大事に育てた畑を奪われたからこの村は見捨てることにした ~今さら許しを乞うても無駄なんだよ~(完)

みかん畑

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20 今さら頭を下げても無駄なんだよ

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「お前良かったな。面倒な使命から解放されて」
「うあああ! 返せ! 返せよぉ!」

 ――聞いてないな。

 元勇者に聖剣を返却しようと思ったが無理だった。
 握らせてやっても俺の元に戻ってくる。
 念じるとか念じないとか関係なく手放せなくなっていた。
 これもう呪いの装備だろ。なんてことだ。

「兄さん、勇者に選ばれてしまったのですか」
「不運だ。こんなところでセックスしなければ選ばれなかったのに」
「自業自得だろー」
「私個人としては冒険者として目的があることは悪いことだと思わないけど」

 三者三様の反応だった。

「ところで、あそこに停車してる馬車には他にも乗ってるのか?」
「二人、仲間が乗っています。私達は大司教ラグエル様の命を受けて、盗賊王ダイババを捕えに行くところでした。何でも、大司教様が直接アルジャン公爵に頼まれたのだと」
「なるほどな。魔王を倒す為だけに旅をしてるんじゃないんだな」
「魔王を倒すことは勿論ですが、正義の為にも戦っていますから」

 今回のは正義というより政治的な理由の為だろう。
 第一王子のバックには教会もついてるらしい。

 その辺りの情勢には俺も疎いな。
 ゲームでは明かされなかった背景だ。

「ダイババなら既に兄さんが捕らえましたよ」
「……やはり真の勇者ですね。私は確信しました。あなた様こそ本物の勇者です」
「しつこいな。ところで、俺達はこれから王都へ戻るところだ。ついてくるなら止めはしないが、仲間には挨拶した方がいいんじゃないか?」
「そうですね。彼らとも話しておきましょう」

 俺は泣き崩れるクオンを引きずっていき、馬車に奴を放り込んだ。

 中にいた岩のような男(たぶん武道家か?)と屈強な騎士らしい男が、クオンの変わりように驚いていた。

「お、おい。どうしたクオン」と武道家がクオンを揺する。

 同席していた騎士もクオンを案じて生真面目に声を掛けていた。

「お前、聖剣はどこへやったのだ?」

 騎士の疑問には俺が答えてやる。

「突然だが、クオンの勇者としての旅はここで終わりだ。俺の方が聖剣に選ばれてしまった。この通りだ」

 腰に新しく提げた聖剣を見せる。

 男達はふざけるなと激怒した。

「聖剣を奪うとは何事だ!」
「貴様、天罰が下るぞ! すぐにその剣をクオンに返してやれ!」

 口頭で説明するのも面倒だ。
 力の差を分からせれば妙な誤解も解けるだろう。

「表に出てこい。分からせてやる」

 俺はクオンの仲間の二人、武道家と騎士を馬車の外へ呼んだ。

 鑑定したがそれぞれ80程度の戦力値しか持たない連中だ。
 この世界の基準では強者だが、俺の敵ではない。

「お前達が勝ったらクオンに剣を返すよう努力する。いつでもかかってこい」
「勇者の仲間を舐めるなよ!」
「すぐに地獄を見せてくれるわ!」

 軽くあしらってやる。
 戦いは一分も続かなかった。
 一発ずつ拳を当てて格の違いを教えてやると、二人は大人しく降参した。

「じゃあな。達者でやれよ」

 全くどうでも良いところで時間を浪費してしまった。

「凄まじい強さですね。あの二人が手も足も出ないとは」
「弱すぎるんだよ」
「待ってくれ!」

 馬車を離れたが、なぜかクオンが追いかけてきた。

「おい、本当にその男に聖剣を持たせるのか!? 僕と違ってその男には正義感の欠片も感じられない! 女三人と外で交わってたような奴だぞ! 君にだって危害が及ぶかもしれない!」
「聖剣は正しく勇者を選びます。一見すると不真面目な方ですが、心の奥底には正義の心があるはずです」

 要約すると全く信用できないが聖剣が選んだなら正しいだろってことだ。
 清々しいくらいに信用されていないぞ。

「馬鹿な! 君まで狙われるぞ! 僕と一緒にくるんだ! 僕は、本当は君のことを……!」

 興味はなかったが見守っていると、聖女は俺の背中に隠れた。
 それを見て、クオンは茫然自失している。
 なんだか楽しいことになってきた。
 これはいわゆるNTRという奴か……?

「嘘だろ? 今まで一緒に旅をしてきたじゃないか。僕を裏切るのか!?」

 聖剣を奪われた時よりも絶望しているように見える。
 それだけ、クオンのなかで聖女という存在は大きかったのだろう。
 そして、それは聖女にとっても同じことのようだった。

 聖女は泣きそうな目でクオンを見ている。

「あなたのことは好ましく思っていました。ですが、私には教会から託された使命があります」
「そんなもの……」
「身寄りのない私を引き取ってくださった大司教の為にも、この世界に勇者の光を届けなければなりません。クオン、あなたには本当に感謝しています。こんな私のことなど忘れ、自分の人生を歩んでください。あなたのような素敵な殿方に、私は相応しくありません」
「嘘だ! お願いします! 俺も連れていってください! どうか……!」

 クオンが俺に泣きついてくる。
 こいつ、自分のしでかしたことを忘れたのか?
 俺がスキル持ちじゃなかったら無実の罪で死んでたんだぞ。
 というか、12時間のリキャストタイム的にもギリギリの状況だった。
 あとほんの数時間クオンに出会うのが早かったら、あのまま死んでいたかもしれないんだ。
 こんな話を聞かない奴を仲間にしたいとは思わない。

「すまないが彼女の言うとおり自分の人生を生きてくれ。いきなり無実の人間に剣を向けてくるような男を仲間には出来ない。勇者の役目は俺が肩代わりしてやろう」

 そんな気はなかったが、クオンが泣き崩れるのが楽しくて調子を合わせてしまう。

 ミイナは本当に辛そうだが、クオンが後悔しているところが見れて俺は満足だった。
 人にいきなり剣を向けるからこうなるんだよ。

「さあ、行こう。勇者として使命を果たさなければ」

 ミイナの肩に手を回して歩き始める。
 彼女は身をよじって抵抗しかけたが、諦めたのか大人しく歩き始めた。

「クソォォォ……!」
「あの、やっぱり彼も連れていくわけには……」
「聖剣のないあいつが俺の役に立つと本気で思ってるのか? 勇者の使命ってのはそんなに生温いものなのか?」

 ミイナは項垂れ、俺に付き従った。
 聖剣がなくてもクオンは強い。しかし、その強さは魔王に通じるものではない。
 彼女がどこまで理解しているかは不明だが、どのみち連れていく気はないから話はここでお終いだ。

 さらばクオン。
 せいぜいまっとうに生きることだ。元勇者としてな。
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