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ボイコットされるまでの裏舞台
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結論から言うと、侍女長は来なかった。
セレン様がお帰りになってからも時間はあったが、大公殿下が顔を見せに来てくださった以外はどなたも訪ねては来なかった。
「セレン様に相談ね」
残念ながら人事権は今のところないので、セレン様を介しておく必要があるだろう。もちろん、解雇だが。
「なんのための身分制度かしら。しかも、わたくしを蔑ろにするなんて、ある意味勇気があるわ」
「本来であれば、有り得ませんね。知らぬ者など赤子くらいかと思っておりましたが」
身分をひけらかして周囲を傅かせることが好きな訳では無いが、王女という身の上で威厳は保たねばならないし、宗教活動を行う上でもその名が付きまとうので必然的に傅かれてしまう。
わたくしには、産まれた際に神よりいただいた名がある。
それは洗礼名と呼ばれ、洗礼名を持つものは神に近しいものとして扱われ、【祝福の子】と呼ばれるのがカティーラ教のを特徴のひとつである。
洗礼名をいただくのは、産まれた時の祝福を受ける際だけでなく、徳などを重ねていただける場合もある。
セレン様も洗礼名を持っており、彼女は後者にあたる。
セレン様のように後天的にいただいた場合、公表しない方もいるようだが、わたくしは王女として産まれた上に祝福を受けた時に洗礼名もいただいた。その事は国内外に広く伝えられ、わたくしが聖職者の道を選ぶきっかけにもなった出来事のひとつだ。
自ら言うことは憚られるが、侍女長になるような人物が他国とはいえ王女を蔑ろにすることも有り得ないが、知っていて祝福の子を雑に扱うような行為は異教徒だと言っているのと変わりがない。
侍女と今後の話をしていれば、扉がノックされる。
「ナルシア様、謁見の間までお越しくださいとのことです」
どうやら呼び出しがかかったようだ。
わざわざ謁見の間を選ぶあたり、立場を護りたいらしい。
「わかりました。向かいましょう」
案内をしてくれるのは、昨日とは違う侍女だった。同じだったら嫌味のひとつでも言ってやろうかと思っていたのに。
弱いものいじめの趣味はないが、仕事をしないものには叱責が必要だ。
長々と歩かされてようやく着いたのは、相変わらず趣味の悪い装飾が施された扉の前だった。
扉の前の護衛騎士達に睨まれるまではいかなくても威圧をされるが、そんなものは気になどせず。軽く会釈をすれば、驚いたように目を見開かれる。顔は覚えた。
そのまま、扉が開かれるとこの国の中枢を担う方々が列席していた。侍女長と思われる者も壁側に控えていた。
第一印象は大事だ。
笑顔を貼り付け、堂々と絨毯の上を進む。
王座の目の前で止まり、淑女の礼をとる。
「テンダリウム王国第二王女、ナルシア・ラヴァストーレ・テンダリウムですわ」
セレン様がお帰りになってからも時間はあったが、大公殿下が顔を見せに来てくださった以外はどなたも訪ねては来なかった。
「セレン様に相談ね」
残念ながら人事権は今のところないので、セレン様を介しておく必要があるだろう。もちろん、解雇だが。
「なんのための身分制度かしら。しかも、わたくしを蔑ろにするなんて、ある意味勇気があるわ」
「本来であれば、有り得ませんね。知らぬ者など赤子くらいかと思っておりましたが」
身分をひけらかして周囲を傅かせることが好きな訳では無いが、王女という身の上で威厳は保たねばならないし、宗教活動を行う上でもその名が付きまとうので必然的に傅かれてしまう。
わたくしには、産まれた際に神よりいただいた名がある。
それは洗礼名と呼ばれ、洗礼名を持つものは神に近しいものとして扱われ、【祝福の子】と呼ばれるのがカティーラ教のを特徴のひとつである。
洗礼名をいただくのは、産まれた時の祝福を受ける際だけでなく、徳などを重ねていただける場合もある。
セレン様も洗礼名を持っており、彼女は後者にあたる。
セレン様のように後天的にいただいた場合、公表しない方もいるようだが、わたくしは王女として産まれた上に祝福を受けた時に洗礼名もいただいた。その事は国内外に広く伝えられ、わたくしが聖職者の道を選ぶきっかけにもなった出来事のひとつだ。
自ら言うことは憚られるが、侍女長になるような人物が他国とはいえ王女を蔑ろにすることも有り得ないが、知っていて祝福の子を雑に扱うような行為は異教徒だと言っているのと変わりがない。
侍女と今後の話をしていれば、扉がノックされる。
「ナルシア様、謁見の間までお越しくださいとのことです」
どうやら呼び出しがかかったようだ。
わざわざ謁見の間を選ぶあたり、立場を護りたいらしい。
「わかりました。向かいましょう」
案内をしてくれるのは、昨日とは違う侍女だった。同じだったら嫌味のひとつでも言ってやろうかと思っていたのに。
弱いものいじめの趣味はないが、仕事をしないものには叱責が必要だ。
長々と歩かされてようやく着いたのは、相変わらず趣味の悪い装飾が施された扉の前だった。
扉の前の護衛騎士達に睨まれるまではいかなくても威圧をされるが、そんなものは気になどせず。軽く会釈をすれば、驚いたように目を見開かれる。顔は覚えた。
そのまま、扉が開かれるとこの国の中枢を担う方々が列席していた。侍女長と思われる者も壁側に控えていた。
第一印象は大事だ。
笑顔を貼り付け、堂々と絨毯の上を進む。
王座の目の前で止まり、淑女の礼をとる。
「テンダリウム王国第二王女、ナルシア・ラヴァストーレ・テンダリウムですわ」
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