大事に育てた畑を奪われたからこの村は見捨てることにした ~今さら許しを乞うても無駄なんだよ~(完)

みかん畑

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19 聖剣を奪う

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 俺の女達がクオンに立ち向かおうとするが、神官の女が「静粛に」と呟くとバインドの魔法が発動して女達の身動きを封じた。バインドは光の輪で相手を拘束する魔法だ。

 この場合はファインプレーだな。
 お陰で女達が傷つけられずに済んだ。

「可哀想に。きっと洗脳されているに違いない。すぐに彼の死体を衛兵に引き渡そう」
「あの、いきなり殺すのはやり過ぎだったのでは……? まだ証拠もないですし」
「状況証拠的に彼の罪は確定している。ミイナだって嫌がる声は聞いてただろ?」
「それは否定しませんが、勇者ともあろう者が簡単に殺生をするのは良くないと思います」
「それはそうだな。まあ、今回は聖女として証言してくれよ。次からは気をつけるから」

 ――勇者に聖女か。
 そういえば、ゲームにそんな設定があったな。

 思えば公式パッケージで見かけた絵柄に二人が近似している気がする。

 勇者役と聖女役のヒロイン。
 なるほどなるほど。

 それにしても、魔王と関係のないところでばかり、このスキルに助けられている気がするな。

 俺の視界は既にクリアだ。
 心臓を貫かれていた俺だが、剣は抜かれている。

 頭のなかで例のメッセージが聞こえていた。
 が、今はそんなことより目の前のクソ野郎だ。

 何が勇者だこのクズめ。
 人を勝手にレイプ犯扱いしやがって。

 勇者はカナミを見て勃起してる。
 生真面目そうな演技をしているが、中身は大して俺と変わらない獣。

 さて、オオカミ狩りを開始しようか。

「もう安心していいから。僕が君達の助けになってあげるからね」
「近づかないで! 私は兄さんだけのものなんです!」
「タクマを返せよ! 絶対に許さないからな!」
「どうして解放してあげたのにそんなこと言うんだ?」
「あなたは解放なんてしていない! タクマを殺した人殺しよ!」

 セラもよく言ってくれた。

「よっぽど酷い目に遭ったんだね。でも、もう安心していいよ。彼はいないんだ。さあ、本当の自分の気持ちを吐きだしてごらん?」
「勝手なこと言ってんじゃねえよ、このクズ野郎が」

 スキル『変異体』が発動して戦力値+50。
 聖剣だか何だか知らないが、俺の方が神に愛されている。
 セラに刺されて発動したのは昨日のことだったが、12時間のインターバルをクリアしていて良かった。

 戦力値172に達した俺は、戦力値145のクオンを殴り飛ばした。

「あがうぅぅぅ」

 変な呻き声を出して地面に転がる勇者。
 俺を見たカナミ達は驚愕している。

「兄さん……! 本当に無事なのですか!?」
「ああ、生きてるよ。もう駄目かと思ったが上手く致命傷を避けたんだ」

 もちろん嘘だけどな。
 スキルがなかったら終わってた。

「心配させるなよ!」
「無事で良かったわ」

 女達は安堵していたが、焦っているのは神官――じゃない、聖女のミイナだ。

「そんな、神に選ばれた勇者が負けるはずが……」
「神に選ばれたのは俺だ」

 地面でおねんねしてる勇者から聖剣を奪う。

「か、返せ。それは僕にしか扱えない」
「そう思うんなら試してみろ」
「天罰が下るぞ……!」

 水の魔剣を勇者クオンに放る。
 クオンは俺が聖剣を握ったのを確認して、ほくそ笑んでいた。

「はは、お前は今から聖剣の裁きを受けるぞ。聖剣は資格がない者が握ると雷を落とすんだ。さあ、裁きの時だ!」

 俺のステータスは問題なく112+50+30で192になっている。
 つまり、聖剣は俺の所有物になったということだ。

「は? 馬鹿な……!」
「ああ、分かったぞ。お前は聖剣を運ぶ役だったんじゃないか? 見ろ、聖剣は俺を担い手として認めてくれたようだ」

 聖剣は持ち主が手放しても瞬間移動で手元に戻る機能があるらしい。
 俺は鑑定で知った事実を試す為に聖剣を空に放る。
 クルクルと空の彼方に消えた聖剣だが、俺が『戻れ』と念じると手元に戻ってきた。

「ば、馬鹿な……! 嘘だ! 僕は聖剣の勇者、クオンなんだぁぁぁ!」

 水の魔剣を構えたクオンが血走った目で迫ってくる。
 FXで有り金全部溶かした人のような顔をしているが大丈夫だろうか。

 もちろん俺の相手ではないので192の戦力値で125のクオンを舐めプしてやる。最早剣を使う必要すらなくなっていたので、俺は聖剣を地面に突き刺すと素手で相手をしてやった。
 攻撃を完全に避け切り、最後はワンパンで沈めてやった。

「ヴぉおおえええ」

 腹を殴ってやったら綺麗に全部吐いてしまった。

「僕は……僕はまだ負けてないぃぃぃ」
「いいえ、元勇者様。あなたの負けです」

 ミイナが寂しそうにクオンを見下ろしている。

「聖剣がこの方を選んだのです」
「ふざけるなぁぁぁ! 今まで誰が勇者として戦ってきたと思ってるんだ! この僕が、祖国を守ってきたんだ!」
「今までご苦労様でした」

 言って、ミイナが俺に跪いた。

 美しい娘だが、何より胸が修道服を盛り上げている。
 ミイナは伏し目がちに地面を見ている為、俺の視線には気づいていないようだ。

「勇者様、どうかこの国を、この世界をお救い下さい」
「魔王を倒せという話なら断るぞ。そんなことをする理由もないからな」

 第一、魔王の戦力値は300。
 挑んでも返り討ちに遭うだけだ。

「いいえ、なりません。あなた様は聖剣の担い手です」
「勝手にこいつが俺を気に入っただけだ」
「それでもです。聖剣は代々魔王を討つ者のみに――」

 勝手に解説し始めた。
 俺が無視しても真剣に話し続ける鉄のメンタルには賞賛の気持ちすら抱いてしまいそうだ。

 普通に迷惑なのだが……。
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