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傷物の令嬢としての噂が広がったテアニアは、療養を兼ねて噂のほとぼりが冷めるまでサンヨルフで大人しく過ごすことになった。
サンヨルフには母が着いて来ることになっている。
父は後処理があり、姉兄は成人がすんでいるので各自に任されたが、暫くは社交をすることにしたようだった。
「お父様、テアニアの噂がこんなに早く流れるなんて絶対におかしいですわ」
「確かに派手に襲撃をされましたが、夕刻の薄暗い時間帯。しかも、王族の乗る馬車で紋はなかったと言うのに内容が的確すぎます」
「旦那様、この子達の言う通りですわ。噂の元を辿る必要があります」
三者三様に父に詰め寄るが、父は渋い顔をした。
「君たちが誰を疑っているかは察しがつくが、あまり
下手な手出しをすると痛い目を見るのはこちらだ」
面倒なことに巻き込まれたであろうことは、ここいにいる全員がわかっていた。
「······父上。テアニアには、何も言わないのですか?」
「ああ、言うつもりはない。まだ事件のことを引きずっているようだし、ゆっくり休ませてやりたい」
「私は言うべきだと思います」
テアニアの負担を軽くしてを守ろうと、男性陣は今起きていること、これから起こるであろうことは伏せておきたかった。
しかし、ロミリアは真っ向から否定した。
「確かに心労を増やすことは本意ではありませんが、テアニアには隠さず話して今後の身の振り方を考えさせるべきですわ」
「しかしだな······」
「旦那様。テアニアはまだ幼いかもしれませんが、馬鹿ではありません。そして、ただ護られるだけでもありませんわ。ねぇ?」
オーレリアが誰かに呼びかけるように言えば、執務室の扉がそっと開かれた。
その隙間から、テアニアは俯き加減で入ってきた。
「この子、風魔法を使って聞いていましたわよ」
「······ご、ごめんなさい」
テアニアは思っていた以上に今回の事件のショックが大きく、眠れないこともあったり、大きな音に必要以上に驚いて身体を強ばらせるようになったり、薄暗い部屋で一人で過ごすことか難しくなった。
そんな様子を見ていたからこその配慮で話し合いには呼ばれなかったのだろう。
テアニア自身は自分に関係あることを話すだろうときになって盗み聞きしていた。だが、盗み聞き自体は褒められたことではないため、叱られることを覚悟して俯いたままだ。
「······いや。テアニア、顔をあげなさい」
父に言われた通りに、恐る恐る視線をあげれば予想に反して皆優しくこちらを見ていた。
「テアニアが関わることだ。しっかりと話し合わなければいけないのに、すまなかったな」
「お父様······」
それから、テアニアが誘拐されていた間のことや今後どうするかを聞かされた。
テアニアが攫われた日、帰りが遅いと王宮へと使用人を遣わせれば、慌てたように帰ってきた。
王宮側も寝耳に水だとばかりに何かの間違いではないかと言っていたという。
同行したはずのブロワ伯爵にも連絡が取れず、そこから密やかに捜索が始められ、夜明け頃に王都から出た森で馬車が発見された。
母の魔法を介して精霊に協力を求めようとしたが、王都周辺には精霊自体が少ない上に、呼び掛けに反応をしなかった。
すべてが後手に周り、テアニア達の捜索に時間がかかってしまった。
発見されたのは王都内のスラム街の一角にあった民家で、そこにいた男達を捕まえはしたが男達は家に誰も入らないように見張るように依頼されただけだと言う。その依頼金は内容に対しては随分と多く、しかし男達は金欲しさに疑問を呈することなく引き受けただけだった。
そこから犯人を辿ろうにも間に何人も介し、容姿も曖昧で辿ることが難しかった。
一方で、捜索の最中にテアニアが誘拐されたとの噂が流れ出した。
表向き、何も無いように振る舞う必要があるためにオーレリアとロミリアはお茶会に出かけていた。
ロミリアはそんな場合ではないと出席を一時は拒んだが、情報収集を兼ねていると諭されて渋々出席した先での事だった。
「あら、もう一人のご令嬢が大変な時にこちらにいらしてよろしいのかしら?」
そう言ったのは、学園で常にロミリアを目の敵のように敵視している伯爵令嬢だった。
ロミリアは特に反応を返さず、近くに座っていた友人と談笑を交わす。それに腹を立てた令嬢が愚かにも騒ぎを起こした。
「無視をするなんて、いい度胸ね!家でそんな教育をされるから誘拐される程の恨みを買うのだわ!!」
令嬢はカップに残っていたお茶をロミリアにかける。
主催していた家の衛兵が令嬢の大声を聞いて駆けつけていたので、すぐさま令嬢は取り押さえららた。
「お母様、帰りましょう」
お茶をかけられたにも関わらず、ロミリアは動じることなく母に帰るよう促した。母もそれに頷き、主催者に辞去の挨拶をして2人は会場をあとにした。
そのお茶会で、知られているはずのない誘拐の話が既に回っていたことを知った。
そして、それをきっかけにテアニアを探し出すことができた。
「怪しいのは第一側妃の周りだ」
ただし、動向に謎が残る。
ハーゲン侯爵家を排除したいなら、王子妃として迎えようとしないだろう。そもそも、王子妃として迎えようとしているにも関わらず、わざわざ誘拐騒ぎを起こす意味がわからなかった。
「警戒するにこしたことはない。ひとまず、我が侯爵家は王家とはできる限り距離を置く」
テアニアは、そのまま外部の人間と会うことも無くサンヨルフへと向かった。
サンヨルフには母が着いて来ることになっている。
父は後処理があり、姉兄は成人がすんでいるので各自に任されたが、暫くは社交をすることにしたようだった。
「お父様、テアニアの噂がこんなに早く流れるなんて絶対におかしいですわ」
「確かに派手に襲撃をされましたが、夕刻の薄暗い時間帯。しかも、王族の乗る馬車で紋はなかったと言うのに内容が的確すぎます」
「旦那様、この子達の言う通りですわ。噂の元を辿る必要があります」
三者三様に父に詰め寄るが、父は渋い顔をした。
「君たちが誰を疑っているかは察しがつくが、あまり
下手な手出しをすると痛い目を見るのはこちらだ」
面倒なことに巻き込まれたであろうことは、ここいにいる全員がわかっていた。
「······父上。テアニアには、何も言わないのですか?」
「ああ、言うつもりはない。まだ事件のことを引きずっているようだし、ゆっくり休ませてやりたい」
「私は言うべきだと思います」
テアニアの負担を軽くしてを守ろうと、男性陣は今起きていること、これから起こるであろうことは伏せておきたかった。
しかし、ロミリアは真っ向から否定した。
「確かに心労を増やすことは本意ではありませんが、テアニアには隠さず話して今後の身の振り方を考えさせるべきですわ」
「しかしだな······」
「旦那様。テアニアはまだ幼いかもしれませんが、馬鹿ではありません。そして、ただ護られるだけでもありませんわ。ねぇ?」
オーレリアが誰かに呼びかけるように言えば、執務室の扉がそっと開かれた。
その隙間から、テアニアは俯き加減で入ってきた。
「この子、風魔法を使って聞いていましたわよ」
「······ご、ごめんなさい」
テアニアは思っていた以上に今回の事件のショックが大きく、眠れないこともあったり、大きな音に必要以上に驚いて身体を強ばらせるようになったり、薄暗い部屋で一人で過ごすことか難しくなった。
そんな様子を見ていたからこその配慮で話し合いには呼ばれなかったのだろう。
テアニア自身は自分に関係あることを話すだろうときになって盗み聞きしていた。だが、盗み聞き自体は褒められたことではないため、叱られることを覚悟して俯いたままだ。
「······いや。テアニア、顔をあげなさい」
父に言われた通りに、恐る恐る視線をあげれば予想に反して皆優しくこちらを見ていた。
「テアニアが関わることだ。しっかりと話し合わなければいけないのに、すまなかったな」
「お父様······」
それから、テアニアが誘拐されていた間のことや今後どうするかを聞かされた。
テアニアが攫われた日、帰りが遅いと王宮へと使用人を遣わせれば、慌てたように帰ってきた。
王宮側も寝耳に水だとばかりに何かの間違いではないかと言っていたという。
同行したはずのブロワ伯爵にも連絡が取れず、そこから密やかに捜索が始められ、夜明け頃に王都から出た森で馬車が発見された。
母の魔法を介して精霊に協力を求めようとしたが、王都周辺には精霊自体が少ない上に、呼び掛けに反応をしなかった。
すべてが後手に周り、テアニア達の捜索に時間がかかってしまった。
発見されたのは王都内のスラム街の一角にあった民家で、そこにいた男達を捕まえはしたが男達は家に誰も入らないように見張るように依頼されただけだと言う。その依頼金は内容に対しては随分と多く、しかし男達は金欲しさに疑問を呈することなく引き受けただけだった。
そこから犯人を辿ろうにも間に何人も介し、容姿も曖昧で辿ることが難しかった。
一方で、捜索の最中にテアニアが誘拐されたとの噂が流れ出した。
表向き、何も無いように振る舞う必要があるためにオーレリアとロミリアはお茶会に出かけていた。
ロミリアはそんな場合ではないと出席を一時は拒んだが、情報収集を兼ねていると諭されて渋々出席した先での事だった。
「あら、もう一人のご令嬢が大変な時にこちらにいらしてよろしいのかしら?」
そう言ったのは、学園で常にロミリアを目の敵のように敵視している伯爵令嬢だった。
ロミリアは特に反応を返さず、近くに座っていた友人と談笑を交わす。それに腹を立てた令嬢が愚かにも騒ぎを起こした。
「無視をするなんて、いい度胸ね!家でそんな教育をされるから誘拐される程の恨みを買うのだわ!!」
令嬢はカップに残っていたお茶をロミリアにかける。
主催していた家の衛兵が令嬢の大声を聞いて駆けつけていたので、すぐさま令嬢は取り押さえららた。
「お母様、帰りましょう」
お茶をかけられたにも関わらず、ロミリアは動じることなく母に帰るよう促した。母もそれに頷き、主催者に辞去の挨拶をして2人は会場をあとにした。
そのお茶会で、知られているはずのない誘拐の話が既に回っていたことを知った。
そして、それをきっかけにテアニアを探し出すことができた。
「怪しいのは第一側妃の周りだ」
ただし、動向に謎が残る。
ハーゲン侯爵家を排除したいなら、王子妃として迎えようとしないだろう。そもそも、王子妃として迎えようとしているにも関わらず、わざわざ誘拐騒ぎを起こす意味がわからなかった。
「警戒するにこしたことはない。ひとまず、我が侯爵家は王家とはできる限り距離を置く」
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