

「王子に助命してもらったことか?」
「本当に助けてくれると思わなかった……」

 コクコクと頷いたセラが、真っ赤な目で俺を見た。
 申し訳ないが、化粧が崩れてて少し笑ってしまった。

「この男最低だ!」
「兄さん、時と場合を選んでください!」
「……もう!」

 ネリス、カナミ、ミイナにそれぞれ怒られる。
 だけど、俺は何だか救われた気分だった。
 空気が読めない男で悪かったな。

「ほら、お前も笑えよ。もう自由だ。奴隷にしておく必要もなさそうだしな」
「では全員奴隷解放&入居記念日ということで、パーティーにしましょうか。私、料理には自信がありますのでっ!」

 エリスには早くも万能メイドの風格が出ている。
 元は没落した貴族の娘ということだったが、何なんだこの安定感は……。

「タクマ、今日はいっぱい尽くさせてちょうだいね」
「……セラが一人占めできたらな」
「フフ、難しいかも。それに……」

 アリシアもいるからな……。

 俺は女達との奴隷契約を全て解消することにした。

 一応、奴隷契約を解消するにあたって、エリスにも手伝ってもらって全員と面談はした。
 これから何かしたいことはあるのか、希望はあるのか聞いてみたのだ。
 もしかしたら村や親元に帰りたいのもいるかもしれないからな。
 出来る限り、力になると約束して面談には臨んだ。

 しかし、結局コマネシオンに囚われていた幼い娘達は、全員が俺の屋敷で再出発することを希望し、メイド待遇で迎え入れることになった。

 四人とも既に親は死去しており、帰る場所もないということだった。
 彼女達は俺とエリスのことを強く信頼し、ここで働きたいと言ってきた。
 俺は彼女達の望みを受け入れることにした。
 事前に約束もしていたからな……。放り出すことはしない。

 ただ、一人扱いに困ったのがいる。
 それが、アリシアだった。

 俺はアリシアを呼び、村へ帰るよう提案した。

「え、村……?」

 奴隷商に父を殺されたアリシアは、虚ろな目で足元を見ている。
 アリシアの傍らには、寄り添うようにエリスもついている。

「タクマ様、アリシアのことで相談があります」
「様は不要なんだが……」
「ではご主人様にお願いです」

 ――更に悪化しただと!?

 ツッコミたいが、さすがにそんな雰囲気じゃない。KYの俺でも分かる。

 しかし、気品のあるエリスに詰め寄られると少し後退してしまうな。
 そんなに真っ直ぐ俺の目を見るのはよしてくれ。
 俺が人生で会ったなかで、彼女はレイナ姫やミイナと並んで一二三を争う光属性だと思う。
 一度奴隷にされて尚、この気品と輝きを保つとは、怖ろしい娘だな。

「ご主人様、アリシアはこの屋敷に残ることを希望しています」
「え!? アリシア、そうなのか?」
「……もう、村には戻りたくないわ」
「すまないが、理由を聞かせて欲しい。村に戻れるんだぞ?」
「怖い……。タクマと一緒がいい。タクマは強いから」

 極度のトラウマのせいだろうか……。過剰に暴力などを怖れるようになった結果、俺の傍にいることを選んでしまったらしい。

 村長の娘として、あんなに存在感を放っていたアリシアが、ここまで変わるとは……。村に戻る気はないようだ。しかし、それでも一度は村長の元へ連れていかなければならない。

「分かった。だけど、村長には顔を見せよう。アリシアのことをとても心配していたんだ。だが、そのあとのことは俺が面倒を見る。もう断っても遅いぞ。アリシアは手放さない。それでいいか?」
「うん……」

 村に戻りたくないと言い出したら困るので、少し大袈裟なくらい、手元に置くと言っておく。アリシアは感情の抜け落ちた子供のように笑った。俺に依存している態度にも見えるが、それが彼女の安定に繋がっているなら、この関係をすぐに壊すことはできない。

「タクマ、このあと時間をちょうだい。お礼をしたいの」

 アリシアが何を求めているかは分かる……。

「では、私は今夜のパーティーの支度に入りますね。元家主様の好意で食材は運び込まれていたので、うんと腕をかけますね」
「ああ、よろしく頼む」

 空気を呼んだエリスが退室する。

 アリシアを買ってから、初めて二人きりになった。
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