大事に育てた畑を奪われたからこの村は見捨てることにした ~今さら許しを乞うても無駄なんだよ~(完)

みかん畑

文字の大きさ
上 下
25 / 118

25 約束の履行

しおりを挟む
 早朝、俺は王子からの伝言を宿の受付で受け取った。
 大司教は俺との約束を果たし、王子との謁見の機会を設けてくれたらしい。
 何かあった時の連絡先として伝えていた宿に、王子の遣いのメイドが来たのだ。

「王子は一対一で会うことを希望しております」
「分かった。すぐに会いたいが問題はないか?」

 早めに屋敷を貰わないと女達の行き場がなくなるので、指定された時間に向かうことにした。
 先方の希望もあり、会うのは俺一人だ。

 王子が所有している別荘の一つに招かれ、庭園でお茶を飲むことになった。
 ずいぶんとリラックスした席を設けたものだ。

 大司教からは気性が荒いと聞いていたが――

 待っているとメイドを伴った王子がやってきた。
 俺が立ちあがると片手で制される。
 現れたのは中性的な容姿の美男子だった。
 女装させたら抱けそうだな。
 などと下らないことを考えつつ一礼する。

「楽にしてくれ。お前のことはラグエルから聞いている。ダイババを討ってくれたこと礼を言うぞ」
「王子のお役に立てて光栄です」
「ハッハッハ。嬉しいことを言ってくれるな。ダイババはどうだった?」
「強かったですが、率直に言って私の敵ではありませんでした。ただ、気になることは言っていました。俺の後ろには王子がついていると……」
「身内の恥だな。私の弟のアルニスは情に篤い人格者で周りの臣下からの信頼も篤い。まさに王となるに打ってつけの人材だと思われておる。だが、奴には致命的な性癖がある。それが、小児性愛だ」

 それを言うなら俺もネリスと関係を持ってしまっているが……。
 まあ、強引にはしてないからな。
 俺は澄ました顔で「最低ですね」と調子を合わせた。

「奴は年端もいかない男児を奴隷商から買いあさり、使い潰している。あれが王になることなどあってはならないと私は思っている」

 大司教がいずれ処分されると言っていた理由がこれだな。
 俺だったら抱いた女には愛情と執着が生まれるが、アルニスは違うようだ。
 使い潰すというからには、そういうことなんだろう……。

「幸い、証拠は既に押さえたと聞いている。何より、ダイババを生け捕りにしてくれたことが大きい。そういえばダイババは妹に会わせろと喚いているようだが」
「ダイババの妹は被害者です。私が保護しています」
「ふむ、本来であれば盗賊団の一味として処刑するべきなのだがな」
「セラは美しい娘です。処刑すれば悪い印象を大衆に与えるかもしれません。むしろ、兄の被害者としておき、王子の命を受けた勇者によって解放された生き証人とした方が筋書としては美しいのではないでしょうか」
「……ほう。お前は剣の腕が立つだけではなく、政治も分かるようだな。平民にしては珍しいことだ」

 日本での記憶があるからな。
 政治についてのニュースは嫌でも耳に入ってきた。
 メディアの煽り方を見れば大衆への接し方も分かるというものだ。

「お前は弟ではなく私の為に働いてくれるか? 政治が分かる者であれば、今は弟の方が優勢だということも分かるはずだ。しかし、私は決してアルニスに負けるつもりはない。奴は善人の仮面を被った獣だ。弟が王になれば民を苦しめてしまう。それだけはあってはならないことだ」

 結論は出ている。
 俺はレオニードの側につくと大司教と約束しているし、アルニスは余罪が多すぎる。

 しかし、自分の目でもこの若き王子が信頼に足るものか確かめたい。

 俺は鑑定のスキルを使った。

 レオニードの戦力値は45だった。
 まあ、騎士と同程度くらいか。
 何か特筆すべき情報があれば備考に出てくるが――と思いステータス画面を見て俺は驚愕した。

 ――『男装をした少女。その正体は、亡きレオニード王子の妹、レイナ姫。暗殺された兄の無念を晴らす為、亡き王子として振る舞っている』

 なっ……なんだと!?
 こいつ、とんでもない爆弾を抱えているじゃないか!

 というか、レイナ姫という人物には思い当たる節がある。
 『不死のルビー』を持つレイナ姫。
 それは、聖女ミイナと並ぶカルマオンラインの顔だった。

 こんな奴を王として押すなんてとんでもない!
 悪いが、前提条件が変わった以上、俺は第一王子にはつけない。

「ん? どうした、急に固まって……。腹の具合でも悪いのか?」
「本日はお招きいただきありがとうございました。急ですが失礼させていただきます」
「なっ……。おい、いきなりどうした。失礼じゃないか!」
「失礼なのはあなたです、レイナ姫」

 俺は本名を言い当ててやった。
 自称第一王子の顔が蒼白になる。
 やっぱり、ステータスは嘘をつかないか。

 髪型と男装で完全に騙された。
 レイナ姫はカルマオンラインで魔王討伐を依頼してくる役割のNPCだった。美しい容姿と慈愛に満ちた性格でユーザー人気は高かったが、不死のルビーを持つとある魔物と関りがあるとされているキャラクターでもあった。

 正直に言って、レイナは泥船どころじゃない、既に沈んだ船だ。
 彼女は不死のルビーという幻想級アイテムを持っており、未練を残して死ぬと『スカーレッド』という魔物に変貌する設定がある。
 これを倒すと『真紅の剣』という幻想級アイテムが手に入るので、生かすより殺した方がメリットになるという可哀想なキャラクターだった。

 一応、カルマオンラインのメインストーリーは一部ユーザー投票によって選択されるものがあり、ユーザー人気の高かったレイナ姫は『一級建築士』などと揶揄されつつも何とか死亡イベントを回避してメインストーリーをやり過ごしていた。

 だが、この世界のレイナ姫は死亡フラグに向かって爆走しているように見える。

 もう、何と言うかアルニスに返り討ちにされる未来しか見えないのだ。
 こんなのと手を組んだら勝てる試合も負けると思う。

 ちなみに、俺は幻想級アイテム欲しさに『レイナ姫死亡』に投票していたユーザーだ。
 幻想級アイテムは滅多に配布されず、超低確率の課金ガチャからしか手に入らないようになっていた。
 しかも真紅の剣は攻撃した相手のHPを吸い取るというチートソードだったので、どうしても欲しいと思っていたのだ。
 スカーレッドの戦力値は150。多くのユーザーが葬れるよう低めに設定してあり、今の俺でも倒せるレベルの魔物だと思う。

 目の前のレイナ姫には申し訳ないが、彼女を助けるつもりはない。積極的に死なせようなどとは思わないが、何とか自己責任で頑張ってもらいたいものだと思った。彼女は王族なのだし、平民の俺を巻き込むのは無責任だとも思う。というわけで、俺は早々にお茶会から撤退することに決めた。

「……このことを外に漏らす気はない。だが、あんたのことを俺は信頼できない。話はこれで終わりだ」
「待ってください! お願いです、話を聞いてください!」

 帰ろうとしたが、騒ぎを聞きつけたメイドが慌ててやってきた。
 二人で話をすると言って遠ざけてあったのだ。

(クソ、これでは帰るに帰れないではないか!)

「私の書斎で話したい。先に案内してくれるか」
「はい、かしこまりました」

 逃げるタイミングを逸した。
 気乗りしないまま、俺は屋敷に招かれてしまった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...