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17 少し針のむしろ
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俺はセラを連れてサルマンドのギルドを訪ねた。
面談は明日の予定だったが、こちらの事情でずらしてもらう。
『兄が倒れたと聞いた時、心のどこかで安堵していたの。もう兄を止めなくていいんだって。あなたのような気持ちのいい人が倒してくれて良かったのかもしれない』
残酷な兄のせいでセラはいらない苦労をしてきた。
このまま裁かれるなど、そんなことは虚しすぎる。
サルマンドのギルドマスターは生真面目な男だった。
眼鏡を掛けたインテリタイプで、ダイババだけではなくセラのことも衛兵に突き出せとうるさかった。
だが、俺にも言い分はある。
俺はセラと話し合い、彼女を奴隷にした。
状況的にはネリスと契約した時に似ているが、今回は本当にセラを守る為に契約した形だ。ラムネアの法では、冒険者が依頼をこなすなかで得たものは冒険者に所有する権利が認められている。俺はダイババのアジトを落とした時に、セラを得たのだと言い張った。
まあ、具体的にはこんな形だな。
「……依頼をこなす際に所有した物は、冒険者に所有権が認められる。これは国王が保証したことだ。それをギルドマスターのお前が覆すのか?」
「犯罪者を保護することは許されない。そんなことを許せば冒険者全体へのヘイトが溜まる。貴様の身勝手で冒険者を危険に晒すな!」
「お前は俺の権利を保障しろ。そうでないならギルドマスターを降りろ。俺が代わりに皆の権利を守ってやる」
俺がそこまで言い切ると、ギルドマスターは鋭く睨んできた。
そして、すぐさま王都に文を出した。
「王都に彼女を連れていき、そこでギルドマスターと話せ。私が正しいか貴様が正しいか、王都で決める。くれぐれも女を逃がすなよ。そんなことになれば貴様だけじゃない。私まで裁かれるからな」
「王都へは明日の早朝、出立する。夕刻には到着するだろう。それと、一つ頼まれてくれ。水の精霊のいるオアシスへ酒を供えるようにして欲しい」
「何? なぜそんなことをする必要がある」
「何でもいいから手配しろ。水の精霊がいなくなればこの辺りは不毛の砂漠に戻るぞ」
「無茶苦茶な奴め……。さっさと王都へ行け! この疫病神が!」
出るのは明日だと言ってるだろう。
俺はセラを連れて宿へ戻った。
彼女を連れた俺が戻ると、当然のことだがカナミとネリスは激怒した。
「どういうことですか!? 犯罪者を部屋に連れ込むなど、寝首をかけと言うようなものです!」
「お前、あたし達に話さずそれはないだろ! 説明しろよ!」
「タクマを責めないでちょうだい。彼は私を保護してくれたのよ」
セラが俺の腕を抱いて密着する。
こいつ、身持ちが固い癖に挑発するような真似を……。
カナミが力づくで俺を引っ張り、ネリスが威嚇した。
「心配しなくても魔法を使った奴隷契約は結んである。危険はない。それと、彼女は実の兄に強制されてアジトに軟禁されていたんだ。セラに罪はない」
「兄さん、本当にやりたい放題ですね。敵まで懐に近づけるのは本当にいけないと思います」
「じゃあ見殺しにしろって言うのか。実の兄が大悪党で、それを止める為に盗賊にならざるを得なかった彼女を、見殺しにしろと?」
「そうは言うけど、アジトでタクマのことを殺そうとしただろ。清廉潔白な女には見えないけどな」
「男は全部敵だと思ってたのよ。でも、タクマは違った。心を入れ替えると誓うわ」
セラはそう言うが、まあ当然のことながらカナミとネリスが信じる様子はない。
今日は部屋を移して泊まるつもりだが、揉めそうだな。
「何度でも言います。兄さんが引き取ることはないです」
「他に誰もいないから俺が引き取ったんだ。俺は彼女が更生できると信じたい」
「いや、信じるのは勝手だけどさ。こいつらが殺した家族の前でも同じことが言えるのか? せっかくダイババを倒して英雄になれたのに、その可能性を不意にしてまで保護しなきゃいけないのか?」
ああ、その点なら問題はない。
「私は正当防衛以外で堅気に手を出したことはないわ。唯一の例外はアジトへの侵入者だけど、今のところはタクマだけね」
「そういうことだ。彼女は堅気には手を出してない。お前達、俺を悪人扱いする前に話を聞いてくれ。彼女は人身売買にも関わってはいない。そうだろ?」
「それはそうだけど、犯罪を止めるのに力不足だったことは否定できないわ。一応、助けられる範囲で逃がしたりはしてきたけど……」
「ほら、セラがいたことで助かった命だって沢山あるんだ。それでも彼女を見殺しにしろと? おい、何とか言えよ!」
俺は心が羽毛のように軽くなった。
やっぱり俺が思った通り、セラはそんなに悪くない娘だったな!
約束を破って俺とセックスしてくれなかったけど。
セラは本当にいい娘だ。
思わず頭を撫でると、セラが恥ずかしそうにした。
瞬間、カナミが切れた。
「兄さんは私の兄さんですよねぇ!?」
「お、落ち着けよ」
切れすぎてカナミの声が裏返ってた。
ネリスも引いてるぞ……。
「兄さん、本気でウザイです。私が助けなかったら殺されていたかもしれないのに」
「あー、タクマ、あまり犯罪者の言うことを真に受けるなよ。あたしもセラのことは信用できないわ」
二人の言い分も正しいのは分かってる。
でも……な。もう守るって約束したんだ。
「……タクマ。無理そうだったら私のことは諦めてくれてもいいわ」
「それでも、やれるだけはやるさ」
王都のギルドではセラの弁護をしないといけないが、出てきた情報は比較的俺に優位に働きそうなものだった。
とはいえ、まだどう転ぶかは分からない。
王子とも接触したいな。
俺には自分や仲間の身を守るコネクションがまだない。
王子とその後見人であるアルジャン公爵。
二人を味方につけることが出来れば、セラを巡る攻防でも優位に動けそうだ。
しかし現状、俺は王子の依頼を達成して盗賊王アリババを捕縛、彼らの言う奴隷制度の撤廃に貢献したものの、敵の身内を一人保護して奴隷にしてしまっている。
拍手喝采で迎え入れられるところで爆弾を抱きこんでしまった俺を、王子達はどう扱うか……。
切り捨てる? それとも取り込もうとする?
全ては今後の行動次第だ。
しかしその前に、怒らせてしまったカナミとネリスのフォローに回ろうと思う。
俺ってどうしてすぐに人を怒らせてしまうんだろうな。
面談は明日の予定だったが、こちらの事情でずらしてもらう。
『兄が倒れたと聞いた時、心のどこかで安堵していたの。もう兄を止めなくていいんだって。あなたのような気持ちのいい人が倒してくれて良かったのかもしれない』
残酷な兄のせいでセラはいらない苦労をしてきた。
このまま裁かれるなど、そんなことは虚しすぎる。
サルマンドのギルドマスターは生真面目な男だった。
眼鏡を掛けたインテリタイプで、ダイババだけではなくセラのことも衛兵に突き出せとうるさかった。
だが、俺にも言い分はある。
俺はセラと話し合い、彼女を奴隷にした。
状況的にはネリスと契約した時に似ているが、今回は本当にセラを守る為に契約した形だ。ラムネアの法では、冒険者が依頼をこなすなかで得たものは冒険者に所有する権利が認められている。俺はダイババのアジトを落とした時に、セラを得たのだと言い張った。
まあ、具体的にはこんな形だな。
「……依頼をこなす際に所有した物は、冒険者に所有権が認められる。これは国王が保証したことだ。それをギルドマスターのお前が覆すのか?」
「犯罪者を保護することは許されない。そんなことを許せば冒険者全体へのヘイトが溜まる。貴様の身勝手で冒険者を危険に晒すな!」
「お前は俺の権利を保障しろ。そうでないならギルドマスターを降りろ。俺が代わりに皆の権利を守ってやる」
俺がそこまで言い切ると、ギルドマスターは鋭く睨んできた。
そして、すぐさま王都に文を出した。
「王都に彼女を連れていき、そこでギルドマスターと話せ。私が正しいか貴様が正しいか、王都で決める。くれぐれも女を逃がすなよ。そんなことになれば貴様だけじゃない。私まで裁かれるからな」
「王都へは明日の早朝、出立する。夕刻には到着するだろう。それと、一つ頼まれてくれ。水の精霊のいるオアシスへ酒を供えるようにして欲しい」
「何? なぜそんなことをする必要がある」
「何でもいいから手配しろ。水の精霊がいなくなればこの辺りは不毛の砂漠に戻るぞ」
「無茶苦茶な奴め……。さっさと王都へ行け! この疫病神が!」
出るのは明日だと言ってるだろう。
俺はセラを連れて宿へ戻った。
彼女を連れた俺が戻ると、当然のことだがカナミとネリスは激怒した。
「どういうことですか!? 犯罪者を部屋に連れ込むなど、寝首をかけと言うようなものです!」
「お前、あたし達に話さずそれはないだろ! 説明しろよ!」
「タクマを責めないでちょうだい。彼は私を保護してくれたのよ」
セラが俺の腕を抱いて密着する。
こいつ、身持ちが固い癖に挑発するような真似を……。
カナミが力づくで俺を引っ張り、ネリスが威嚇した。
「心配しなくても魔法を使った奴隷契約は結んである。危険はない。それと、彼女は実の兄に強制されてアジトに軟禁されていたんだ。セラに罪はない」
「兄さん、本当にやりたい放題ですね。敵まで懐に近づけるのは本当にいけないと思います」
「じゃあ見殺しにしろって言うのか。実の兄が大悪党で、それを止める為に盗賊にならざるを得なかった彼女を、見殺しにしろと?」
「そうは言うけど、アジトでタクマのことを殺そうとしただろ。清廉潔白な女には見えないけどな」
「男は全部敵だと思ってたのよ。でも、タクマは違った。心を入れ替えると誓うわ」
セラはそう言うが、まあ当然のことながらカナミとネリスが信じる様子はない。
今日は部屋を移して泊まるつもりだが、揉めそうだな。
「何度でも言います。兄さんが引き取ることはないです」
「他に誰もいないから俺が引き取ったんだ。俺は彼女が更生できると信じたい」
「いや、信じるのは勝手だけどさ。こいつらが殺した家族の前でも同じことが言えるのか? せっかくダイババを倒して英雄になれたのに、その可能性を不意にしてまで保護しなきゃいけないのか?」
ああ、その点なら問題はない。
「私は正当防衛以外で堅気に手を出したことはないわ。唯一の例外はアジトへの侵入者だけど、今のところはタクマだけね」
「そういうことだ。彼女は堅気には手を出してない。お前達、俺を悪人扱いする前に話を聞いてくれ。彼女は人身売買にも関わってはいない。そうだろ?」
「それはそうだけど、犯罪を止めるのに力不足だったことは否定できないわ。一応、助けられる範囲で逃がしたりはしてきたけど……」
「ほら、セラがいたことで助かった命だって沢山あるんだ。それでも彼女を見殺しにしろと? おい、何とか言えよ!」
俺は心が羽毛のように軽くなった。
やっぱり俺が思った通り、セラはそんなに悪くない娘だったな!
約束を破って俺とセックスしてくれなかったけど。
セラは本当にいい娘だ。
思わず頭を撫でると、セラが恥ずかしそうにした。
瞬間、カナミが切れた。
「兄さんは私の兄さんですよねぇ!?」
「お、落ち着けよ」
切れすぎてカナミの声が裏返ってた。
ネリスも引いてるぞ……。
「兄さん、本気でウザイです。私が助けなかったら殺されていたかもしれないのに」
「あー、タクマ、あまり犯罪者の言うことを真に受けるなよ。あたしもセラのことは信用できないわ」
二人の言い分も正しいのは分かってる。
でも……な。もう守るって約束したんだ。
「……タクマ。無理そうだったら私のことは諦めてくれてもいいわ」
「それでも、やれるだけはやるさ」
王都のギルドではセラの弁護をしないといけないが、出てきた情報は比較的俺に優位に働きそうなものだった。
とはいえ、まだどう転ぶかは分からない。
王子とも接触したいな。
俺には自分や仲間の身を守るコネクションがまだない。
王子とその後見人であるアルジャン公爵。
二人を味方につけることが出来れば、セラを巡る攻防でも優位に動けそうだ。
しかし現状、俺は王子の依頼を達成して盗賊王アリババを捕縛、彼らの言う奴隷制度の撤廃に貢献したものの、敵の身内を一人保護して奴隷にしてしまっている。
拍手喝采で迎え入れられるところで爆弾を抱きこんでしまった俺を、王子達はどう扱うか……。
切り捨てる? それとも取り込もうとする?
全ては今後の行動次第だ。
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