17 / 21
16
しおりを挟む
ご無沙汰しております。
スランプからいまだ抜け出せてはおりませんが、チマチマと更新していきます。
─────────────────────
久しぶりに、父と顔を合わせることになった。
「テアニア、元気にしていたかい?」
父は少し痩せたように見える。表情に覇気も少ない気がする。
「はい、お父様達のおかげで元気に過ごしています。···お父様はお疲れですか?」
「ああ、いや···。そうだね、ここまでは長旅だったからかな」
「···お身体には気をつけてくださいね。お父様が倒れてしまったら、私たち家族は悲しみますから」
テアニアが心配そうに声をかければ、父は感極まったように瞳を潤ませたかと思えば、テアニアを優しく抱きしめた。
その時に、何か聞こえた気がしたがテアニアには聞き取れなかった。
「テアニア、お母様は?」
父は拘束を解いて、部屋を見渡したが母はいなかった。
「今は裏庭に出ておいでです」
「そうか···まあ、また後にしよう」
父が旅装から着替える為に部屋を出て少しして、母がやってきた。どうやら入れ違いになったようだ。
「テアニア、お父様は?」
テアニアは夫婦揃って同じセリフを言うものだから、つい笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いえ、お父様もお母様も全く同じセリフをおっしゃるので。お父様は着替えに行かれました」
「そう、お戻りになるまで待ちましょう」
母がソファに座ると、程なくして母付きの侍女がティーセットを持って部屋に入ってきた。
侍女は手際よくお茶の準備をしていく。ちょうど準備が終わる頃に父が戻ってくる。
「ああ、オーレリア。来ていたんだね」
「ええ、旦那様。長旅、ご苦労様でございました」
基本的にサンヨルフにある家では貴族らしくしている必要もそんなにないため、出迎え等は特にしない。もちろん王都の家ではするが。
「旦那様、疲れによく効くハーブティーです」
母が裏庭にいたのはこのハーブを採るためだったのだろう。家のあちこちにいろんなハーブが植えられていて、ここでは紅茶よりもよく飲む。
「ありがとう。・・・・・・さて、何から話そうかね」
父が出されたハーブティーを一口含んでからため息を吐く。
あまり良い話ではないのだろうか。
「うん、結論から言ってしまえば・・・テアニアとバードランド殿下の婚約は継続されることになった」
父の言葉に部屋の空気が固まる。
「旦那様、今、聞き間違いでなければ婚約は継続、とおっしゃいました?」
「ああ、継続だ」
「・・・私は、バードランド殿下と婚約していたのですか?」
2年前のお茶会は、確か婚約するか否かは別で、いわゆるお試しの顔合わせ程度のものだったとテアニアは認識していた。それを父に確認してみれば
「そうだ、陛下とはテアニアの気持ち次第で決めても良いと話をしていた。もちろん、第一惻妃様にもお伝えされているはずだ。そもそも、テアニアが帰って気持ちを効く前にあんなことになってしまって・・・そもそも、それから婚約の話自体は陛下とはしていなかった」
「そもそも、ここに来る前に婚約が決定だと言ってましたけど、承諾しませんでしたわよね?」
「そうだな、そのはずだったが・・・どうやら知らぬ間に第一惻妃様が貴族院にごり押ししていたらしくてなぁ・・・」
「ですが、陛下の承認もありますわよね?」
そこで、父は黙ってしまった。敏い母は何かに気づいたようだった。
「もしかして、陛下は第一惻妃に言いくるめられたのですか?」
「・・・・・・ああ、そのようだ。第一惻妃様の言では、承諾も得ており、婚約者となった旨を伝える使者の手配も済んでいると」
「あまりにもおざなりですわね、陛下は。こちらが散々婚約を渋っていたというのに」
「・・・・・・今回は庇いきれないな、さすがに」
怒れる母に対し、父は苦笑する。
「すまない、テアニア。結局はお前に苦労をかけることになる」
「・・・決まってしまったことですから、侯爵家に恥じぬよう勤めは果たしますわ。お父様は何も悪くありませんし」
すっかり室内は重苦しい雰囲気都なってしまった。そこに追い打ちをかけるように母は言った。
「加えて、よくない噂も流れていそうですわね・・・」
「よくない、噂ですか?」
テアニアは社交界のことは、まだよく知らないが、母には思うところがあるのだろう。
「ええ、社交界は相手を蹴落としてこそと言う側面があります。第一王子の婚約者となったテアニアが表立って動けば、それをよく思わない輩がありもしない話を想像で広げたりするものです」
ましてや2年たったとはいえ、箝口令が敷かれていたはずのテアニアが誘拐されたなどと噂(事実ではある)が通常よりも早く広まったのだ。しかも、第一王子派の伯爵家令嬢がお茶会でそれを口に出した。
第一側妃に何かあるのは確かだろう。
「旦那様、私は今後社交界へは一切出ません。もちろん、サンヨルフから出すものも全て流通を止めてください」
「ああ、オーレリアがそう言うと思ってすでに撤退の準備が始まっている。早ければ一月以内には全て戻ってくるだろう」
「テアニア」
「はい」
母が侯爵夫人としてテアニアに呼びかける。テアニアは自然と背筋を改めて伸ばした。
「ここを出るまでに社交界について叩き込みます。辛い思いをさせますが、あなたのためです」
これは戦いなのだと、母の目は訴えていた。
「肝に銘じ、精進いたします。お母様、よろしくお願いいたします」
甘える時間はここまでだと、テアニアは自身を叱咤した。
スランプからいまだ抜け出せてはおりませんが、チマチマと更新していきます。
─────────────────────
久しぶりに、父と顔を合わせることになった。
「テアニア、元気にしていたかい?」
父は少し痩せたように見える。表情に覇気も少ない気がする。
「はい、お父様達のおかげで元気に過ごしています。···お父様はお疲れですか?」
「ああ、いや···。そうだね、ここまでは長旅だったからかな」
「···お身体には気をつけてくださいね。お父様が倒れてしまったら、私たち家族は悲しみますから」
テアニアが心配そうに声をかければ、父は感極まったように瞳を潤ませたかと思えば、テアニアを優しく抱きしめた。
その時に、何か聞こえた気がしたがテアニアには聞き取れなかった。
「テアニア、お母様は?」
父は拘束を解いて、部屋を見渡したが母はいなかった。
「今は裏庭に出ておいでです」
「そうか···まあ、また後にしよう」
父が旅装から着替える為に部屋を出て少しして、母がやってきた。どうやら入れ違いになったようだ。
「テアニア、お父様は?」
テアニアは夫婦揃って同じセリフを言うものだから、つい笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いえ、お父様もお母様も全く同じセリフをおっしゃるので。お父様は着替えに行かれました」
「そう、お戻りになるまで待ちましょう」
母がソファに座ると、程なくして母付きの侍女がティーセットを持って部屋に入ってきた。
侍女は手際よくお茶の準備をしていく。ちょうど準備が終わる頃に父が戻ってくる。
「ああ、オーレリア。来ていたんだね」
「ええ、旦那様。長旅、ご苦労様でございました」
基本的にサンヨルフにある家では貴族らしくしている必要もそんなにないため、出迎え等は特にしない。もちろん王都の家ではするが。
「旦那様、疲れによく効くハーブティーです」
母が裏庭にいたのはこのハーブを採るためだったのだろう。家のあちこちにいろんなハーブが植えられていて、ここでは紅茶よりもよく飲む。
「ありがとう。・・・・・・さて、何から話そうかね」
父が出されたハーブティーを一口含んでからため息を吐く。
あまり良い話ではないのだろうか。
「うん、結論から言ってしまえば・・・テアニアとバードランド殿下の婚約は継続されることになった」
父の言葉に部屋の空気が固まる。
「旦那様、今、聞き間違いでなければ婚約は継続、とおっしゃいました?」
「ああ、継続だ」
「・・・私は、バードランド殿下と婚約していたのですか?」
2年前のお茶会は、確か婚約するか否かは別で、いわゆるお試しの顔合わせ程度のものだったとテアニアは認識していた。それを父に確認してみれば
「そうだ、陛下とはテアニアの気持ち次第で決めても良いと話をしていた。もちろん、第一惻妃様にもお伝えされているはずだ。そもそも、テアニアが帰って気持ちを効く前にあんなことになってしまって・・・そもそも、それから婚約の話自体は陛下とはしていなかった」
「そもそも、ここに来る前に婚約が決定だと言ってましたけど、承諾しませんでしたわよね?」
「そうだな、そのはずだったが・・・どうやら知らぬ間に第一惻妃様が貴族院にごり押ししていたらしくてなぁ・・・」
「ですが、陛下の承認もありますわよね?」
そこで、父は黙ってしまった。敏い母は何かに気づいたようだった。
「もしかして、陛下は第一惻妃に言いくるめられたのですか?」
「・・・・・・ああ、そのようだ。第一惻妃様の言では、承諾も得ており、婚約者となった旨を伝える使者の手配も済んでいると」
「あまりにもおざなりですわね、陛下は。こちらが散々婚約を渋っていたというのに」
「・・・・・・今回は庇いきれないな、さすがに」
怒れる母に対し、父は苦笑する。
「すまない、テアニア。結局はお前に苦労をかけることになる」
「・・・決まってしまったことですから、侯爵家に恥じぬよう勤めは果たしますわ。お父様は何も悪くありませんし」
すっかり室内は重苦しい雰囲気都なってしまった。そこに追い打ちをかけるように母は言った。
「加えて、よくない噂も流れていそうですわね・・・」
「よくない、噂ですか?」
テアニアは社交界のことは、まだよく知らないが、母には思うところがあるのだろう。
「ええ、社交界は相手を蹴落としてこそと言う側面があります。第一王子の婚約者となったテアニアが表立って動けば、それをよく思わない輩がありもしない話を想像で広げたりするものです」
ましてや2年たったとはいえ、箝口令が敷かれていたはずのテアニアが誘拐されたなどと噂(事実ではある)が通常よりも早く広まったのだ。しかも、第一王子派の伯爵家令嬢がお茶会でそれを口に出した。
第一側妃に何かあるのは確かだろう。
「旦那様、私は今後社交界へは一切出ません。もちろん、サンヨルフから出すものも全て流通を止めてください」
「ああ、オーレリアがそう言うと思ってすでに撤退の準備が始まっている。早ければ一月以内には全て戻ってくるだろう」
「テアニア」
「はい」
母が侯爵夫人としてテアニアに呼びかける。テアニアは自然と背筋を改めて伸ばした。
「ここを出るまでに社交界について叩き込みます。辛い思いをさせますが、あなたのためです」
これは戦いなのだと、母の目は訴えていた。
「肝に銘じ、精進いたします。お母様、よろしくお願いいたします」
甘える時間はここまでだと、テアニアは自身を叱咤した。
0
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される
白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?
完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
水鳥楓椛
恋愛
わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。
なんでそんなことが分かるかって?
それはわたくしに前世の記憶があるから。
婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?
でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。
だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。
さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる