一括りにしないでください

椿森

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 学年末まで、幾度かアルレンシア様やヘーゼル様、そのお茶会で知り合ったご令嬢方との交流させていただいた。その時間は至福と言っていいほど楽しいものだった。
 マナーや貴族としての常識がまだまだの私に、多くのことを丁寧に教えて下さった。
 また、私は私が知りうる限りの平民の生活について話した。たまに実演を交えることもあり、とても充実した時間が過ごせた。
 やはり平民は下賎な者、貴族の道具としか思ってもいない方々の目線は冷たいものだったが、積極的に関わらなければ言い訳だし、それなりに快適な学園生活を送ることが出来た。


 月日は過ぎて3学年の方々の卒業を祝うパーティーの日。
 事件は起きた。

 パーティーは夜会に準じたもののため、基本的にパートナーが必須。パートナーは男女1人ずつで1組なのは常識。猿でもわかる。にも関わらず、ドブソン男爵令嬢の愉快な子息達は婚約者を伴わず、男爵令嬢を囲むようにして会場に現れた。
 幸いにもアルレンシア様の婚約者である王太子様は卒業していたのでその輪にはいない。
 でも、司法大臣の子息の婚約者であるヘーゼル様を初めとしたご令嬢方はおひとりで入場されていた。

「ここで、皆に審議を問いたい!」

 卒業される3学年の中でもっとも高位である公爵子息様が壇上に上がり、会場全体に呼びかけた。
 壇上にはドブソン男爵令嬢と愉快な子息達がゾロゾロと上がっていた。
 奇しくも会場は、その異様な雰囲気に静まり返った。

「アルレンシア・サモア!アルレンシア・サモアはどこだ!」

アルレンシア様は王太子様が止めるのを制して歩みでる。

「何度も呼ばずとも聞こえております」
「ならば、さっさと出てくれば良いだろうが!」

 いや、無理でしょう。この人混みよ?
 きっと会場にいる生徒は誰しもが思っただろう。

「それで、ご要件はなんでしょうか。わたくし、パートナーをお待たせしておりますの」

 アルレンシア様のパートナー、つまりは王太子様だ。
 普通なら、なにやらしでかそうとしたとしても一旦は引くだろう。
 しかし、公爵子息は阿呆なのか。

「貴様のパートナーなんぞ知ったことか!」
「逃げようとしても無駄だぞ」

 所詮、高位貴族といえど次男以下の集まりだ。次男以下の人すべてとは思わないが、高位貴族であることに胡座をかき、嫡男でないからと腐った気持ちで己を研鑽しようとしない愚か者どもめ。
 ああ、王太子様のこめかみに青筋が浮かんでる!微笑みが冷たいし、目が笑ってない!!
 というか、なんで王太子様だと気づかない?!

「アルレンシア・サモア!貴様には罪がある!」
「そのように叫ばれなくも聞こえますわ」
「黙れ!発言を許してはいないぞ!」

 発言云々を言ったのは司法大臣の子息だ。
 彼の親は伯爵位だ。公爵子息が言ったなら、まあ一万歩譲ってわからなくもないが、お前は完全アウトだ。
 ほら!王太子様の周りの温度がまた下がった!

「エイミー・ドブソン男爵令嬢への数々の虐めは許し難い行いだ!」
「貴様の卑劣な行いの記録と証拠はここにある!言い逃れ出来ると思うなよ!」

 証拠、といって掲げられた紙の束。
 どこかの子息(主要な家や仲良くしてるご令嬢方の婚約者以外は覚えていない)がそれをおもむろに読み出した。

「ひとつ、エイミーの教科書を引き裂いた。
 ひとつ、お茶会に呼ばなかった。
 ひとつ、みっともない、娼婦のようだ、所詮は平民出だなどとと見下す数々の暴言を吐かれた。
 ひとつ、エイミーを突き飛ばし、噴水へ落水させたり、階段から転落させた」

 つらつらと、ドブソン男爵令嬢に起きたらしい出来事を述べていくが、これはつっこんでよいのかしら?

「以上がアルレンシア・サモアの罪深き行いだ」
「ふん、口を挟まなかったことは僥倖だが、言い訳すらしないのか」

 アルレンシア様は扇で口元を隠していたが、その視線は鋭いものだった。
 その視線に、子息たちは僅かに怯む。
 ドブソン男爵令嬢はわざとらしく怯えて見せて、近くの令息に「わたし···こ、怖いですぅ」なんて言いながらしなだれ掛かる。その令息は鼻の下が伸びている。なんて汚い顔面だこと!

「な、なんだその目は!貴様はこれから罰せられるのだ、そのような反抗的な態度など出来なくしてやるわ!」
「何故、ありもしない罪で罰せられなければならないのです?」
「この後に及んで白を切るつもりか!」
「わ、わたし···アルレンシアさんが謝ってくれれば、それで良いので······!」

 ブチリ、と何かが切れる音が聞こえた気がした。

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